寅さん全48作品解説/第16作『男はつらいよ葛飾立志篇』
寅さん、向学心に燃える
寅さんが学問の道を志す第16作。無学ながら本質を突いた言葉でインテリを感化してしまうくだりは痛快の面白さ。伊達メガネに至っては爆笑必至。寅さんの喜怒哀楽を豊かに描くテンポのよい脚本を得て、渥美清の至芸はいよいよ冴え渡る。ユーモアとペーソスの押し引きも実に巧みな、シリーズ中期の名作。
マドンナ/樫山文枝
役名:筧礼子(大学の考古学研究室助手)
世間ずれしていない暖かな雰囲気のマドンナ。恩師・田所教授へのお世話ぶりや、寅さんへの優しい態度を見るに、男ウケがかなりいいタイプなのでは。樫山文枝の父は大学教授、祖父はあのオンワード樫山の創業者だというから、本作の役柄に近い育ちの良さである。
第16作『男はつらいよ葛飾立志篇』評論
渥美清の奔放な演技を堪能できる、隠れた名作
第16作『葛飾立志篇』は、男はつらいよ人気投票における上位の常連作品ではない。むしろ、名作の評価高い15作目『相合い傘』と17作目『夕焼け小焼け』の間に挟まれた、少し地味な作品として記憶されている方も多いだろう。
しかし、本作は中期作品群の中でもかなり完成度の高い作品で、個人的には前述の二本に引けをとらない傑作だと考えている。
本作は寅さんを中心に展開していくエピソードが非常に多く、寅さんの喜怒哀楽がいかんなく表出される作品である。つまり、渥美清が持つ豊富な演技の引き出しの中から、様々な技がこれでもかと繰り広げられるのだ。男はつらいよの凄さ、面白さを、第一に主演・渥美清においている人にとって、本作は心ゆくまで彼の芸を堪能できる作品である。
今回の寅さんは、自身の無学を嘆き一念発起、学問の道を志す。きっかけは、寅さんを実父だと思いとらやを訪ねてきた少女(桜田淳子)と、その母であり寅さんのどん底時代を救った恩人・お雪さんの人情話。寅さん版「あしながおじさん」ともいえる心を温めるエピソードで、導入としては申し分ない。
その後、学問を志す寅さんの前に現れるのが、大学教授助手のマドンナ礼子(樫山文枝)と、その師である田所教授(小林桂樹)だ。無学でバカだともっぱら評判の寅さんが、物の道理をわきまえた簡潔な言葉でインテリ二人を見事に感化してしまうくだりには、痛快さを伴う面白さがある。
爆笑必至なのは「頭がいい=メガネ」という短絡すぎる思考が生み出した、寅さんのインテリメガネ姿。これはぜひ本編をご覧頂きたいが、御前様のマネをしながら、メガネ姿を笑う源公を「達磨じぇんし!」と叫んで蹴飛ばすシーンは無類のおかしさである。
アドリブによる言い回しの妙など、細かなものまで上げ出したらキリがないが、縦横無尽に繰り広げられる渥美清の芸を心ゆくまで堪能できるのが本作品最大の魅力である。
テンポのよい脚本には、要所要所できっちりと”泣き”の要素も押さえられており、ユーモアとペーソスの押し引きも実に巧み。極めつけは、どでかい富士山をバックに寅さんと田所教授が旅を続けるラストシーン。
哀しみのあとに訪れる晴れやかな後味はシリーズ独特のもので、やっぱり『男はつらいよ』はこうでなくっちゃ!と再認識させられる大満足作品である。
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第16作「男はつらいよ葛飾立志篇」作品データ
公開 | 1975年(昭和50年)12月27日 |
併映 | 正義だ!味方だ!全員集合!(ザ・ドリフターズ) |
観客動員 | 213万1,000人 |
マドンナ | 樫山文枝 |
ゲスト | 小林桂樹/桜田淳子/大滝秀治 |
洋題 | Tora-san, the Intellectual |
2017/04/25