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「 “寅さん”じゃない渥美清の熱演・怪演が楽しめるテレビドラマ4作品」【評論】山田洋次×渥美清 TBS日曜劇場傑作選 4作品DVDボックス

目次

“寅さん”じゃない渥美清の熱演・怪演が楽しめるテレビドラマ4作品

「TBS日曜劇場」は、1956年の放送開始から現在も続いているドラマ枠。今では「半沢直樹」などの連続ドラマを放送しているが、以前は1話完結のドラマを毎週放送していた。この1話完結時代に放送された、脚本・山田洋次×主演・渥美清の4作品を収録したものが本DVDボックスである。

収録作品は以下の通り。

  • あにいもうと(1972年)
  • 放蕩一代息子(1973年)
  • 放蕩かっぽれ節(1978年)
  • 倅(せがれ)(1979年)

参考までに、寅さんシリーズでいうと、どの作品の頃に該当するかも記しておこう。

あにいもうと(1972年)第9作 柴又慕情(1972年8月5日)
第10作 寅次郎夢枕(1972年12月29日)
放蕩一代息子(1973年)第11作 寅次郎忘れな草(1973年8月4日)
第12作 私の寅さん(1973年12月26日)
放蕩かっぽれ節(1978年)第21作 寅次郎わが道をゆく(1978年8月5日)
第22作 噂の寅次郎(1978年12月27日)
倅(1979年)第23作 翔んでる寅次郎(1979年8月4日)
第24作 寅次郎春の夢(1979年12月28日)

本DVDボックスには、現代劇の2作品「あにいもうと」「倅」、時代劇の2作品「放蕩一代息子」「放蕩かっぽれ節」が収録されている。個人的には、現代劇の2作品がとても印象深く、寅さんファン、渥美清ファンにぜひお薦めしたいと思った次第である。

現代劇2作品における渥美清の演技は、正直言ってほぼ寅さんである。しかし、マドンナやゲスト俳優など、寅さん以外の人物にもフォーカスを当てる「男はつらいよ」シリーズと違い、「あにいもうと」「倅」は主人公(渥美清)の心情変化にぐっとフォーカスを当てている。ドラマ内の時間推移とともに、主人公の心模様はグラデーションを描くように変化していくが、その移り変わりを渥美清が微細なタッチで見事に演じ分けているのだ。その結果、ドラマの冒頭から終盤にかけて、じわりじわりと主人公への共感が増していき、作品観了後には渥美清の演技の良さがしみじみと心に残る。

「男はつらいよ」シリーズでも、渥美清は寅さんの心情を巧みに演じ分けているが、それは案外、断続的、散発的なものであったりする。例えば、寅さんは家族と喧嘩をして柴又を飛び出すが、次のシーンではもう旅先にいて、喧嘩のあとの後悔や反省などの心の動きはすでに消化し終えている。「あにいもうと」「倅」では、ある心境からある心境へと移り変わる、その間の部分をしっかりと演じて見せてくれるので、いつもの寅さんとは一味違う渥美清の演技を楽しむことができる。

一方、時代劇の2作品「放蕩一代息子」「放蕩かっぽれ節」では、打って変わって“クドい渥美清”が大暴れしている。渥美清が演じるのは、お金持ちの家に生まれた放蕩息子。彼は、自分のことを粋人だと思っており、派手な着物を身に着け、女言葉を使ったりするのだが、これが正直言って薄気味悪い。怪演、と言っても差支えないのではないか。渥美清の大きな頭には時代劇のカツラも不似合いで、輪郭の異様さが目立っている。好き嫌いが分かれるところかもしれないが、私はこの方向性の渥美清はお腹いっぱい……という印象だ。

時代劇2作品はそこまで強くお薦めしないが、現代劇2作品「あにいもうと」「倅」については、寅さんファン、渥美清ファンにはぜひお薦めしたい作品だ。寅さん以外を演じる渥美清を観ることは、寅さんシリーズを、そして、渥美清を、より深く理解する一助になるかもしれない。

最後に、各作品のスタッフ、キャスト、見どころを簡単に解説しておく。

「あにいもうと」見どころ・作品紹介

原作室生犀星
脚本山田洋次
出演渥美清/倍賞千恵子/宮口精二/乙羽信子/岡本茉利/山本聰/岡本信人
音楽木下忠司
演出宮武昭夫
プロデューサー石井ふく子

室生犀星の小説「あにいもうと」をベースにした作品。兄・伊之助役は渥美清、妹・もん役は倍賞千恵子が演じている。倍賞千恵子は、寅さんシリーズのさくらとはまるで別人。ちょっとスレた感じの役をやらせても非常にうまい。

