寅さん、ついに同棲する
本命マドンナ・リリーが三度目の登場、寅さんといよいよ深い男女の仲に至る第25作。常夏の楽園・沖縄という舞台設定が二人の蜜月をさらに甘く描き出す。最高に気っ風のよいラストシーンを筆頭に名場面が目白押し。寅とリリーを長く見守ってきたファンにとってはご褒美のような作品で、根強いファンを持つ。
浅丘 ルリ子(当時 40歳)
役名:松岡リリー
職業:旅回りの歌手
シリーズ通算3度目の登場となるリリー。初登場(11作)と2度目(15作)を予習してから本作を見れば、寅さんとリリーの物語がより心に沁み入るはず。個人的には、高志くん(江藤潤)との喫茶店シーンで、年上女性の魅力を垣間見せるリリーが好き。
第25作「男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花」解説・評論
映画史に残る最愛の関係「寅とリリー」を甘く切なく描く
第25作『寅次郎ハイビスカスの花』には、浅丘ルリ子演じるマドンナ・リリーが通算3度目のシリーズ登場を果たす。
過去2作で抜群の相性を見せた寅とリリーは、三度目の正直である本作でかつてなく深い男女の仲に至る。しかし、その関係が最終的に観客の想像をはるか超えるところに着地するのが本作である。根強いファンを持つ人気作品だ。
物語は沖縄で病に倒れたリリーが寅に宛てたSOSの手紙から始まる。飛行機嫌いを克服し駆けつけた寅に感激するリリー。やがて2人は同棲を始める。沖縄という楽園の舞台設定もあいまって、2人の蜜月は甘くこってり描かれる。長いシリーズの中でも異色のラブラブパートとなるのが物語前半だ。
だが、同棲を境に2人のすれ違いがはじまる。リリーは寅と夫婦の関係になりたいが、寅はその思いをのらりくらりとかわしてしまう。そして、ある夜の激しい喧嘩をきっかけにリリーはいよいよ家を飛び出す。
この悶着の後に2人は葛飾柴又で再会をするが、移ろいやすいは女心。リリーは沖縄での日々を「私たち、夢を見てたのよ」と述懐し、蜜月はすでに昔の話。寅次郎とは一般的な男女の関係に納まらない方がよい、リリーはそんな悲しい結論に至るのである。
しかし、リリーが寅にかけた別れ際の一言は、また別の女心を映し出している。
「ねえ寅さん、もし旅先でつらい目にあったりしたら、またこないだみたいに来てくれる?」。
リリーは、寅との蜜月そしてすれ違いを経てもなお、いつかまた寅と巡り会いたいのである。リリーにとって寅は、さすらいの旅の途中、いつかまた出会いたい希望の人、懐かしい最愛の人なのだ。
三度目の正直においてもなお結ばれない、それゆえ離別することもない、ある意味究極の男女関係に至るのが寅さんとリリーの結末である。しかし、これが悲恋でなく未来ある爽やかな関係として心に残るのは、長いシリーズの中でも最高に気っ風のよいラストシーンのなせるわざだろう。
寅とリリーは、いつかまた日本のどこかでこんな再会を果たすのだろう──そんな期待を抱かせるラストシーンを筆頭に、映画史に残る最愛の関係「寅とリリー」の名場面が凝縮された濃厚な作品。二人を長く見守ってきたファンにとっては甘いご褒美のようでもある。何度でも楽しみたくなる名作だ。
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第25作「男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花」 作品データ
公開 | 1980年(昭和55年)8月2日 |
上映時間 | 104分 |
主な出演者 | [車寅次郎]渥美清 [諏訪さくら]倍賞千恵子 [松岡リリー]浅丘ルリ子 [國頭高志]江藤潤 [山里かおり(水族館で働く女の子)]新垣すずこ [車竜造]下條正巳 [車つね]三崎千恵子 [諏訪博]前田吟 [桂梅太郎]太宰久雄 [源公]佐藤蛾次郎 [満男]中村はやと [御前様]笠智衆 |
同時上映 | 思えば遠くへ来たもんだ(武田鉄矢) |
観客動員数 | 206万3,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora’s Tropical Fever |