寅さんファンにとって、岡山県は特別な場所と言えるかもしれない。なぜなら、寅さんシリーズきっての名作、第8作「寅次郎恋歌」、第32作「口笛を吹く寅次郎」、そして第48作「寅次郎紅の花」のロケ地の一つが岡山県だからである。
今回の「寅さんの聖地を巡るシリーズ」の行く先はその岡山県。場所は、第8作および第32作のロケ地である備中高梁(びっちゅうたかはし)だ。ここは寅さんの妹・さくら(倍賞千恵子)の夫である、諏訪博(前田吟)の生まれ故郷という設定である。
参考書籍は毎度おなじみ、寅さんロケ地巡礼者のバイブル「男はつらいよ 寅さんロケ地ガイド」。それでは早速、聖地巡礼の旅に行ってみよう。
本記事では、第8作「寅次郎恋歌」に登場したロケ地を中心に紹介しています。第32作「口笛を吹く寅次郎」のロケ地については次回記事をご覧ください。
今回の寅さんロケ地データ
作品名 | 第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」 |
公開 | 1971年(昭和46年)12月29日 |
住所 | JR備中高梁(びっちゅうたかはし)駅 周辺 |
推奨移動手段 | 徒歩 or レンタサイクル |
到達難易度 | ★★☆☆☆ |
所要時間 | JR備中高梁駅から出発して、3~4時間程度 ※JR岡山駅から出発する場合は、6時間(半日)程度 |
JR岡山駅から聖地巡礼スタート!
なんでも揃うJR岡山駅でご当地駅弁を調達
JR岡山駅から備中高梁に向かう方法は2つ。岡山駅から特急・やくも(所要時間38分)に乗るか、普通列車・伯備線(所要時間54分)に乗るか。今回は、寅さんの急がない旅にならって、普通列車・伯備線に乗った。
JR岡山駅には「さんすて岡山」という立派な駅ナカ商業施設がある。ここでは「きびだんご」をはじめとする岡山のお土産や駅弁などのご当地ものが大抵手に入る。
電車内で食べるため「桃太郎の祭りずし」(1,000円[税込])を買った。桃の形をしている容器が大変めでたい。
JR伯備線は全席クロスシートになっていて、駅弁を食べるのにちょうど良かった。
手ぶらで聖地巡礼できる「ねこのてステーション」が便利
なお、JR岡山駅構内には、手荷物の一時預かりやホテルまでの手荷物配送(有料)をしてくれる「ねこのてステーション」という施設がある。手ぶらでのびのび移動ができるので、遠方からの巡礼者には嬉しいサービス。岡山は気が利いてるな~。
第8作「寅次郎恋歌」備中高梁駅周辺のロケ地マップ
さて、こちらが今回の聖地巡礼スポット。青い★のポイントが第8作のロケ地。赤い★のポイントは第32作のロケ地である。
備中高梁は、小ぶりな街の中にロケ地がギュッと集約されているので、半日もあれば十分にロケ地巡りできるだろう。JR備中高梁駅には観光案内所があり、街めぐりのマップなどはここで入手できる。
ロケ地1:JR備中高梁駅
聖地巡礼のスタートはJR備中高梁駅から。「ハハキトク スグカエレ」の報せを受けて、博とさくらが夜に降り立った場所である。(※作品では20分49秒頃)
JR備中高梁駅は、2017年に大規模リニューアルされているので、当時の面影を探すことは難しかった。劇中の有人改札も今ではすっかり無人改札に切り替わっている。
ロケ地2:山本金星堂書店
JR備中高梁駅についた博とさくらは、すぐにタクシーに乗って諏訪家に向かう。(※作品では21分07秒頃)
タクシーで移動中、フロントガラス越しに一瞬ちらりと映るお店が「山本金星堂書店」である。このお店は令和5年の現在もばっちり残っていた。
ロケ地3:岡村邸の門(博の実家)
やがて博とさくらは、諏訪家に到着する。諏訪家は「岡村邸」という立派な門構えの古いお屋敷だった。(※作品では21分14秒頃)
諏訪家がある通りは「武家屋敷通り」と呼ばれている。備中高梁には、鎌倉時代に築城が始まった「備中松山城」があり、町全体がかつては城下町だったのである。諏訪家のルーツは備中松山城に仕える武家だったのかもしれない。
「岡村邸」の目印は、門前に据えられたこの看板。目立つものなので、すぐに見つけられるだろう。
市と町が景観保全に取り組んでいることもあり、付近には映画製作当時の面影がばっちり残されていた。第8作の公開は1971年、もう50年近くも昔の作品なのに驚きである。
撮影当時の面影が残っていたので、劇中のシーンと同じアングルで記念撮影をしてみた。
先生、酒買ってきてくれよ、酒。俺全部飲んじゃったから。ゆうべの甘口なんだよな、辛口のほうが……地酒かなんかのうめえのが……いや面倒くせえ、俺、散歩がてら付いていかぁ。
