※注:Pabu蛾次ママは2020年12月31日に閉店いたしました。本記事は2016年12月に公開されたものです。
佐藤蛾次郎さんのお店「Pabu 蛾次ママ」に行ってきた。お店の存在は2,3年前から知っていたのだけど、銀座という立地を考えると高級店に違いないと思い込み、なんとなく足が向かわなかったのだ。
しかし、先日発売された『100%寅さん』の蛾次郎さんインタビューをきっかけにお店をWeb検索してみると(Webサイトも多分ないだろうと思い検索すらしていなかったのだ)、料金を明示しないスナックが多い中で”飲み放題1時間3000円”とむちゃくちゃ良心的な価格設定をしているではないか!
蛾次郎さんがお店にいれば、渥美さんと蛾次郎さんの貴重なツーショットフォトもプレゼントしてくれる特典もあるらしく、早速お店に行ってきた次第。
お店は新橋駅から徒歩5分ほど。黒塗りのハイヤー、外国人観光客、出勤途中のパブのママさんなどでごった返す銀座八丁目交差点近くのビルの9Fにあった。平日月曜日の19時だというのにものすごい人通りである。やがてビルの外に「蛾次ママ」の看板を発見。実に銀座らしい風景の中に蛾次郎さんのお店はあった。
いかにもスナック風なドアをあけると、オープンはしているがまだお客さんはいないようだった。店の奥から「いらっしゃい」と静かな声が聞こえ奥に進むと、なんとそこにいきなり佐藤蛾次郎氏がいた!玄関開けたら5秒で蛾次郎。結構なインパクトである。
こちらは蛾次郎さんのお名刺。狭いスナック空間に蛾次郎さんとほぼ二人きりという状態で恐縮しきり緊張しきりである。店内は10畳ぐらいで「ザ・スナック」という趣。以前も銀座の別の場所で20年お店をやり、今の場所でさらに20年近く経営をされているという。店内の壁のシミにほんのり時の重みを感じる。
カウンターの向こうでは、蛾次郎さんのトークに絶妙な合いの手を入れるご子息の俳優・佐藤亮太さんが忙しく働いている。店内にお客さんが増えると、各席のトーク相手をしながら、水割りを作り、料理を作り、蛾次郎さんにも接客の指示を出しと、まさに八面六臂の大活躍。テキパキとした身のこなしに思わず見惚れてしまった。
店内には蛾次郎さんの思い出写真が飾られてあり、息子さんと蛾次郎さんの2ショット写真もあった。これは亮太さん5歳のころの写真。なんというか、むちゃくちゃ味のある写真である。この二人が40年ほどの時を経てこうなるのである。これぞ人生。
蛾次郎さんとは延べ2時間ほどじっくりお話をさせていただいた。最近見ているテレビの話、店内にある007ポスターのお話、最近のお仕事の話、そして『男はつらいよ』シリーズの撮影秘話と、なんとゴージャズな時間でありましょうか。写真もOK!ブログもOK!ということだったので、差し障りない範囲で印象深かったお話をご紹介したい。
こちらは、寅さんシリーズ第10作『寅次郎夢枕』の際、結婚式を挙げていなかった蛾次郎さんのために山田洋次監督がサプライズプレゼントをした結婚記念写真だ。監督はこのために白無垢姿の花嫁が登場するシーンを作品内につくり、その役に奥さんを抜擢したのだ。カメラマンはなんと篠山紀信。ちょうど渥美清の写真撮影でその場に偶然居合わせており撮影してくれたのだという。「結婚写真なんて絶対に取らない人だから、本当に貴重だよ。俺ってツイてるんだよ」。
店内には第13作『寅次郎恋やつれ』のスチール写真もあった。「船のシーンで、源ちゃんが釣り竿を川に落っことしちゃうでしょ?あれはもともとテストしてた時に偶然釣り竿の先が落っこちて、俺がむちゃくちゃ焦ったら山田監督が『それ面白い!』って。それで本番でもやることになったんだよ。だけどなかなかうまいこと釣り竿の先が落ちてくれないわけさ。早く落ちたり、なかなか落ちなかったりで、もう何回も撮り直しよ。喜劇映画だけど現場は本当に大変だよ」。
そして蛾次郎さんはなんと歌声まで披露してくださった。曲は『遠くへ行きたい』。渋い。その歌声は第31作のマドンナ・都はるみ本人にも褒められたというほどの美声!気分はすっかり佐藤蛾次郎ディナーショウ。
そして!最後のお楽しみはなんといってもこのお店でしか食べられない蛾次郎さん特製「寅さんカレー」。カレー粉はご自身で調合し、使用する油は鶏むね肉の油のみ。ウコンや高麗人参などの漢方も入っているため、これを食べたお客さんは二日酔いをしないらしい。蛾次郎さんは特に料理修行をしていた過去もなく、完全な趣味料理からこのカレーにたどり着いたとのこと。
寅さんの撮影ではある時から必ずこのカレーが振る舞われていたそうで、最近では木村拓哉、坂本龍一なども絶賛した味らしい。寅さん最終作では、ガンでほとんど食事を取れなかった渥美清さんもこのカレーをぺろりと平らげた。「『蛾次郎、いままで美味しいカレーを作ってくれてありがとうな』って、俺への感謝の気持ちだったんじゃないかな」。
薬膳がほのかに香るルーはスパイシーだが、不思議とまったく辛くない。油を使っていないため実に優しく胃袋へと降りてくる。この歳(30代後半)になるとカレーによっては食べるのも一苦労だったりするが、寅さんカレーはびっくりするほど食べやすく、まるでお茶漬けのように「サラサラ」と流し込めてしまう。親しみやすい味の奥底に、漢方の醸し出す絶妙な渋み、苦味が隠されており、まさに寅さんシリーズのようなカレーである。
カレー好きならば、一度は食べてみる価値のあるカレーだと思う。ルーのストックがない日もあるそうなので、どうしても食べたい!という方は来店前にお電話でご確認ください。
最後は、シリーズ撮影当時から着ている源ちゃんの題経寺ハッピで記念撮影。お店でしか売っていない源ちゃんオリジナル焼酎もお土産に購入させていただき、こちらにはサインをいただいてしまった。この貴重なサイン入り焼酎は飲めないっす。神棚に飾っておこう。
「Pabu 蛾次ママ」、とてもきさくに入れるフレンドリーなお店なので寅さんファンならばぜひ一度行ってみてほしい。ただし、蛾次ママはあくまでも夜の社交場。酔ってしつこく裏話を聞くマナー違反はご遠慮いただき、楽しい夜をお楽しみくださいな。
「Pabu 蛾次ママ」(パブ・ガジママ)
http://www.gajimama.com/
〒104-0061
東京都中央区銀座8-7-11ソワレド銀座第2弥生ビル9F
営業時間:18:30~24:00(日祝除く)
ご予約・お問い合わせは TEL.03-3571-8781