マドンナ・リリー初登場
浅丘ルリ子演じる旅回り歌手リリーが登場する11作。リリーと寅さんの相性は抜群で、互いの孤独をなぐさめあう波止場シーンはシリーズ屈指の名場面。リリーの孤独な生き様が物語の中心となるため、寅さんにドラマが少ないのはやや物足りないが、それを補って余りあるほど、寅とリリーの名場面が鮮やかな印象を残す。
浅丘 ルリ子(当時 33歳)
役名:リリー松岡
職業:旅回りの歌手
当初、浅丘ルリ子は酪農家の奥さん役だったが、「こんなか細い手で農家に見えるかしら」との本人の意見を受けて、山田洋次は「さすらいの歌手リリー」へと役どころを変更。結果これが大当りとなり、リリーは最多4度の出演を果たすマドンナとなった。服装、化粧、ヘアスタイルから漂う「あばずれ」感が最高!
第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」評論
シリーズ屈指の名場面、寅とリリーの鮮やすぎる出会い
第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』には、浅丘ルリ子演じるマドンナ・リリーがいよいよ登場する。リリーは本作含め計4回シリーズに登場(第50作『お帰り寅さん』も含めると計5回)、一般的に最も人気のあるマドンナとして知られている。
シリーズこれまでのマドンナは、保母さん、理容師、OLなど、市井に生きる一般女性がほとんどであった。しかし、本作のリリーは場末のキャバレーで歌をうたい、日本全国を巡る旅回りの歌手である。少女時代に家出をして、そのままフーテンになった生い立ちも含め、寅さんの生き方にかなり近いものがある。これまでのマドンナ像とは大きく異なるキャラクターだ。
寅さんとリリーはお互いに旅の途中、北海道の網走で行きずりに出会うことになる。二人の出会いから別れまでは、わずか数分程度の短いシークエンスだが、ここが本作品最大の見どころといっても過言ではない。
「さっぱり売れないじゃないか」「不景気だからな。お互い様じゃねえのか?」。少し恥ずかしげな様子で、リリーが寅さんにかけた一つの言葉から、まさしく打てば響くようにコミュニケーションが弾んでいく。芝居がかった二人の軽妙なやりとりは抜群の相性であり、心地良く見ていられる。
似たもの同士の二人はやがて、暮れなずむ波止場で水面を見つめながら、泡沫のようにはかない自分たちの存在をなぐさめあう。二人は相手の名前すら知らないが、お互いの言葉に共鳴しあい、精神の深い部分で解りあえているように見える。いわゆるソウルメイトと呼ばれる存在がこの世にもしあるとすれば、その出会いの瞬間はこのシーンにおける寅とリリーのごとくであるかもしれない。
演出、セリフ、演技、音楽、ロケーションの寂寥感と、すべてがパーフェクトであるこのシークエンスは、男はつらいよシリーズの中でも、一、二を争う名場面である。人と人との出会いのキラメキを完璧に表現しているこのシーンの美しさは、どれだけの時を経ても変質することはないだろう。
なお、本作は物語の中心にリリーが据えられているため、肝心の主人公である寅さんにはドラマがあまり起きない。マドンナに出会った瞬間から恋愛マシーンと化すギンギンな寅さんを見たいファンには物足りなさも残るかもしれない。
しかし、それを補って余りあるほど、寅とリリーの出会いが鮮やかな印象をもたらす本作。何度でも味わいたい名場面である。
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第11作「男はつらいよ寅次郎忘れな草」作品データ
公開 | 1973年(昭和48年)8月4日 |
上映時間 | 99分 |
主な出演者 | 【車寅次郎】渥美清 【諏訪さくら】倍賞千恵子 【松岡リリー】浅丘ルリ子 【諏訪博】前田吟 【車竜造】松村達雄 【車つね】三崎千恵子 【源公】佐藤蛾次 【桂梅太郎】太宰久雄 【御前様】笠智衆 【満男】中村はやと 【寿司屋の大将】毒蝮三太夫 【朝日印刷の工員・水原くん】江戸屋子猫 |
同時上映 | チョットだけョ全員集合!!(ザ・ドリフターズ) |
観客動員数 | 239万5,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san’s Forget Me Not |
「男はつらいよ」全作品解説リンク
- 第1作『男はつらいよ』
- 第2作『続・男はつらいよ』
- 第3作『男はつらいよフーテンの寅』
- 第4作『新・男はつらいよ』
- 第5作『男はつらいよ望郷篇』
- 第6作『男はつらいよ純情篇』
- 第7作『男はつらいよ奮闘篇』
- 第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』
- 第9作『男はつらいよ柴又慕情』
- 第10作『男はつらいよ寅次郎夢枕』
- 第11作『男はつらいよ寅次郎忘れな草』
- 第12作『男はつらいよ私の寅さん』
- 第13作『男はつらいよ寅次郎恋やつれ』
- 第14作『男はつらいよ寅次郎子守唄』
- 第15作『男はつらいよ寅次郎相合い傘』
- 第16作『男はつらいよ葛飾立志篇』
- 第17作『男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け』
- 第18作『男はつらいよ寅次郎純情詩集』
- 第19作『男はつらいよ寅次郎と殿様』
- 第20作『男はつらいよ寅次郎頑張れ!』
- 第21作『男はつらいよ寅次郎わが道をゆく』
- 第22作『男はつらいよ噂の寅次郎』
- 第23作『男はつらいよ翔んでる寅次郎』
- 第24作『男はつらいよ寅次郎春の夢』
- 第25作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花』
- 第26作『男はつらいよ寅次郎かもめ歌』
- 第27作『男はつらいよ浪花の恋の寅次郎』
- 第28作『男はつらいよ寅次郎紙風船』
- 第29作『男はつらいよ寅次郎あじさいの恋』
- 第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』
- 第31作『男はつらいよ旅と女と寅次郎』
- 第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』
- 第33作『男はつらいよ夜霧にむせぶ寅次郎』
- 第34作『男はつらいよ寅次郎真実一路』
- 第35作『男はつらいよ寅次郎恋愛塾』
- 第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』
- 第37作『男はつらいよ幸福の青い鳥』
- 第38作『男はつらいよ知床慕情』
- 第39作『男はつらいよ寅次郎物語』
- 第40作『男はつらいよ寅次郎サラダ記念日』
- 第41作『男はつらいよ寅次郎心の旅路』
- 第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』
- 第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』
- 第44作『男はつらいよ寅次郎の告白』
- 第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』
- 第46作『男はつらいよ寅次郎の縁談』
- 第47作『男はつらいよ拝啓車寅次郎様』
- 第48作『男はつらいよ寅次郎紅の花』
- 第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』
- 第50作『男はつらいよお帰り寅さん』
- 番外編 テレビドラマ版『男はつらいよ』
- 番外編1『虹をつかむ男』
- 番外篇2『キネマの天地』
- 番外編3『男は愛嬌』
- 番外編4『山田洋次×渥美清 TBS日曜劇場傑作選 4作品DVDボックス』