寅さん&満男の“恋愛二本立て”
前作に続き、満男と泉の恋の行方を描いたストーリー。若い2人の恋愛と成長が物語の中心だが、寅さんの恋というお約束の復活で、前作とは打って変わって“いつもの寅さん”を強く印象付けている。寅さん&満男の恋愛二本立てが成立し、以後このパターンの作品が続くことになる。
夏木 マリ(当時 38歳)
役名:及川礼子
職業:泉の母・クラブのチーママ
寅さんと実にほのかな恋愛模様を繰り広げるマドンナ。満男と泉の爽やかな恋愛の裏で人生の苦味パートを一身に担っている。個人的には、この人が泉の母親というキャスティングがいまだ腑に落ちない。
第43作「男はつらいよ寅次郎の休日」解説・評論
さらなる寅さんシリーズ存続を可能にした、寅さん&満男の“恋愛二本立て”様式
第43作「寅次郎の休日」は、前作「ぼくの伯父さん」で初登場した泉(後藤久美子)と寅さんの甥・満男(吉岡秀隆)のその後を描くストーリー。満男を主人公に据えて“スピンオフ作品”のような新鮮さのあった前作と打って変わり、“いつもの寅さん”への回帰を強く印象づける作品である。
その要因としては、寅さんシリーズ種々のお約束事の復活が大きい。映画冒頭の夢のシーンや、寅さんとタコ社長の口論に加えて、前作珍しく恋に落ちなかった寅さんが、本作では泉の母親(夏木マリ)に恋をしている。恋する寅さんの復活とはすなわち、物語終盤の失恋とほぼイコールであるから、満男と泉がストーリーの中心にありながら、鑑賞後の印象は見事に“いつもの寅さん”になっている。
そして、寅さんと満男の恋が二本立てでイケることが本作で判明したことにより、満男と泉の恋物語を性急に進展させる必要がなくなったことは、その後のシリーズ展開に大きな影響を与えている点に注目したい。
本作の満男と泉は、別居中の泉の父親(寺尾聰)に、母親との復縁を迫るため二人旅に出かける。いかにも人の良さそうな父の不倫相手(宮崎美子)に出くわすなどの出来事はあるが、エピソード自体は凡庸で、満男と泉の恋愛も特には進展しない。これだけで1本の映画とするにはやや物足りないところだが、寅さんの恋そして失恋というもう1つの柱を組み合わせれば、満男と泉の恋がどれほど煮え切らないものであっても、寅さん映画としては十分に成立してしまうのである(寅さんファン以外には退屈な作品となるかもしれないが……)。
寅さんの失恋が作品に安定感とオチをもたらすことで、若い満男はジタバタとモラトリアムを続けることができ、恋の結論も次作に持ち越しながらゆっくりと展開することができる。一方、満男をストーリーの中心に据えることで、寅さんは作品の要所を締める大御所的なポジションに収まることが可能となり、製作陣は渥美清の体力面の不安をカバーできるようになった。
本作で確立されたこの寅さん&満男の“恋の二本立て”様式は、第48作「寅次郎紅の花」まであと5回繰り返されることになり、主要キャストの高齢化が目立つ寅さんシリーズのさらなる継続に貢献することになったのである。
そういった意味で、新しい様式が完成した本作を「満男シリーズ」のはじまりの作品と考えるべきなのかもしれない。1回限りと思われた──それゆえに鮮やかだった──“主人公・満男”というカードを、こうも見事にマンネリズムに落とし込んでしまう山田洋次の手腕は、実に恐るべきものである。
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第43作「男はつらいよ寅次郎の休日」 作品データ
公開 | 1990年(平成2年)12月22日 |
上映時間 | 106分 |
主な出演者 | [車寅次郎]渥美清 [諏訪さくら]倍賞千恵子 [諏訪満男]吉岡秀隆 [及川泉]後藤久美子 [及川礼子]夏木マリ [及川一男]寺尾聡 [幸枝]宮崎美子 [ヤマギワ電気の従業員・内藤]笹野高史 [ポンシュウ]関敬六 [車竜造]下條正巳 [車つね]三崎千恵子 [諏訪博]前田吟 [桂梅太郎]太宰久雄 [源公]佐藤蛾次郎 [御前様]笠智衆 |
同時上映 | 釣りバカ日誌3(西田敏行) |
観客動員数 | 208万3,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san Takes a Vacation |
「男はつらいよ」全作品解説リンク
- 第1作『男はつらいよ』
- 第2作『続・男はつらいよ』
- 第3作『男はつらいよフーテンの寅』
- 第4作『新・男はつらいよ』
- 第5作『男はつらいよ望郷篇』
- 第6作『男はつらいよ純情篇』
- 第7作『男はつらいよ奮闘篇』
- 第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』
- 第9作『男はつらいよ柴又慕情』
- 第10作『男はつらいよ寅次郎夢枕』
- 第11作『男はつらいよ寅次郎忘れな草』
- 第12作『男はつらいよ私の寅さん』
- 第13作『男はつらいよ寅次郎恋やつれ』
- 第14作『男はつらいよ寅次郎子守唄』
- 第15作『男はつらいよ寅次郎相合い傘』
- 第16作『男はつらいよ葛飾立志篇』
- 第17作『男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け』
- 第18作『男はつらいよ寅次郎純情詩集』
- 第19作『男はつらいよ寅次郎と殿様』
- 第20作『男はつらいよ寅次郎頑張れ!』
- 第21作『男はつらいよ寅次郎わが道をゆく』
- 第22作『男はつらいよ噂の寅次郎』
- 第23作『男はつらいよ翔んでる寅次郎』
- 第24作『男はつらいよ寅次郎春の夢』
- 第25作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花』
- 第26作『男はつらいよ寅次郎かもめ歌』
- 第27作『男はつらいよ浪花の恋の寅次郎』
- 第28作『男はつらいよ寅次郎紙風船』
- 第29作『男はつらいよ寅次郎あじさいの恋』
- 第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』
- 第31作『男はつらいよ旅と女と寅次郎』
- 第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』
- 第33作『男はつらいよ夜霧にむせぶ寅次郎』
- 第34作『男はつらいよ寅次郎真実一路』
- 第35作『男はつらいよ寅次郎恋愛塾』
- 第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』
- 第37作『男はつらいよ幸福の青い鳥』
- 第38作『男はつらいよ知床慕情』
- 第39作『男はつらいよ寅次郎物語』
- 第40作『男はつらいよ寅次郎サラダ記念日』
- 第41作『男はつらいよ寅次郎心の旅路』
- 第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』
- 第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』
- 第44作『男はつらいよ寅次郎の告白』
- 第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』
- 第46作『男はつらいよ寅次郎の縁談』
- 第47作『男はつらいよ拝啓車寅次郎様』
- 第48作『男はつらいよ寅次郎紅の花』
- 第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』
- 第50作『男はつらいよお帰り寅さん』
- 番外編 テレビドラマ版『男はつらいよ』
- 番外編1『虹をつかむ男』
- 番外篇2『キネマの天地』
- 番外編3『男は愛嬌』
- 番外編4『山田洋次×渥美清 TBS日曜劇場傑作選 4作品DVDボックス』