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寅さん全作品解説/第18作『男はつらいよ寅次郎純情詩集』(1976年12月公開)

男はつらいよ 寅次郎純情詩集〈シリーズ第18作〉 4Kデジタル修復版 [Blu-ray]
本作をひとことで言うと

シリーズ唯一の悲劇的作品

シリーズ唯一マドンナが亡くなってしまう悲劇的作品。人の死を扱う作品ながらその瞬間を大胆に省略し、残された人々に焦点を当てることで深い感動をもたらす演出手腕は流石。「人はなぜ死ぬの?」というマドンナの問いに、全力で道化を演じる寅さんの奮闘努力が涙を誘う。演出の冴えが極みに達した名作。

マドンナ

京 マチ子(当時 52歳)

役名:柳生綾
職業:無職

「あ~ら」「ま~あ」「おほほ」など、独特なセリフのイントネーション、芝居がかった身のこなしはこれぞ昭和女優といった印象。当時すでに大御所の部類に入っていたと思うが、作中で「デメ金」呼ばわりしてしまう山田洋次のチャレンジ精神に感服してしまう。

第18作「男はつらいよ寅次郎純情詩集」評論

死と離別の悲しみを慎ましやかに描いた名作

第18作『寅次郎純情詩集』はシリーズで唯一マドンナが亡くなってしまう悲劇的作品だ。

作劇をドラマティックにするため安易に死を持ち出す物語が氾濫する中、死と離別の悲しみをここまで慎ましやかに美しく描いた作品は、日本映画史を紐解いても他にほとんど例がないのではないか。70年代寅さんはいずれも傑作揃いだが、本作はその中でもとくに深く心に沁み入る名作といえる。

マドンナ綾(京マチ子)は、かつて隆盛をほこった一族の令嬢。破産寸前の一族のために望まない結婚を強いられ、あげく晩年には不治の病に冒されるという悲運の女性である。

彼女が余命幾ばくもないことを知るのは、マドンナの娘・雅子(檀ふみ)とさくらの二人のみ。寅次郎はもちろん、本人ですら序盤はそのことを知らない。とらやでの団欒シーンに顕著だが、マドンナの命の限りを知る者と、何も知らず無邪気に振る舞う者たちの対比により、今を生きることの尊さを鮮やかに描き出す脚本・演出は見事としかいいようがない。

本作最大の見どころは、薄幸なマドンナに捧げられる、寅さんの涙を誘う奮闘努力だ。

今回の寅さんは旅先で無銭飲食をはたらき、勾留先の警察でのびのび逗留するなど、いつにも増して厚かましすぎる非常識な人物として描かれる。しかし、作品後半ではこの厚かましさが粗野ながら純度の高い献身へと転化し、マドンナへ無償の愛として注がれるのだ。

死期を悟ったマドンナの「人はなぜ死ぬの?」という根源的な問いかけには、全身全霊をかけた道化を演じ、綾に最後の安らぎと笑顔をもたらす。やがて綾を喪ったあと、いつかみんなで語り合った「綾が元気になったらどんなお店を開くのがいいか?」という夢のつづきを、ひとり考え続けていたことを告白するシーンは涙を誘う。さくらの涙ぐむ表情と、冬の長い陽につつまれた青空が印象的なこのシーンは息を呑むほどに美しい。

人の死を扱う作品でありながら死の瞬間をあえて省略し、残された人々に焦点を当てることで、喪失にともなう悔恨と人を想う心の美しさを描き出すことに成功している本作。

男はつらいよシリーズ作品の中から監督賞を選ぶとすれば、間違いなく候補の筆頭に挙がる作品である。山田洋次の演出力が極みに達した作品のひとつといえるだろう。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第18作「男はつらいよ寅次郎純情詩集」 作品データ

公開1976年(昭和51年)12月25日
上映時間103分
主な出演者【車寅次郎】渥美清
【諏訪さくら】倍賞千恵子
【柳生綾】京マチ子
【柳生雅子】檀ふみ
【車竜造】下條正巳
【車つね】三崎千恵子
【諏訪博】前田吟
【桂梅太郎】太宰久雄
【源公】佐藤蛾次郎
【満男】中村はやと
【御前様】笠智衆
【板東鶴八郎】吉田義夫
【大空小百合】岡本茉莉
【柳生家の婆や】浦辺粂子
【啖呵売をのぞくお巡りさん】永六輔
同時上映おとうと(郷ひろみ)
観客動員数172万6,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora’s Pure Love

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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