第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」40分47秒頃
寅さんは居候のくせに、博の父である飇一郎(志村喬)にこんな発言をしたのである。なんと図々しい男であろうか。
ロケ地4:寅さんと飇一郎が歩いた坂道
「岡村邸」の門を背にして立ち、左手に向かうと、寅さんと飇一郎が買い物にいくため下っていった坂道がある。劇中ではここを蒸気機関車・D51が真っ黒い噴煙を上げながらブォーっと通っていった。今ではちょっと想像がつかない。
武家屋敷通りの近くには高校があり、劇中と同じように学校帰りの学生さんたちを目にした。女学生に陽気に声を掛ける寅さんの姿が目に浮かぶようである。
ロケ地5:白神食料品店
その後、寅さんと飇一郎が買い物をした「白神食料品店」に向かった。雰囲気は大きく変わっていたが、お店自体は残っていた。(※作品では41分18秒頃)
残念ながらこの日はお休みのようだった。お店が開いていたら、寅さんのようにアンパンと牛乳を買いたかった。
ロケ地6:寅さんと飇一郎が渡った橋
その後、寅さんと飇一郎が渡ったと思われる橋も発見した。「白神食料品店」の前を流れる水路を上流に遡っていくと見つかる。橋は改修されているようで、外観が少し異なっていた。
かつては備中松山城の外堀だったというこの水路は、綺麗に整備されていて風情があった。町には京都風の町屋もそこかしこにあり、備中高梁が「備中の小京都」と呼ばれるのも納得である。
ロケ地7:巨福寺と寿覚院の境目(博の母親のお墓)
第8作「寅次郎恋歌」には、寅さんがお墓の前で「はい、笑ってぇ~」と言ってしまい、諏訪家一同の顰蹙を買う印象的なシーンがある。(※作品では29分頃)
このシーンの撮影場所は「寅さんロケ地ガイド」に載っていないのだが、有難いことに、聖地巡礼の諸先輩方が場所をWeb上にアップしてくれている。私は、ちびとら氏のWebサイト「ちびとらの寅さんロケ地の旅」を参考にさせてもらった(ちびとら氏は、幼少期から聖地巡礼に取り組んでいるという敬虔な巡礼者である)。
お墓シーンのロケ地は、寅さんと飇一郎が渡った橋からほど近い、巨福寺と寿覚院の境目あたりにあった。
場所の特定には、俳優たちのすぐ後ろに建つ3つの墓石のシルエットや、遠くに映る山の稜線がヒントになった。おそらく、この写真の場所だろう。
撮影場所を横から撮影。遠景の山の稜線が劇中のものと一致した。撮影当時からすでに相当古そうだった土塀はさすがに取り壊されていた。
寅さんの「はい、笑ってぇ~」につられて、思わず笑ってしまった次男の修(おさむ)を再現してみたが、いかがだろうか?
ちなみにこの写真は、三脚にカメラをセットしてタイマーで自撮りしている。人気のない墓地でひたすら自撮りに励む私は、相当な不審人物に見えたことだろう(まあ実際に不審人物なんだけど)。
おまけ:ロケ地巡りの合間に立ち寄りたい休憩スポット
ロケ当時の貴重な写真が見られる「高梁市観光物産館・紺屋川」
最後に、ロケ地巡りの合間に利用できる休憩スポットをご紹介したい。「白神食料品店」から高梁川の方向に向かって進むと、「高梁市観光物産館・紺屋川」というお店がある。
ここでは高梁市の名産品やお土産販売のほかに、軽食や休憩スペース、トイレを提供している。中にはご覧の通り、寅さんコーナーもあった。
高梁市には、映画やドラマ撮影の支援をする「たかはしフィルム・コミッション」という団体がある。この団体の支援を得て、「釣りバカ日誌18」「県庁の星」「バッテリー」などの映画作品も高梁市でロケ撮影を行ったらしい。「愛・天地無用!」というアニメ作品の舞台にもなっているそうだ。
備中高梁は「江戸・明治・大正・昭和」がすべて味わえる歴史の町
今回は時間が足りず訪問できなかったが、備中高梁には、日本に現存する12天守のうち唯一の山城である「備中松山城」や、ノスタルジックな風景が楽しめる「吹屋(ふきや)ふるさと村」など見どころが多い。
その他にも、備中高梁の町並みには江戸・明治・大正・昭和初期など各時代を感じさせる建物が姿をとどめており、興味深い。
古き良き時代のものが好きな人にとって、たまらなく興味をそそる町。それが備中高梁だと言えよう。ロケ地巡りの合間に、ぜひ町中も散策して、第8作「寅次郎恋歌」の雰囲気にどっぷりと浸っていただきたい。
本記事では、第8作「寅次郎恋歌」に登場したロケ地を中心に紹介しました。第32作「口笛を吹く寅次郎」のロケ地については次回記事をご覧ください。