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寅さん全作品解説/第47作『男はつらいよ拝啓車寅次郎様』

本作をひとことで言うと

シリーズ最終作に向けた「寅さんの教え」

人妻マドンナとのほのかな恋模様を描く第47作。元気のない寅さんに一抹の寂しさを覚えるが、後期ならではの静謐な味わいを持った作品に仕上がっている。「この鉛筆を俺に売ってみな」「燃えるような恋をしろ」──満男に授けられた“寅さんの教え”に着目すると作品をより深く味わえる。

マドンナ/かたせ梨乃

役名:宮典子(写真が趣味の主婦)

鎌倉の瀟洒な邸宅に住む主婦ながら、ひとり写真撮影旅行に出かけるなどアクティブな趣味を持つ。脱臼した腕を治すシーンでは、着衣越しのグラマラスな肢体が拝める(たぶんサービスカット)。

第47作「男はつらいよ拝啓車寅次郎様」解説・評論

“寅さんの教え” シリーズ最終作に向けた、寅次郎渾身のバトン

渥美清のガンは悪化し、第47作『拝啓車寅次郎様』では、いよいよ私たち観客の目にも寅さんの“異変”が認められるほどになった。弾まない物語の背景には渥美清の体調不良を理由にした脚本の修正があったに違いなく、演技においても物語においても、見どころの少ない低調な作品、というのが本作の一般的な評価ではないだろうか。

しかし、物語の最終盤、寅さんが満男に授けた“ある教え”に着目すると、この作品が寅さんシリーズの終焉に向けて、極めて重要な役割を果たしていることに気がつく。ぜひその点に注目しながら本作をご覧いただきたい。

今回の寅さんは、琵琶湖の湖畔で人妻マドンナ・典子(かたせ梨乃)に出会う。「もう夫を愛していない」と言う彼女。そこに不幸の匂いを嗅ぎ取った寅さんは、彼女のその後が気になって仕方がない。しかし、旅先から戻った日常でマドンナの幸せそうな姿を見ると、寅さんの後ろ髪ひかれるような想いは見事に霧消してしまう。

やけに淡泊な寅さんだが、あとに続くセリフを聞けば合点がいく。寅さんがマドンナに会いに行ったのは、彼女に恋をしていたというより、寅さんの信念──男と女、お互いが好きになろうと努力すれば、どんな困難も乗り越えられる──が正しいことを確かめるためだったのだろう。車窓からマドンナを見つめる寅さんの瞳は、まるで愛を説く宗教者のように優しく光っていた。

さて、本記事冒頭に記した満男への“ある教え”とは、このほのかな恋物語の後に授けられる。満男は大学の先輩の妹・菜穂(牧瀬里穂)との恋が終わったばかり。「くたびれるもんな、恋するって」。満男がそうぼやくと、寅さんの表情が瞬時に強張る。

「お前まだ若いじゃないか。燃えるような恋をしろ。大声出して、のたうち回るような、恥ずかしくて死んじゃいたいような恋をするんだよ」。

最終作における満男の恋の顛末を知った上でこの場面に立ち戻ると、寅さんの発言はシリーズの結末を方向付ける、極めて重要なものであったことに気がつく。満男が後の第48作「寅次郎紅の花」で取る行動は、まさに大声を出してのたうち回る無様なもので、寅さんの教えに忠実に従ったものである。若き満男に授けられた寅さんの教えは、いわば、シリーズの大団円に向けた寅次郎渾身のバトンなのであった。

社会を知り、失恋を知り、少し大人になった満男は、寅さんの教えを積極的に自分のものにしようと努力している。一方の寅さんも、そんな満男の変化をしっかりと感じとっている。

「お前もだんだんわかってきたな」──。夕闇に包まれたくるまやの二階、静かに語らう二人の間に流れる師弟の情は、実に美しいものであった。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第47作「男はつらいよ拝啓車寅次郎様」作品データ

公開1994年(平成6年)12月23日
上映時間101分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[諏訪満男]吉岡秀隆
[宮典子]かたせ梨乃
[宮典子の夫]平泉成
[川井奈穂]牧瀬里穂
[川井信夫(奈穂の兄)]山田雅人
[光陽商事の専務(満男の上司)]すまけい
[小林さち子]小林幸子
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[ポンシュウ]関敬六
[三平]北山雅康
同時上映釣りバカ日誌7(西田敏行)
観客動員数217万6,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san’s Easy Advice

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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