寅さん、大阪で恋に落ちる
初の大阪ロケ作品となった第27作。女優として人気絶頂の松坂慶子がマドンナに登場、その美しさには息を呑むほど。生き別れの弟に会いに行くエピソードでは、山田洋次の演出力が冴え渡り、寅さんはもはやフーテンの蕩児とは思えぬ活躍を見せる。芦屋雁之助ら関西喜劇人も多数登場、2代目満男・吉岡秀隆は本作より出演。
マドンナ/松坂慶子
役名:浜田ふみ(芸者)
シリーズ1,2を争う美貌を持つマドンナ松坂慶子が登場。本作出演のこの年には、日本アカデミー賞主演女優賞をはじめ数々の賞を総ナメ。女優としてもっとも輝いていた時期といっていいだろう。
第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」評論
ますます「聖人化」が進む寅さん、訓話的な側面が強調された作品
第27作「浪花の恋の寅次郎」はシリーズ初の大阪ロケ作品。関東喜劇界を代表する渥美清と、芦屋雁之助、笑福亭松鶴ら関西喜劇人たちの共演は、「お笑い東西対決」になるかと思いきや、意外にも情感に満ちたしっとりとした作品に仕上がった。
本作のマドンナふみを演じるのは、当時女優として人気絶頂にあった松坂慶子。シリーズ1,2を争う美貌のマドンナといっても差し支えないだろう。寅さんとの出会いは、お墓参りという状況を巧みに利用した寅さんの鮮やかなナンパ術からはじまり、その後、波止場での別れに至るまで心地良いやりとりが続く。リリーとはまた別種の相性の良さを感じさせるマドンナである。
さて、大阪で芸者をするふみには、幼い頃に生き別れた一人の弟がいる。寅さんの勧めもあって、ふみは弟に会う決心を固めるが、不幸にも弟はほんの一ヶ月前に病死していた。その死を受け入れられないふみであったが、弟が自分のことを「母親のように懐かしい人」と語っていたことを知ると、ようやく死を受け入れられる心境に至る。本作の中核をなすエピソードである。
話の筋としてはよくあるものだが、山田洋次の演出力は、このよくあるストーリーを非常に高いレベルの映像作品へと昇華させている。俳優陣による心の機微を捉えた表情、声色、間にも、観客の心をぐっと掴むものがあり、感情の波が大きく揺さぶられる。
なんといっても注目は、このパートにおける寅さんの言動だ。弟との再会をためらうマドンナを諭し、悲しみに寄り添い、やがて離別の苦しみから解脱する方法さえもしんみりと説く。利他に徹するその姿は、カウンセラーか、はたまた人々に救いをもたらす宗教家のようでもあり、「男はつらいよ」シリーズの訓話的な側面をより一層際立たせている。
このパートに比重が置かれた結果だろうか、寅さんとふみの恋愛プロセスにはいささか言及不足な点があり、新世界ホテルでの一夜が、二人の間に決定的な何かをもたらしたことを理解するには、少し想像力を働かせる必要がある。
後半に向けてやや物語が散漫になる点が惜しい作品ではあるが、マドンナ松坂慶子の息を呑む美しさに加えて、聖人・寅さんによってもたらされる癒やしが、本作最大の見どころといってもいいだろう。
シリーズ開始から12年を経過し、寅さんはもはや聖なる存在へと片足を突っ込みかけているのだ。「男はつらいよ」シリーズは作品によって”聖人の言行録”的な趣を感じることがあるが、その側面がより色濃く出ているのが本作である。

第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」作品データ
第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」 予告編
第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」 あらすじ
準備中
第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」 作品データ
公開 | 1981年(昭和56年)8月8日 |
同時上映 | 俺とあいつの物語(武田鉄矢) |
観客動員数 | 182万1,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san’s Love in Osaka |