「あにいもうと」はこれまでに何度か映画化、ドラマ化されており、兄と妹の激しい喧嘩シーンが作品の見せ場になっている。普段は寅さんとさくらを演じる二人が、髪の毛を掴みあい、突き倒しあい、激しい口論をするシーンは寅さんシリーズを見慣れたファンにはショッキングなシーンだ。山田洋次監督によると、倍賞千恵子は喧嘩シーンの収録直後に吐いてしまったという。それだけ気持ちのこもった、緊張感のあるシーンとなっている。

渥美清は、作品冒頭から倍賞千恵子に対してキツイ言葉を投げつけまくるのだが、その悪態の奥底に、妹に対する愛情のかけらが見え隠れしている。他の俳優が演じたら、とにかく殺伐とするか、リアリティに欠けるかどちらかだったかもしれない。妹を孕ませた相手に対する、切々とした訴えのシーンも見どころだ。渥美清のならではの良さが存分に出ている伊之助役である。

ちなみに、寅さんシリーズの第28作「男はつらいよ 寅次郎紙風船」では、地井武男と岸本佳代子が激しい兄妹喧嘩をするシーンがあるが、これも「あにいもうと」がベースになっている。また、渥美清の死去により製作中止となった、男はつらいよ幻の第49作は、西田敏行と田中裕子が兄妹役となり、「あにいもうと」をベースにした物語になる予定だったそうだ。山田洋次監督にとって、「あにいもうと」は何度も映像化したくなる重要な作品なのだろう。

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「倅(せがれ)」見どころ・作品紹介

脚本山田洋次・高橋正國
出演渥美清/高野浩之/太宰久雄/大竹恵/乙羽信子/桜井センリ
音楽山下毅雄
演出宮武昭夫
プロデューサー石井ふく子

渥美清が一人息子を持つ父親役を演じている。ある日突然、なんの書き置きも残さずに一人旅に出発してしまった息子。渥美清はその勝手な振る舞いに怒り狂い、周囲にあたりちらすのだが、やがて、息子から絵葉書が届くと、頑なな態度が徐々にほぐれていく。息子への愛情をストレートに表現できない、不器用な父親役を渥美清が好演しており、こちらも渥美清だからこそ表現できる温かみがよく出ている。渥美清をとりまくご近所さんたち(乙羽信子、太宰久雄、桜井センリ)も、渥美清をうまく引き立てている。

本作の終盤、旅に出た一人息子の帰宅を父親が迎えるシーンは、寅さんシリーズ第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」における、満男の帰宅シーンによく似ている。しかし、本作の結末は「ぼくの伯父さん」とは若干異なる。子供たちに置いてけぼりにされる親たち、というラストシーンが予定調和を崩しており、好感が持てる。親とはいつか子供に去られるために存在しているのである。

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「放蕩一代息子」見どころ・作品紹介

脚本山田洋次・高橋正國
出演渥美清/志村喬/江戸家猫八/奈良岡朋子/倍賞千恵子/西村晃
音楽小川寛興
演出宮武昭夫
プロデューサー石井ふく子

作品は、遊郭で豪遊する放蕩息子の描写からスタートする。渥美清は、寅さんシリーズではほとんど見られない踊りも披露している。この踊りがなかなかうまく、渥美清は実に芸達者である。

本作の渥美清は、なよなよっとした女仕草に加えて、「もちりん!」「わかってる~ん」という不思議な言葉を操る。それらの振る舞いと、時代劇のカツラで強調されたおかしな顔&大きな頭がいかにも不釣り合いで、まるで場末のオカマバーのような雰囲気が醸し出されている。そんな息子を叱るのは、いかにも実直でまじめそうな志村喬だ。オカマと真面目なおじさんの組み合わせは、アンバランスを通り過ぎて異様ですらある。

やがてこの放蕩息子は家を飛び出し、最後には河原乞食になってしまう。ボロを身にまとった乞食姿の渥美清を観ていると、どうしても寅さんの夢シーンがフラッシュバックする。落語の世界の映像化は、一筋縄ではいかないものだと感じさせられた。

「放蕩かっぽれ節」見どころ・作品紹介

脚本山田洋次・高橋正國
出演渥美清/柳家小さん/沢田雅美/奈良岡朋子/若山富三郎
音楽小川寛興
演出宮武昭夫
プロデューサー石井ふく子

落語の「らくだ」をベースにした時代劇。この物語は、山田洋次創作落語として小説にもなっている。渥美清はこの作品でもお金持ちの家に生まれた放蕩息子を演じている。「放蕩一代息子」と違い、本作は死人にかっぽれを踊らせるという奇想天外なストーリーなので、渥美清のアクの強い演技も案外作品にハマっている。

気の強いおばちゃん役の杉山とく子、ひたすらうろたえる番頭役の桜井センリ、チョイ役の柳家小さんなど、寅さんシリーズでもお馴染みの俳優たちが物語をにぎやかしている。死体として散々もてあそばれる犬塚博が不憫ではあるが、手足が長くてすんなり棺桶に入らないなど、体躯を活かした死人役はハマっている。山田洋次監督曰く「とてもグロテスクな作品」。

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