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寅さん全作品解説/テレビドラマ版『男はつらいよ』

本作をひとことで言うと

寅さん、ハブに噛まれて死ぬ

本作はテレビドラマ版「男はつらいよ」の第1話と最終話を収録したDVDである。最終話において寅さんは「ハブに噛まれて死ぬ」という衝撃的な最期を迎えるが、この結末には視聴者からの抗議が殺到。これを受けて、映画版「男はつらいよ」が製作されることになった。寅さんシリーズのファンならば一度は観ておきたい作品。

マドンナ/佐藤オリエ

役名:坪内冬子

記念すべき最初のマドンナは女優・佐藤オリエ。彼女は後の映画『続・男はつらいよ』(第2作)でも同じ役どころで出演している。

テレビドラマ版「男はつらいよ」評論

愛好家なら一度は観ておきたい「テレビ版寅さん

フジテレビにより製作されたテレビドラマ「男はつらいよ」は、1968年から1969年にかけて全26話が放送された。しかし、残念ながら映像が現存するのは第1話と最終話のみ。この2話に、山田洋次監督をはじめとする関係者へのインタビューを加えてパッケージ化したものが本DVDである(本編77分+特別映像26分)。

ドラマ版の寅さんは映画版の寅さんとは違い、まるで狂犬だ。声がデカく、押しが強く、とにかくアグレッシブ。一般人への因縁付け、チンピラとの一触即発など、映画版にはなかった暴力の香りまで漂っている。

ドラマ版の製作方式は映画とは大きく異なり、役者たちがシーンの最初から最後まで通しで芝居を行い、その様子を複数台のカメラで撮影するスタジオドラマ方式が採用されていた。別撮りやブツ切りがないため、まるで舞台演劇のようなライブ感、テンポの良さが生まれている。渥美清のアドリブと思われるセリフも時折見受けられ、浅草フランス座のコントで無双していた頃の渥美清は、きっとドラマ版寅さんのような感じだったのではないかと想像させる。

本DVDの見どころはなんと言っても、寅さんがハブに噛まれて死んでしまう衝撃のラストだろう。この前代未聞の結末が映画「男はつらいよ」成立のきっかけとなったのは有名な話だ。ドラマ版の最終話と、映画版の成立について簡単に触れておく。


妹・さくら(長山藍子)の結婚、そして、マドンナ・冬子(佐藤オリエ)への失恋がきっかけとなり、寅さんは忽然と葛飾柴又から姿を消した。さくらとおばちゃんが寅さんの噂話をしていると、寅さんの舎弟・裕次郎(佐藤蛾次郎)が、緊張の面持ちで二人の元を訪ねてくる。「わて、アニキと一緒にいました」と話す裕次郎。ここから彼の回想シーンが始まる。

寅さんと裕次郎の行く先は鹿児島県の奄美大島。島に生息するハブを捕まえて、一儲けしようと企んだのだ。裕次郎を引き連れて、意気揚々と藪の中に分け入っていく寅さんだったが、突然現れたハブに腕を噛まれてしまう。

一瞬にしてパニックに陥る寅さんと裕次郎。「裕次郎!そのドスでもってな、俺の腕を根本から切り落とせ!」「早くしないと毒が回って死んじゃうぞ!」。先程までの陽気な雰囲気から一転、緊迫感のある演技、演出が続く。

「チクショウ、毒が口の中にまで回ってきやがった」「俺の体中ヘビの毒だらけだ。お前を噛んだら俺が毒ヘビだ」「お前がぼんやりしてるばっかりに……このドイツの鉄カブト!馬鹿野郎!」。寅次郎は冗談交じりに裕次郎を責めるが、とても笑える雰囲気ではない。そのままカメラは、脂汗を垂らしながらゆっくりと生気を失っていく寅次郎の姿を映し続ける……。


こうして、寅さんはあっけなく死んでしまうのである。主人公のあまりに唐突すぎる死。しかもそれが回想シーンで、事後報告として片付けられてしまうのだからたまらない。おばちゃんは「悪い夢を見ているようだよ」とこぼすが、視聴者の誰もが同じ気持ちを抱いたに違いない。

寅さんの一挙手一投足を毎週楽しみにしていた視聴者は、愛する寅次郎がこんなにもぞんざいな扱いで殺されてしまったことに計り知れないショックを受けただろう。案の定、最終話の放送直後から、フジテレビには抗議の電話が殺到し、投書が山のように寄せられたという。

最終話の脚本を担当した山田洋次は、視聴者の怒りの反響を受けて、所属する映画会社・松竹の上層部に映画版「男はつらいよ」の企画を提案する。一度放送されたテレビドラマの映画化に難色を示す声は多かったが、当時の松竹社長・城戸四郎の鶴の一声で映画版「男はつらいよ」の製作が決定する。

こうして、ドラマ版の放送終了から5か月後の1969年8月27日、映画「男はつらいよ」第1作が公開された。ハブに噛まれて無残な死を遂げた車寅次郎は、スクリーンで見事な復活を遂げたのである。


以上が、映画「男はつらいよ」誕生の経緯である。その後、寅さん映画が昭和・平成・令和の3つの時代にかけて、第50作まで続く長寿シリーズになったことは周知の事実である。

映画「男はつらいよ」シリーズの愛好家には、この「原初の寅さん」を一度は鑑賞しておくことをお薦めしたい。渥美清の演技、テンションの違いや、テンポやカメラワークといった演出方法の違い、また、妹・さくらを別の俳優を演じることで作品の味わいにどのような変化が生まれているかなど、比較による気づきは数多い。

ドラマ版寅さんは、映画「男はつらいよ」シリーズの魅力、面白さを、さらに奥深いものにしてくれることだろう。

なお、ドラマ版「男はつらいよ」の製作舞台裏は、寅さんの舎弟・登を演じた秋野太作(当時・津坂匡章)の著作「私が愛した渥美清」に詳しい記述がある。若き日の渥美清と多くの時間を過ごした秋野氏ならでは渥美清評伝は実に面白く、渥美清ファンには強くお薦めしたい。

また同書には、なぜドラマ版寅さんはハブに噛まれて死ななければならなかったのか、その真相について秋野氏の独自考察があり、こちらも大変興味深い。詳しい内容はぜひ書籍でご確認いただきたい。

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