ワケありマドンナ・吉田日出子の演技が光る
満男シリーズ第3弾。満男の恋人・泉の成長を中心に描くが、全体的に見せ場の少ない低調な作品。そんな中、唯一気を吐くのがマドンナ役の吉田日出子。わずか20分間の出演ながら、ちょいとワケありのマドンナを魅力的に演じ、強い印象を残す。彼女の存在は本作の救いといっても過言ではない。
マドンナ/吉田日出子
第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」評論
低調な作品を救った“アングラ演劇の女王”、吉田日出子!
第44作「寅次郎の告白」は、前作「寅次郎の休日」で確立された寅さん&満男の“恋愛二本立て”路線を踏襲する通称・満男シリーズの第3弾。
満男と泉(後藤久美子)の恋愛は、相変わらず遅々とした進展で猛烈にじれったい。すでにキス以上の関係に至っていても不思議ではないが、ウブな2人は無言のまま手を握るのがやっと。実におぼこい!
本作は、就職活動での挫折や母親との確執、家出を経て、人として成長する泉を中心に描いた物語。前作から1年が経ち、さらに大人びた黒髪の美少女は当時17歳。もはや寅さんよりも、作品ごとに色気を増していく泉ちゃんの登場に「よっ!待ってました!」と快哉を叫ぶのが満男シリーズの正しい楽しみ方である。
さて、そんな泉が主軸となる物語でありながら、彼女への感情移入はどうにも難しい。家出に至るまでの過程、背景の描写が甘いためであり、そのせいで旅先で出会う老婆(杉山とく子)の親切心や、寅さんとの再会が引き立たない。田舎の道端で寅さんにバッタリ!という再会の仕方も、あまりに都合が良すぎである。
若いキャストの演技も物足りなく、前半1時間にはほとんど見せ場がない。脚本、演出、演技が噛み合わない上に、寅さんの出番も少ないとあって、シリーズ初心者にはあまりお薦めできない作品となってしまった。
そんな中、一人気を吐くのが“アングラ演劇の女王”とも言われた吉田日出子だ。彼女が演じる料亭の女主人・聖子は、物語にオチ(=寅さんの失恋)をつけるためだけのキャラクター。しかし、独特の甘ったるい声、人懐っこい笑顔、酔った勢いでチラリと見せる妖艶さは、素性に謎の多い聖子という女性に他の登場人物以上の実在感を与えている。その存在感は圧倒的である。
後年、吉田日出子は自著『女優になりたい』の中で、本作における自身の演技に納得していないと告白している。しかし、彼女の存在なしでは本作はさらに低調な作品になっていたはずだ。わずか20分程度の出演だが、彼女の演技は本作を救ったといっても大げさではない。
物語は「僕には伯父さんのみっともない恋愛を笑う資格がない」という満男のポエムで幕を閉じる。脇役にまわった寅さん、高齢化のすすむくるまや、そして噛み合わない脚本、演出、演技……。当時リアルタイムでこの作品を観たファンは、寅さんシリーズの行く末をどんな風に案じただろうか。
そんな気持ちにもなってしまう、寅さんシリーズとしては珍しく低調な出来栄えの作品である。

第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」 作品データ
第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」 予告編
第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」 あらすじ
準備中
第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」 作品データ
公開 | 1991年(平成3年)12月23日 |
同時上映 | 釣りバカ日誌4(西田敏行) |
観客動員数 | 211万1,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san Confesses |