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寅さん全作品解説/第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』(1983年12月公開)

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本作をひとことで言うと

寅さん、インチキ坊主になる

寅さんが「お坊さん」になってさくら達にドッキリを仕掛ける仰天ストーリーの第32作。ノリノリの渥美清、テンポ良くまとまった豊富なエピソードが初期寅さんを彷彿とさせる中期の秀作。最終盤におけるマドンナ竹下景子の名演は必見。2代目おいちゃん松村達雄、中井貴一、杉田かおるら共演陣も華やかだ。

マドンナ

竹下 景子(当時 30歳)

役名:石橋朋子
職業:蓮台寺の娘

竹下景子はそれぞれ別人のマドンナ役で3度シリーズに出演。1970年代には「お嫁さんにしたい女優No.1」として人気を誇った。母性を湛えた優しい微笑みと、寅次郎に迫る際の潤んだ眼差しのギャップが印象的。本作の朋子さんは寅さんとの相性も抜群である。

第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」解説・評論

「初期寅さん」の熱気を取り戻した1980年代寅さんの秀作

あくまで私見だが、寅さんシリーズは第19作『寅次郎と殿様』以降、回を重ねるごとにテンション、熱気を徐々に失っていったと思う(それでも名作秀作揃いなのは驚異的なことである)。

しかし、第32作『口笛を吹く寅次郎』は、1970年代の初期寅さんを彷彿とさせる熱量をひさしぶりに取り戻した作品である。渥美清の爆笑演技と豊富なエピソード、それらを100分程度の尺内にぎゅっと収めてくるテンポのよさは、ここ数作見られなかったものである。

今回の寅さんは作品冒頭の帰郷がなく、旅先でいきなり恋に落ちる。お相手は、博の父親の墓参りで訪れたお寺の娘・朋子(竹下景子)。彼女にいいところを見せたい寅さんは、二日酔いで法事をこなせない住職(2代目おいちゃん・松村達雄)に替わって、なんとお坊さん役を買って出るのである。

啖呵売で鍛え上げた持ち前の話法のおかげで、ニセ坊主の正体がバレるどころか参列者の喝采を得て、まんまと寺に居着いてしまう寅さん。このアイデアが見事にハマっている。三回忌法要のため寺を訪れた博とさくらにドッキリを仕掛け、嬉々とする様子はまさにタイトル通り「口笛を吹く寅次郎」。ノリノリである。

その後、諏訪家遺産相続の諍い、中井貴一と杉田かおる(驚異的なおぼこさ!)の恋愛を絡めつつ物語は進み、やがてマドンナの好意に気づいた寅さんは柴又へと逃げ帰る。マドンナもすかさず後を追うのだが、その旅程をばっさり省略するなどテンポのよい演出の積み重ねで作品にはスピード感すら生まれている。こうして決戦の舞台は柴又へと移るのである。

物語の最終盤、柴又駅のシーンは本作のみならずシリーズ屈指の名場面といっていいだろう。その立役者はなんといっても竹下景子である。人生を賭けた告白に臨む女の逡巡と、その求愛が叶わなかった時の深い悲しみ。小説ならば数行を要する心理情景を、一瞬の表情、眼差しだけ語り尽くす。これぞ女優の仕事であり、映画という表現の醍醐味である。

シリーズもこの頃になると「今度こそ寅さんが結婚してしまう!?」という観客の不安あるいは期待を利用した物語が目立つようになる。寅さんの結婚を暗示するかのような冒頭夢シーンは手の込んだフェイントである。本作はそういったスリルをうまく織り込みながら、豊富なエピソードをテンポ良くまとめた秀作だ。初期寅さんを彷彿とさせるが、寅さんが無残にフラレないという点が初期作品と決定的に違うところである。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」 作品データ

公開1983年(昭和58年)12月28日
上映時間105分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[石橋朋子]竹下景子
[石橋泰道(蓮台寺の和尚・マドンナ朋子の父)]松村達雄
[石橋一道]中井貴一
[ひろみ]杉田かおる
[ハンコ屋の主人]長門勇
[国鉄吉備線で出会う労働者]レオナルド熊
[国鉄吉備線で出会った労働者の新しい妻]あき竹城
[蕎麦屋の出前]石倉三郎
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[満男]吉岡秀隆
[御前様]笠智衆
同時上映喜劇・家族同盟(中村雅俊)
観客動員数148万9,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san Goes Religious?

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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