寅さん全48作品解説/第6作『男はつらいよ純情篇』

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寅さん、故郷を思う

前作の成功で本格的にシリーズ化へと歩み出した第6作。森繁久彌と渥美清の共演は一瞬だが、名優の競演は作品に強い印象を残す。寅とさくら、柴又駅での別れはシリーズ中もっとも泣かせるもので、こちらは倍賞千恵子の名演が光る。葛飾柴又の日常を中心とした控えめな脚本ながら、名優の活躍で要所はしっかりと押さえている佳作。

マドンナ/若尾文子

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役名:明石夕子(おばちゃんの遠縁)
大映のスター、若尾文子(わかおあやこ)がマドンナに登場。和服の美しさを最大限に引き出す艶やかな所作には思わず唸るばかり。寅さんがどう逆立ちしたって落とせっこない、まさに高値の花。お美しや。

第6作「男はつらいよ純情篇」評論

森繁久彌を筆頭に、名優たちの競演に酔いしれる第6作

山田洋次がシリーズ完結のつもりでのぞんだ前作『望郷篇』は大ヒット。この結果を受けて松竹は「男はつらいよ」を本格的にシリーズ作品として打ち出す決断をする。

当時を振り返る山田洋次の言葉。

 <じゃ、五作目でお終いということで、もう一回だけ僕が作るって撮ったら、やっぱり思いがこもるんじゃないでしょうか。とても力のあるものができて、ドーッとお客が増えて、それでやめられなくなっちゃった(笑)>(『おかしな男』小林信彦 308p)

こうして製作された第6作『純情篇』は、前作でほぼ出来上がった作品のフォーマットにのっとり展開される。寅さんは旅先で威勢よく商売に励み、源ちゃんは寺坊主または柴又の情報屋として暗躍、そして美しいマドンナ(若尾文子)は心に悩みを抱えている。あとに続く作品の定番となる要素がここに完成するのだ。

前作の寅さんは次から次へと葛藤を乗り越えたが、シリーズ化を意識したと思しき本作ではエピソードを詰め込まず、柴又の日常を寅次郎の愉快な振る舞いでもたせており、若干の出し惜しみすら感じさせる。

しかし、力加減を調整していたとしても、シリーズ化による様式美と、要所をおさえた作品づくりで、及第点を軽く超える作品に仕上がっている。その要所というのが、ひとつは名優・森繁久彌と渥美清の競演を中心とする映画冒頭部分。もうひとつが寅次郎とさくらによる、柴又駅での美しい別れのシーンだ。

映画冒頭。ひとり旅を続ける寅次郎は、幸薄げな子連れの女と出会い、故郷への里帰りを共にする。渥美清と宮本信子の抑えた演技は哀愁に満ちたロードムービーといった風情で、心を掴まれる。つづく渥美と森繁の共演はほんの束の間であるが、その道の達人同士は刀を合わせずとも対峙する構えだけで魅せてくれる。もっと見たいなあ!と思うところでシーンは終了。ここまでが映画の導入部分。

そして終盤。寅次郎とさくらは幼き日の思い出をたどりながら、柴又駅で涙の別れをする。シリーズ中、二人は何度も同じ別れを繰り返すのだが、幼年期のエピソードとともに、さくらの寅次郎への想いがもっとも強く溢れ出すのが本作での別れ。こちらでは倍賞千恵子の名演が光る。

思わず涙がにじむこのシーンと、冒頭部分が強く印象に残る第6作『純情編』。とくに冒頭部分は何度見ても、いや見れば見るほど心に沁み入る、味わい深い名場面だ。

<5作「望郷篇」 トップ 7作「奮闘篇」

第6作「男はつらいよ純情篇」作品データ

公開 1971年(昭和46年)1月15日
併映 やるぞみておれ為五郎(ハナ肇)
観客動員 85万2,000人
マドンナ 若尾文子
ゲスト 森繁久彌/宮本信子/松村達雄
洋題 Tora-san's Shattered Romance

      2017/04/24

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