今回の「寅さんの聖地を巡るシリーズ」は、前回(寅さんの聖地を巡るシリーズ7~第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」ロケ地)に引き続き、岡山県高梁市のJR備中高梁駅周辺を取り上げる。
岡山県の備中高梁(びっちゅうたかはし)は、長い長い寅さんシリーズにおいて唯一、2回の撮影ロケが行われた町だ。1回目は1971年公開の第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」、2回目は1983年公開の第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」である。
今回取り上げるのは、後者の第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」のロケ地。お寺の娘であるマドンナ朋子(竹下景子)に恋をした寅さんが、なんとお坊さんになるという仰天ストーリーの作品で、ファンの間でも評価が高い。
参考書籍は毎度おなじみ、寅さんロケ地巡礼者のバイブル「男はつらいよ 寅さんロケ地ガイド」。それでは早速、聖地巡礼の旅に行ってみよう。
本記事では、第32作「口笛を吹く寅次郎」に登場したロケ地を中心に紹介しています。第8作「寅次郎恋歌」のロケ地については前回記事をご覧ください。
今回の寅さんロケ地データ
作品名 | 第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」 |
公開 | 1983年(昭和58年)12月28日 |
住所 | JR備中高梁(びっちゅうたかはし)駅 周辺 |
推奨移動手段 | 徒歩orレンタサイクル(高梁市) |
到達難易度 | ★★☆☆☆(高梁市) |
所要時間 | JR備中高梁駅から出発して、3~4時間程度 ※JR岡山駅から出発する場合は、6時間(半日)程度 |
備中高梁(びっちゅうたかはし)はJR岡山駅から電車で1時間弱
最初に場所をおさらいしておこう。JR備中高梁駅は、岡山県の中西部にある高梁市に位置している。
JR岡山駅から備中高梁に向かう方法は2つ。岡山駅から特急・やくも(所要時間38分)に乗るか、普通列車・伯備線(所要時間54分)に乗るか。今回は、寅さんの急がない旅にならって、普通列車・伯備線に乗った。
第32作「口笛を吹く寅次郎」備中高梁駅周辺のロケ地マップ
以下が備中高梁の聖地巡礼ポイント。赤い★のポイントが今回紹介する第32作「口笛を吹く寅次郎」のロケ地、青い★のポイントは第8作「寅次郎恋歌」のロケ地である。
備中高梁は、小ぶりな街の中にロケ地がギュッと集約されているので、半日もあれば十分にロケ地巡りができるだろう。私はすべて徒歩で移動したが、4~5時間ほどで第8作、第32作のロケ地を両方とも巡ることができた。
なお、JR備中高梁駅には観光案内所があり、レンタサイクル、手荷物預かりサービスが利用できる。遠方からの聖地巡礼者には嬉しいサービスだ。
ロケ地1:薬師院泰立寺(作品内では「蓮台寺」)
マドンナ朋子のお寺は備中高梁駅から徒歩5分の場所にある
それでは、第32作「口笛を吹く寅次郎」の聖地巡礼に行ってみよう。作品内の順番と異なる点はご了承いただきたい。
備中高梁に着いた寅さんは、博の父・飇一郎の墓参りのため蓮台寺に向かう。蓮台寺とは架空の名前で、実際には「薬師院泰立寺(やくしいんたいりゅうじ)」というお寺。JR備中高梁駅の東口(寺巡り口)から歩いて5分程の高台にある。駅を降りた瞬間から、それっぽい建物が遠くに見えるので容易にたどり着けるだろう。
重厚な「寅さんロケ地記念石碑」がお出迎え
薬師院に到着して、まず目を惹くのがこの立派な石碑である。私は思わず「おおおっ!」と歓喜の声を上げてしまった。これは2003年(平成15年)5月に妹尾昌美さんによって建てられたもの。石碑の側面・裏面には製作者や出演者の名前が彫られている。
