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寅さん全作品解説/第19作『男はつらいよ寅次郎と殿様』(1977年8月公開)

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本作をひとことで言うと

寅さん meets お殿様

もしも寅さんがお殿さまに出会ったら?このアイデアが作品の中心となる「男はつらいよ版もしもシリーズ」ともいえる作品。寅さんとお殿さまの珍妙なやりとりは期待通りのおかしさで、随所に挟まれる小ネタが笑いを誘う。「寅さん版鞍馬天狗」や渥美清と三木のり平の喜劇人同士の競演など見どころも豊富。

マドンナ

真野 響子(当時 25歳)

役名:堤鞠子
職業:運送会社の事務員

演技では精一杯いい仕事をしているものの、寅さんとお殿様のやり取りにメインを奪われ、印象がかなり薄くなってしまった可哀想なマドンナ。亡き夫とのエピソードがひとつでもあれば感情移入できそうなのだけども。

第19作「男はつらいよ寅次郎と殿様」解説・評論

男はつらいよ版「もしもシリーズ」。老若男女を問わず楽しめる

もしも寅さんが旅先で伊予大洲五万石のお殿さまに出会ったら……。第19作『寅次郎と殿様』は、このお題目から想起されるエピソードだけで寅さん一本作ってみました、といった趣のライトな作品である。

ここ数作、テーマ性の強い作品などやや重めのものが続いていた分、大きく肩の力が抜けた本作の軽さが目立つ。非常にわかりやすい作品でもあり、老若男女を問わず心地良く楽しめる一本といえるだろう。

今回の寅さんは旅先の愛媛で、嵐寛寿郎演じる伊予大洲藩十六代目のお殿さまに出会う。江戸時代からタイムスリップしたような一風変わったお殿さまとの珍妙なやりとりには、期待どおりのおかしさがある。

お殿さま役のアラカンこと嵐寛寿郎は『鞍馬天狗』シリーズ46作品の主演を演じ、戦前から戦後にかけて庶民に愛された日本映画史に残るチャンバラスター。作品冒頭夢のシーンでは「寅さん版鞍馬天狗」が演じられるなど、本作では同じシリーズ映画の大先達にオマージュが捧げられている(アラカンと同世代の笠智衆に「いい年してチャンバラなぞしおって」といわせるのは山田洋次流の遊び心かもしれない)。

お殿さまは、勘当したまま亡くなってしまった息子の嫁にひと目会いたいと寅さんに願いを託すが、手がかりのない人探しに寅さんは途方に暮れてしまう。しかし、このお嫁さんこそ寅さんが旅先で偶然に出会ったマドンナ鞠子(真野響子)その人である。数百万分の一の確率で実現するこのめぐりあわせには思わず「うっそだろ~!」と笑いながら突っ込んでしまうことだろう。

男はつらいよシリーズはこれまでも十分にありえないストーリーの物語であったが、本作ではさらに輪をかけて絶対にありえないストーリーが展開されるのが特徴。「男はつらいよ」が喜劇映画からコメディ映画的な風合いを帯びてくるのは、この『寅次郎と殿様』あたりからで、シリーズの過渡期を思わせる作品である。

とらやの飼い犬「トラ」をめぐるスリル満点の冒頭など、随所に挟まれる小ネタの数々に加えて、渥美清と三木のり平の喜劇人同士の競演など見どころも豊富な本作。

「男はつらいよ版もしもシリーズ」ともいえる箸休め的な作品ではあるが、肩ひじはらず気楽に鑑賞できる楽しい作品である。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第19作「男はつらいよ寅次郎と殿様」 作品データ

公開1977年(昭和52年)8月6日
上映時間99分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[堤鞠子]真野響子
[殿様・藤堂久宗]嵐寛寿郎
[執事・吉田]三木のり平
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[満男]中村はやと
[お巡りさん]寺尾聡
[御前様]笠智衆
同時上映坊ちゃん(中村雅俊)
観客動員数140万2,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san Meets His Lordship

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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