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寅さん全作品解説/第7作『男はつらいよ奮闘篇』(感想・評論・あらすじ・出演者)

本作をひとことで言うと

優しく温かい、シリーズの隠れた名作

見返りを期待しない無償の優しさが、喜劇のオブラートに包まれてほっこりと展開される第7作。知的障害を持つマドンナという設定に妙があり、寅さんの憐憫の情がやがて恋心に転化していく展開はお見事。「キャストも地味で目立たないが好きな作品」と山田監督自身も評価する、シリーズの隠れた名作。

マドンナ/榊原るみ

役名:太田花子(紡績工場勤務)

映画出演2作目ながらマドンナに抜擢された榊原るみ。当時20歳。軽度の知的障害という難しい役どころをしっかりとこなしている。

目次

第7作「男はつらいよ奮闘篇」感想・評論

優しいまなざしに溢れたシリーズの隠れた名作

第7作『男はつらいよ奮闘篇』は、マドンナ(榊原るみ)に軽度の知的障害があるという、他の作品とは一風変わった設定である。

男はつらいよ人気作品ランキングにはあまり登場しない本作だが、作家の井上ひさしは山田洋次との1974年の対談で、この『奮闘篇』を一番感動した作品と言っている。それを受けて山田洋次も「あれはキャストも地味でめだたない作品でしたけど。そうですか。ぼくも好きなんですよ、あれは」と述べている(『映画をたずねて 井上ひさし対談集』132pより)。

映画は集団就職で上京する若者たちを、両親が心配そうに見送る風景からはじまる。エキストラはすべて本当の親子たちだったそうだが、そのリアルな風景の中に寅次郎がびっくりするほどハマる。「がんばれよお!」とエールを贈り、微笑ましく映画は幕を開ける。

知的障害を持つマドンナ花子は、郷里の青森に帰りたいが迷子になっている。その不憫な姿を見るに見かねた寅さんは、おまわりさんと協力をして彼女を故郷に送り届けようとする。駅のホームを心細く歩く花子を、もどかしく見つめる寅さんの気持ちが胸を打つ。

やがて花子はとらやに保護され、青森から担任教師が彼女を迎えにくる。教え子を想う純朴な人柄を田中邦衛が好演し、二人の再会もこれまたしっとりと泣かせる。

見返りを期待しない無償の優しさが、喜劇のオブラートに包まれて展開される本作は実に優しく、温かい。知的障害を持つマドンナへの優しいまなざしに満ちあふれており、心をほっこりと温めてくれる作品となっている。

さて、マドンナ花子の保護者的な立場を取っていた寅さんは、やがて花子の純粋無垢な振る舞いにほだされ、憐憫の情がしだいに恋心へと転化していく。知的障害者とフーテンの蕩児の縁組は、とらや一同にとって実に頭の痛い組み合わせであるが、肝心の寅さんはまるで幼子が幼子に恋焦がれるかのように花子との結婚を夢見ている。

これが本当の幼子であれば微笑ましい限りだが、寅さんは四十に手の掛かったいい大人である。寅さんの行き過ぎた純真さに、イタさと不憫さが同時に胸に去来する脚本展開はお見事。そんな困った兄貴を遠く青森まで追いかけ、最終的には茶目っ気たっぷりの笑顔で許さざるを得なくなってしまったさくらの笑顔も実に印象深い。

派手さにはかけるが、暖かい陽だまりのように心を温めてくれる作品であり、男はつらいよシリーズにおける隠れた名作といえるだろう。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第7作「男はつらいよ奮闘篇」作品データ

第7作「男はつらいよ奮闘篇」 予告編

第7作「男はつらいよ奮闘篇」 あらすじ

寅さんこと車寅次郎(渥美清)は旅をしていた。駅のホームで汽車を待っていると、そこに東京のおもちゃ工場へ集団就職する学生たちと見送りの家族がいた。彼らを激励し、走り去る汽車を見送っている時、寅さんはふと気付く。「あ!俺もあの汽車乗るんだ!」。こうして物語は幕を開ける。

