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寅さん全作品解説/第44作『男はつらいよ寅次郎の告白』

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本作をひとことで言うと

ワケありマドンナ・吉田日出子の演技が光る

満男シリーズ第3弾。満男の恋人・泉の成長を中心に描くが、全体的に見せ場の少ない低調な作品。そんな中、唯一気を吐くのがマドンナ役の吉田日出子。わずか20分間の出演ながら、ちょいとワケありのマドンナを魅力的に演じ、強い印象を残す。彼女の存在は本作の救いといっても過言ではない。

マドンナ

吉田 日出子(当時 47歳)

役名:聖子
職業:料亭の女主人

寅さんをフって別の男と結婚した過去を持つ未亡人マドンナ。それ以外の素性はまったく明かされないが、圧倒的な魅力と存在感で、わずか20分間の登場ながら作品に大きな爪痕を残す。

第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」解説・評論

低調な作品を救った“アングラ演劇の女王”、吉田日出子!

第44作「寅次郎の告白」は、前作「寅次郎の休日」で確立された寅さん&満男の“恋愛二本立て”路線を踏襲する通称・満男シリーズの第3弾。

満男と泉(後藤久美子)の恋愛は、相変わらず遅々とした進展で猛烈にじれったい。すでにキス以上の関係に至っていても不思議ではないが、ウブな2人は無言のまま手を握るのがやっと。実におぼこい!

本作は、就職活動での挫折や母親との確執、家出を経て、人として成長する泉を中心に描いた物語。前作から1年が経ち、さらに大人びた黒髪の美少女は当時17歳。もはや寅さんよりも、作品ごとに色気を増していく泉ちゃんの登場に「よっ!待ってました!」と快哉を叫ぶのが満男シリーズの正しい楽しみ方である。

さて、そんな泉が主軸となる物語でありながら、彼女への感情移入はどうにも難しい。家出に至るまでの過程、背景の描写が甘いためであり、そのせいで旅先で出会う老婆(杉山とく子)の親切心や、寅さんとの再会が引き立たない。田舎の道端で寅さんにバッタリ!という再会の仕方も、あまりに都合が良すぎである。

若いキャストの演技も物足りなく、前半1時間にはほとんど見せ場がない。脚本、演出、演技が噛み合わない上に、寅さんの出番も少ないとあって、シリーズ初心者にはあまりお薦めできない作品となってしまった。

そんな中、一人気を吐くのが“アングラ演劇の女王”とも言われた吉田日出子だ。彼女が演じる料亭の女主人・聖子は、物語にオチ(=寅さんの失恋)をつけるためだけのキャラクター。しかし、独特の甘ったるい声、人懐っこい笑顔、酔った勢いでチラリと見せる妖艶さは、素性に謎の多い聖子という女性に他の登場人物以上の実在感を与えている。その存在感は圧倒的である。

後年、吉田日出子は自著『女優になりたい』の中で、本作における自身の演技に納得していないと告白している。しかし、彼女の存在なしでは本作はさらに低調な作品になっていたはずだ。わずか20分程度の出演だが、彼女の演技は本作を救ったといっても大げさではない。

物語は「僕には伯父さんのみっともない恋愛を笑う資格がない」という満男のポエムで幕を閉じる。脇役にまわった寅さん、高齢化のすすむくるまや、そして噛み合わない脚本、演出、演技……。当時リアルタイムでこの作品を観たファンは、寅さんシリーズの行く末をどんな風に案じただろうか。

そんな気持ちにもなってしまう、寅さんシリーズとしては珍しく低調な出来栄えの作品である。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第44作「男はつらいよ寅次郎の告白」 作品データ

公開1991年(平成3年)12月23日
上映時間104分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[諏訪満男]吉岡秀隆
[及川泉]後藤久美子
[及川礼子]夏木マリ
[聖子]吉田日出子
[北野(礼子の交際相手)]津嘉山正種
[吉村(山野楽器銀座本店の管楽器売り場主任)]山口良一
[ふしみや商店の老婆]杉山とく子
[石をぶつけられる釣り人]笹野高史
[サブ(寅さんのテキヤ仲間)]渡部夏樹
[ポンシュウ]関敬六
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[三平]北山雅康
[御前様]笠智衆
同時上映釣りバカ日誌4(西田敏行)
観客動員数211万1,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san Confesses

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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