石碑のすぐ横には、薬師院の入り口である重厚な山門がそびえ立っている。ここはインチキ坊主として初仕事をやり遂げた寅さんがタクシーから降り立った場所である。
寅さんがマドンナに一目惚れした「長い階段」
山門をくぐると、いよいよあの「長い階段」に到着する。ここは、寅さんがマドンナ朋子に初めて出会い、そして、一目惚れした場所である。
早速、寅さんの気持ちになり切って階段を見下ろしてみた。和装の美人が山門をくぐり、少しずつ自分の方へと近づいてくる……。嗚呼、寅さんでなくたって胸がときめいてしまうシチュエーションである。
本作の寅さんは、映画開始から13分30秒でマドンナ朋子に惚れた。これはおそらく「男はつらいよ」シリーズの最速記録だろう。そんな記録を叩きだした寅先生の気持ちが、この場所に立った自分にはとてもよくわかる。わかる、わかるよ寅ちゃん……。
ロケ地2:博の父・飇一郎のお墓(薬師院泰立寺内)
階段の脇には寅さんの墓参りシーンの撮影スポットがあった。劇中にあった「三村家」「亀山家」の墓石もしっかりと確認できる。
寅さんが向かい合った「諏訪家累代之墓」の墓石は当然セットだろう。その場所には墓石がすっぽり収まりそうなスペースがあった。私は劇中の寅さんになり切り、博の父・飇一郎(志村喬)の冥福を祈った。
先生、しばらくだな。俺だよ、寅だ。覚えてるか?葬式には来れなかったんで、今頃やってきた。
第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」11分45秒頃
俺は元気だよ。相変わらずのフーテン暮らしで嫁さんももらえねえけどもな。これは持って生まれた性分でしょうがねえや、ハハ。
博はちゃんとやってるからな。さくらとも仲良くやってるし、何の心配もいらねえよ。
おまけ:境内には映画撮影時の貴重な写真ファイルがある!
境内に入ると、美しく整えられた庭が広がり、そこには喧噪のない静かな時間が流れていた。実に心が落ち着く。
境内を散策していると、「玄関内に(映画撮影時の)写真がありますのでどうぞ」の立て札を見つけた。え、マジっすか!?ぜひ見たいです!!
早速、お寺の人に声を掛けて、本堂の横にある玄関をご案内いただいた。玄関にはドドーンと寅さん最新作のポスターが貼ってあった。
こちらがその写真ファイル。ファイルにそれぞれ20枚程度、ロケ撮影当時の写真が収められていた。映画撮影中の写真はもちろん、出演者たちがお寺の中でくつろいでいる写真、テレビ取材を受けている時の写真など、貴重な写真が盛りだくさん。渥美清や出演者たちのサイン色紙も入っていた。気になる中身はぜひ現地でご確認いただきたい。
案内してくれたお寺の方によると、私のような聖地巡礼者は結構な頻度でやってくるそうで、週に1~2組はお寺を訪ねてくるらしい。第32作の公開からもう40年が経とうとしているのに驚異的である。
お寺の方、貴重なものを見せていただき、本当にありがとうございました。
ロケ地3:白神食料品店の周辺
薬師院を後にして、次は紺屋町美観地区にある白神食料品店に移動した。このお店は第8作「寅次郎恋歌」にも登場する。第32作ではひろみ(杉田かおる)がここで働いている。
寅さんは白神食料品店の前にあった公衆電話からとらやに電話をかけ、飇一郎のお墓の場所を訪ねた。以前、寅さん関連のテレビ番組で、この時の公衆電話はセットだったと聞いたことがある。当然ながら今は跡形もない。
蓮台寺に一泊した寅さんは、二日酔いの蓮台寺住職(松村達雄)に代わって法事を見事に取り仕切る。法事が行われたのは白神食料品店のはす向かいにあるハンコ屋さんだったが、今は普通の民家になっていた。
ロケ地4:岡村邸の門(諏訪家)
諏訪家の長男・毅(梅野泰靖)は、三回忌を前に実家を訪問する。このシーンは「岡村邸」という実在するお屋敷の前で撮影された。