ある日、寅さんの母親・お菊(ミヤコ蝶々)がとらやにやってきた。お菊は1年前、寅さんから所帯を持つとの報せを受け、その顛末が気になっていたのだ。しかし、寅さんが相変わらず独身で、今も旅の途中とわかると、がっかりして滞在先の帝国ホテルに帰っていった。

お菊が帰った後、とらや一同が寅さんの帰郷に備えて出迎えの予行練習を行っていると、そこに寅さんが帰ってきた。とらや一同からお菊に会いに行けと強く勧められた寅さんは、翌日、さくらの付き添いを得て、渋々お菊に会いに行くことにした。

ホテルの部屋に着くなり、子供のようにはしゃぐ寅さん。呆れたお菊が、いつまで独り身でいるつもりか!と寅さんをなじると口論が勃発。怒った寅さんは、「嫁探しに行ってくる」と言い残して旅に出ていってしまった。

静岡県の沼津に着いた寅さんは、派出所で泣いている女の子を見かけた。彼女は青森出身の太田花子(榊原るみ)。軽度の知的障害があり、集団就職で上京後、悪い奴に騙されてバーで働かされていたところを警官(犬塚博)に保護されたのである。

寅さんと警官は花子を青森に帰すことを決め、駅まで見送るが、花子は青森までの乗り換えが理解できない。困った寅さんは、もし迷子になったら葛飾柴又のとらやを訪ねなと言い、手書きのメモを渡した。やがて花子は一人たどたどしい足取りでホームに向かっていった。

一夜明け、花子の事が気になって仕方がない寅さんは、サングラスとつけ髭で変装をしてとらやの様子を見に行った。するとそこには花子がいた。花子は結局青森にたどり着けず、寅さんのメモを頼りにとらやにやってきたのだった。寅さんは花子の面倒をとらやで見ることを提案し、花子の仕事先を探してやるなど、彼女の保護を買って出た。

さて、寅さんの花子に対する憐憫の情は、次第に恋心へと転化していく。ある日、花子の放った「私、寅ちゃんの嫁っこになるかな」の一言がきっかけで、寅さんは花子と所帯を持つことを決意する。とらや一同の心配をよそに、結婚に向けた寅さんの行動は次第にエスカレートしていくのだった。

しかし、寅さんの幸せな日々は長くは続かない。とらやから連絡を受けた花子の恩師・福士先生(田中邦衛)が青森から上京し、花子を引き取りに来たのだ。福士先生はすぐ青森に引き返さなければならない事情があり、寅さんが不在の間に福士先生と花子は青森へ帰ってしまう。到底納得ができない寅さんは、花子を追いかけるようにとらやを飛び出していった。

数日後。青森の西津軽局から速達葉書が届く。差出人は寅さんだ。「俺のような馬鹿は生きていても仕方がない。花子も元気にしていたし、俺はもう用のない人間だ」。遺書を思わせる文面に不安を感じたとらや一同は、早速さくらを青森に向かわせることにした。一夜明け、花子の故郷に着いたさくらは、小学校の手伝いとして元気に働く花子の姿を見た。福士先生によると、寅さんもここを訪れ、花子に会った後、すぐ旅に出ていったという。

寅さんの行方がわからず、さくらが暗い顔をしてバスに揺られていると、停留所から乗り込んだ乗客の中になんと寅さんがいた。さくらが遺書のような葉書のことについて問い詰めると、寅さんは「死ぬわきゃねえよな!」と悪びれる様子もなく笑った。そんな兄の無邪気な笑顔に、さくらは大いに呆れつつも、安堵のため息をつくのだった。

雄大な岩木山のふもとを走る路線バスを遠景に映しながら、物語は幕を閉じる。

第7作「男はつらいよ奮闘篇」作品データ

公開1971年(昭和46年)4月28日
同時上映花も実もある為五郎(ハナ肇)
観客動員数92万6,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san, the Good Samaritan
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