寅さん全48作品解説/第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』

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恋に悩む大人たちの群像

映画『二十四の瞳』をモチーフにした第36作。恋愛に悩む男女が複数人登場、しっとりとした情感と渋さを持った大人の作品になっている。レギュラー脇役の美保純はいよいよ存在感を増し、本作では作品を支えるキーパーソンへ。栗原小巻は第4作以来2度目のマドンナとして小学校教師を演じている。

マドンナ/栗原小巻

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役名:島崎真知子(小学校教師)
第4作『新・男はつらいよ』以来2度目の出演となる栗原小巻。前半は少し冴えないが、後半になると大人の女性の色気、憂鬱、悶えを見事に演じている。映画の前後半で大きく変わる印象に注目されたい。

第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』評論

恋に悩む大人の男女と「いい人化」が進む寅さん

第36作『柴又より愛を込めて』は、木下恵介監督の映画『二十四の瞳』をモチーフにした作品。式根島で暮らす小学校教師のマドンナに寅さんが恋をする物語だ。マドンナ役の栗原小巻はシリーズ2度目の登場。

清純派マドンナへの恋そして失恋はシリーズ初期によく見られるおなじみのパターンだが、作品の味わいは初期作品と大きく違う。かつての寅さんは失恋してもその悲しみをカラッと吹き飛ばす明るさがあったが、本作では泣きの余韻が最後まで続く。中期寅さんならではの「しみじみ」とした後味の作品だ。

本作には悩みを抱えた二人の女性が登場する。一人はタコ社長の娘あけみ(美保純)。彼女は結婚生活に悩みを抱えて蒸発、やがて迎えに来た寅さんの胸で号泣し「愛ってなんだろう?」と問いかける。寅さんシリーズ最初で最後のヌードを披露するなど、映画前半は美保純の明け透けな魅力で満ち溢れている。

もう一人の悩める女性とはマドンナの真知子先生。彼女は小さな島で教職一筋に生き、貴重な青春を犠牲にしてしまったことを後悔している。彼女もあけみ同様、憂いを胸の奥にしまいこんでいるが、寅さんにだけはそれを素直に打ち明けられる。少し大人びた満男が「寅おじさんは世間体なんて気にしないもんな」と評するように、寅さんの傍若無人は歳を経ることによって角が取れ「世間体にとらわれない」という長所に転化した。ありあまる時間、聞き上手、苦労人という資質も考えれば、寅さんはもはや有能なカウンセラーなのである。

しかし、そんな寅さんとてマドンナから別の男との結婚を相談されれば心中穏やかでいられない。切ない胸の内をひた隠しながら寅さんはそっと旅に出る。空港での去り際、寅さんが手にしていたのは小さな釣り竿。おそらく、先生と結ばれ空港からそのまま島へ移住することを見越した上での持参品があの粗末な釣り竿だったのだ。寅さんが夢想した無邪気なハッピーエンドを思うと泣けるものがある。

この心憎い演出に、寅さんの加齢、そして「いい人化」という要素が加わると、おなじみの失恋シーンには悲壮感すら漂いだす。あけみも劇中で嘆いていたように、私たちの寅さんは一体いつになったら結ばれるというのだろう!

恋に悩む男女が複数人登場する第36作『柴又より愛をこめて』。他の作品にはあまりない、しっとりした情感と渋さを持った作品である。

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第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』

公開 1985年(昭和60年)12月28日
併映 『祝辞』(財津一郎)
観客動員 140万7,000人
マドンナ 栗原小巻
ゲスト 川谷拓三/森本毅郎/アパッチけん/松居直美
洋題 Tora-san's Island Encounter

      2016/12/25

 - 男はつらいよ作品紹介