寅さん全48作品解説/第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』

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寅さんとジュリーの三角関係

記念すべき第30作は当時のスター沢田研二をゲストに迎えた華やかな作品。寅さんが若い男女の恋愛指南役を務める「コーチもの」作品だが、寅さんを巻き込んでほのかな三角関係が成立している点が本作のポイント。田中裕子とジュリーの気持ちが入ったラブシーンも楽しめる、堂々たる恋愛喜劇映画である。

マドンナ/田中裕子

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役名:小川螢子(デパート店員)
鼻にかかった甘い声と、猫のように男にしだれかかる仕草さを見れば、寅さんが惚れてしまうのも無理はないと思わせる実に魅力的なマドンナ。無邪気に振りまかれる彼女の色香こそが、本作の「三角関係」を支えている重要な要素なのである。

第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』評論

寅さんVSジュリーの三角関係が肝!「コーチもの」の最高傑作

記念すべき第30作『花も嵐も寅次郎』は、当時絶大な人気を誇ったスター沢田研二をゲストに迎えた華やかな作品だ。寅さんが若い男女の恋愛キューピッドを務める「コーチもの」はシリーズに何作かあるが、もっとも出来がいいのが本作である。

寅さんシリーズにおけるコーチものの難しさは、物語のバランスの保ち方にある。若い男女の恋愛に寄り過ぎると寅さんの魅力が失われ、寅さんに寄り過ぎると若い男女がただの添え物になってしまう。本作はその問題を回避するため、寅さんと若い男女の間にほんのりとした「三角関係」を成立させることで物語のバランス、そしてテンションを最後まで維持することに成功している。

三角関係という設定に懸念があるとすれば、初老とも言える年齢に差し掛かった寅さんが、ひとまわり歳が離れた若い娘に恋をすることの現実性にある。しかし、マドンナに田中裕子を配することでその懸念はうまく解消されている。劇中でも「不思議な色気がある」と評される彼女のコケティッシュな魅力は、寅さんが惚れてしまうのも無理はないと観客に思わせ、恋にリアリティを生んでいる。本作の成功にもっとも貢献しているキーパーソンは、三角関係の頂点を担うマドンナ田中裕子だといって間違いないだろう。

三角関係のもう一方、三郎青年演じる沢田研二と田中裕子の気持ちの入った恋愛模様も見どころだ。特にクライマックスのキスシーンは、ムードのない退屈な話かと見せかけ、実は愛の告白だったという脚本が洒落ている。二人は本作の共演をきっかけに8年後に本当に結婚をするのだが、かような逸話の存在もファンの関心をそそる作品である。

物語の終盤、寅さんは三郎青年の恋愛を成就させられなかった負い目から旅に出ようとするが、その恋が実った報せを人づてに聞き、この時はじめて自分の恋心に気がつくのである。去り際の捨てゼリフ「二枚目はいいなあ。少し妬けるぜ」は、そんな寅さんの胸の内が垣間見える一言で、聞かされたさくらは驚きと哀れみから掛ける言葉もないまま立ち尽くす。

若い男女の幸せな結末に、寅さんのビターな恋の顛末が重なり、三角関係の幕切れは寅さん映画でしか体験し得ない泣き笑いのカタルシスをもたらす。本作はシリーズ歴代3位の観客動員を誇る好成績の1本だが、キャストの豪華さに加え、作品の良さゆえにその成績にも納得がゆく。30作という節目を飾るに、ふさわしい作品と言えるだろう。

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第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』作品データ

公開 1982年(昭和57年)12月28日
併映 『つっぱり清水港』(中村雅俊)
観客動員 228万2,000人
マドンナ 田中裕子
ゲスト 沢田研二/殿山泰司/朝丘雪路
洋題 Tora-san, the Expert

      2016/11/20

 - 男はつらいよ作品紹介