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寅さん全作品解説/第41作『男はつらいよ寅次郎心の旅路』(1989年8月公開)

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本作をひとことで言うと

寅さん、ヨーロッパにゆく

ウィーン市長の熱烈誘致で実現した海外ロケ作品。観光名所をたっぷりと見せる一方で、現地ではあまりドラマが起きず退屈な展開に。“寅さんとヨーロッパ”という異質な組み合わせの面白さもあるが全体としては低調。ロケ地・ウィーンという前提条件をクリアするための苦労がそこかしこに感じられる労作である。

マドンナ

竹下 景子(当時 36歳)

役名:江上久美子
職業:ウィーンの観光ガイド

第32作第38作に続く、3度目のマドンナ出演。「日本への帰国」と「ウィーンの恋人」の間で揺れながら、暮れなずむウィーンの街並みを歩く姿は実に絵になっている。できれば彼女の人物をもう少しじっくりと描きたかった。

第41作「男はつらいよ寅次郎心の旅路」解説・評論

ロケ地・ウィーンという“場所ありき”の苦労が感じられる作品

第41作『寅次郎心の旅路』は、寅さんがオーストリアの首都ウィーンを訪れるという意外性のある設定。

当時のウィーン市長は飛行機の機内映画で寅さんを見て以来の大ファンで、熱烈なロケ誘致の末に撮影が実現したらしい(昔はJAL機内で寅さんが流れるのは定番だったのだ)。

寅さんが海外に行くというアイデア自体は悪くないのだが、ウィーンという場所ありきで製作した作品であるためか、出来栄えは正直なところイマイチである。

まず、ウィーンは我々日本人にとって一般的には馴染みの薄い国である。現地に赴く理由が観光以外には考えにくく、ドラマが作りづらい。本作もウィーンに行くまではよいのだが、いざ現地に着いてしまうとこれといった出来事が起こらない。その結果ウィーンの名所をのんびりと巡るだけの、よく言えば優雅、悪く言えば退屈な物語が展開していく。

さらに、ウィーンでイキイキするのは同行したサラリーマン坂口(柄本明)で、寅さんは宿泊先のホテルと現地で知り合った日本人マダム(淡路恵子)の家を行き来するばかり。これには渥美清の体調上の理由があったかもしれないが、異国の地で活躍する寅さんの描写が少ないことも退屈さに拍車をかけている。

後半になるとようやくマドンナ久美子(竹下景子)の人生相談へとシフトしていくが、時間が足りないこともあり彼女の人物像を描き切れていない。結果的に彼女が直情的で無計画な人間にしか見えず、憐憫の情がわいてこないのも残念だ。

わずかだがいいシーンはある。寅さんが現地のご婦人にせんべいをあげて言葉は通じずともなんとなくわかりあえてしまう場面や、キリスト教の神父さんを「御前様」といってうやうやしく拝む場面など。“寅さんとヨーロッパ”という異質の組み合わせをもう少し盛り込むことができれば面白い作品になったのかもしれない。

物語のオチは、同行したサラリーマン坂口が撮影した旅行中の写真を見て、くるまや一同が寅さんの失恋を知るというもの。寅さんの失恋場面を坂口が克明にシャッターを切り続けていたというのがどうも腑に落ちないが(寅さんが可哀そうである)、ウィーンでの撮影という難しい前提条件をクリアするためには精一杯の落とし所だったのだろう。

なお、お気づきの方も多いと思うが本作は関敬六が観光客として声だけの出演をしている。「お姉さん、紅茶!」。姿は見えずともあのダミ声だけでポンシュウの存在を強烈に感じさせるのだから、さすがである。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第41作「男はつらいよ寅次郎心の旅路」 作品データ

公開1989年(平成元年)8月5日
上映時間110分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[江上久美子]竹下景子
[坂口兵馬]柄本明
[マダム]淡路恵子
[ヘルマン(久美子の恋人)]マルティン・ロシュバーガー
[テレーゼ(坂口兵馬が舞踏会でダンスを踊った女性)]ヴィヴィアン・デュバル
[極東ツーリストの社員]イッセー尾形
[栗原電鉄の車掌]笹野高史
[オープニングの寅さんのテキヤ仲間2]出川哲朗
[ポンシュウ/ウィーンのツアー観光客]関敬六
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[満男]吉岡秀隆
[御前様]笠智衆
同時上映夢見通りの人々(小倉久寛)
観客動員数185万2,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san Goes to Vienna

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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