マドンナ・リリー初登場
浅丘ルリ子演じる旅回り歌手リリーが登場する11作。リリーと寅さんの相性は抜群で、互いの孤独をなぐさめあう波止場シーンはシリーズ屈指の名場面。リリーの孤独な生き様が物語の中心となるため、寅さんにドラマが少ないのはやや物足りないが、それを補って余りあるほど、寅とリリーの名場面が鮮やかな印象を残す。
マドンナ/浅丘ルリ子
役名:リリー松岡(旅回りの歌手)
当初、浅丘ルリ子は酪農家の奥さん役だったが、「こんなか細い手で農家に見えるかしら」との本人の意見を受けて、山田洋次は「さすらいの歌手リリー」へと役どころを変更。結果これが大当りとなり、リリーは最多4度の出演を果たすマドンナとなった。服装、化粧、ヘアスタイルから漂う「あばずれ」感が最高!
第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」評論
シリーズ屈指の名場面、寅とリリーの鮮やすぎる出会い
第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』には、浅丘ルリ子演じるマドンナ・リリーがいよいよ登場する。リリーは本作含め計4回シリーズに登場、一般的に最も人気のあるマドンナとして知られている。
シリーズこれまでのマドンナは、保母さん、理容師、OLなど、市井に生きる一般女性がほとんどであった。しかし、本作のリリーは場末のキャバレーで歌をうたい、日本全国を巡る旅回りの歌手である。少女時代に家出をして、そのままフーテンになった生い立ちも含め、寅さんの生き方にかなり近いものがある。これまでのマドンナ像とは大きく異なるキャラクターだ。
寅さんとリリーはお互いに旅の途中、北海道の網走で行きずりに出会うことになる。二人の出会いから別れまでは、わずか数分程度の短いシークエンスだが、ここが本作品最大の見どころといっても過言ではない。
「さっぱり売れないじゃないか」「不景気だからな。お互い様じゃねえのか?」。少し恥ずかしげな様子で、リリーが寅さんにかけた一つの言葉から、まさしく打てば響くようにコミュニケーションが弾んでいく。芝居がかった二人の軽妙なやりとりは抜群の相性であり、心地良く見ていられる。
似たもの同士の二人はやがて、暮れなずむ波止場で水面を見つめながら、泡沫のようにはかない自分たちの存在をなぐさめあう。二人は相手の名前すら知らないが、お互いの言葉に共鳴しあい、精神の深い部分で解りあえているように見える。いわゆるソウルメイトと呼ばれる存在がこの世にもしあるとすれば、その出会いの瞬間はこのシーンにおける寅とリリーのごとくであるかもしれない。
演出、セリフ、演技、音楽、ロケーションの寂寥感と、すべてがパーフェクトであるこのシークエンスは、男はつらいよシリーズの中でも、一、二を争う名場面である。人と人との出会いのキラメキを完璧に表現しているこのシーンの美しさは、どれだけの時を経ても変質することはないだろう。
なお、本作は物語の中心にリリーが据えられているため、肝心の主人公である寅さんにはドラマがあまり起きない。マドンナに出会った瞬間から恋愛マシーンと化すギンギンな寅さんを見たいファンには物足りなさも残るかもしれない。
しかし、それを補って余りあるほど、寅とリリーの出会いが鮮やかな印象をもたらす本作。何度でも味わいたい名場面である。

第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」作品データ
第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」予告編
第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」あらすじ
準備中
第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」作品データ
公開 | 1973年(昭和48年)8月4日 |
同時上映 | チョットだけョ全員集合!!(ザ・ドリフターズ) |
観客動員数 | 239万5,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san’s Forget Me Not |