劇中では、長男・毅の後ろを特急・やくもが走っている(※作品では33分13秒頃)。1971年公開の第8作「寅次郎恋歌」でも同じようなアングルのシーンがあり、この時は蒸気機関車のD51が走っていた。山田洋次監督はこのシーンに、12年間の時の流れを記録しようと試みたのだろう。
ロケ地5:油屋旅館
博・さくらをはじめとする諏訪家一同が、三回忌法要の前日に宿泊したのが実在する「油屋旅館」である(※作品では34分01秒頃)。
撮影中には、渥美清をはじめとする出演者たちがここに宿泊した。旅館内には第8作・第32作の台本や、渥美清のサイン入り写真などが飾られているらしい。次回の備中高梁訪問時にはぜひここに宿泊したい。
ロケ地6:JR備中高梁駅のホーム
寅さんとマドンナ朋子は、東京に帰る博・さくら・満男たちをJR備中高梁駅のホームで見送った。
JR備中高梁駅は2017年に大規模リニューアルされており、ホームも駅舎も撮影当時から大きく様変わりしていた。こればっかりは時代の流れで仕方がない。
ロケ地7:ひろみが一道を見送った踏切(小高下踏切)
第32作「口笛を吹く寅次郎」は、サイドストーリーとして、マドンナ朋子の弟・一道(中井貴一)とひろみ(杉田かおる)の恋愛模様を描いて作品を盛り上げる。
東京に出ていく一道を、ひろみが見送った場所が小高下踏切(ここうげふみきり)だ。この踏切は、岡山県立高梁高等学校のすぐ近く、城下通りにある。うっかり写真を取り忘れてしまったので、別の方が撮影した動画を置いておく。
劇中ではひろみの背景に「佐々木食料品店」と書かれたアーケードがあるが、このアーケードはすでに壊され、お店の名前も「ササキストアー」に変わっていた。
この場所ではないが、備中高梁の別の場所で似たようなアーケードを見かけた。もし「佐々木食料品店」のアーケードが現存していれば、こんな感じでボロボロになっていたのかもしれない。
ロケ地8:方谷林公園
寅さんが落ち込むひろみを慰めた場所が「方谷林公園(ほうこくりんこうえん)」だ(※作品では1時間1分52秒頃)。備中高梁の市街地を一望できる高台にあって、春にはソメイヨシノ、夏にはサツキが咲き乱れるという。
ロケ地にたどり着くには、そこそこの坂道を登らなければならない。健脚な方には余裕の坂であろうが、運動不足の小生には少々こたえた。
坂道を登って5分ほどすると「方谷林展望台」と書かれた場所についた。そこから見下ろす備中高梁の眺めは、期待通りの美しさ。小ぶりな市街地とその横を悠々と流れる高梁川は実に趣がある。美しい薄暮の時間帯にここを訪れることができて本当に良かった。
この展望台、撮影当時から少し手が加えられているようで、劇中と同じアングルを見つけるのは難しかった。近しいアングルを探して記念写真をパチリ。
ロケ地9:高梁川の川べり
方谷林公園の展望台を下ると、すぐそこに高梁川が流れていて、その上には「方谷橋」が架かっている。ハンコ屋の主人(長門勇)とタクシー運転手(関敬六)が釣りをしたのはこのあたりの川べりだ(※作品では1時間5分5秒頃)。
ちなみに、高梁川では鮎が釣れるようで、先ほど紹介した油屋旅館でもシーズン中は鮎を目当てに宿泊する人がいるらしい。次回は食べてみたいぞ。
終わりに:日帰りもいいけど、一泊すればもっと楽しい町・備中高梁
寅さんの聖地巡礼を巡る旅・備中高梁篇は以上で終了だ。
今回の備中高梁の滞在時間は実質4~5時間程度。ほぼロケ地を巡るだけの旅となってしまったが、一泊で予定を組めば、「備中松山城」「吹屋(ふきや)ふるさと村」など、ロケ地以外の観光スポットも存分に楽しむことができる。余裕のある方には一泊スケジュールでの聖地巡礼をお薦めしたい。
次回訪問では、諏訪家一同が宿泊した「油屋旅館」に宿を取り、備中高梁の聖地巡りを完遂したいと思っている。何年後になるかわからないが、聖地巡礼の旅・備中高梁篇パート3をいつかやってみたいものである。
本記事では、第32作「口笛を吹く寅次郎」に登場したロケ地を中心に紹介しました。第8作「寅次郎恋歌」のロケ地については前回記事をご覧ください。