今回の「寅さんの聖地を巡るシリーズ」は、岡山県総社(そうじゃ)市にある備中国分寺跡(びっちゅうこくぶんじあと)を取り上げる。
備中国分寺跡は、寅さんシリーズの人気作品・第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」のオープニングが撮影された場所。寅さんは旅の途中で出会った親子連れとここを訪れ、その後、一人で備中高梁へと向かっている。
前回紹介したロケ地・備中高梁(びっちゅうたかはし)とはそれほど距離が離れていないので、時間のある聖地巡礼者なら、備中高梁と備中国分寺跡をあわせて巡ることができるだろう。
参考書籍は毎度おなじみ、寅さんロケ地巡礼者のバイブル「男はつらいよ 寅さんロケ地ガイド」。それでは早速、聖地巡礼の旅に行ってみよう。
今回の寅さんロケ地データ
作品名 | 第32作「男はつらいよ口笛を吹く寅次郎」 |
公開 | 1983年(昭和58年)12月28日 |
住所 | 〒719-1123 岡山県総社市上林1046 |
推奨移動手段 | 車orタクシー |
到達難易度 | ★★★☆☆ |
所要時間 | JR総社駅から車で15分 |
第32作「口笛を吹く寅次郎」総社駅周辺のロケ地マップ
まずは、第32作「口笛を吹く寅次郎」における寅さんの足取りを地図で確認しておこう。
寅さんは、備中高梁に到着する前に、JR吉備線(通称・桃太郎線)に乗り、車内で出会った親子連れと一緒に備中国分寺跡を散策している。その後、寅さんはJR吉備線・豪渓駅の近くにある本村バス停で親子連れと別れ、高梁川の渡し船に乗る。
渡し船に乗った後、寅さんがどうやって備中高梁に到着したかは劇中で描かれていないので、ここでは電車ルートを紹介しておく。地図上に赤いラインで描いた岡山駅-総社駅ルートはJR吉備線で約30分。地図上に青いラインで描いた総社駅-備中高梁駅ルートはJR伯備線で約25分である。
当方、鉄道に関してはまったくの門外漢なので、本作に登場するJR吉備線について、鉄道写真家・南正時氏の文章を引用しておこう。
『口笛を吹く寅次郎』では冒頭に吉備線に揺られる寅さんの姿があった。寅さんは義理堅く、しっかりローカル線を選んでいたのである。ちなみに登場する気動車はキハ30系で、後日スタッフに聞けばスケジュールが押して関東近郊の「相模線」でロケしたとのことだ。この別撮りは映画の中ではよくあることなので私は気にしないが、「鉄」にしてみれば車両に違和感を感ずるであろう。
旅と鉄道 増刊 「寅さんの鉄道旅 山田洋次 監督50周年」(46P)
ロケ地:備中国分寺跡
オープニングシーンの「備中国分寺跡」は総社駅から車で約15分
それでは総社市の聖地巡礼をはじめよう。地図の通り、備中国分寺跡は駅からだいぶ離れており、適当な路線バスもない。総社駅前からタクシーに乗って向かうのが良いだろう。タクシーなら約15分で到着する。
備中国分寺跡の周辺にはのどかな田園風景が広がっている。時折、田園の中にぽっこりと丘が現れるが、タクシーの運転手さんによるとそれは「古墳」だという。帰宅後に調べると、周辺には作山(つくりやま)古墳、江崎古墳、角力取山(すもうとりやま)古墳など、古墳時代の名残がいくつもあった。
美しい田園風景の中に現れる「備中国分寺跡」
やがてたどり着いた備中国分寺跡は、美しい田園風景の中にあった。備中国分寺は聖武天皇(701~756)の発願により全国に建立された国分寺の一つで、現在の建物は江戸時代に再建されたものだという。
この日は平日だったため人影はまばら。観光客と思しき人々と、散歩をする近隣住民の人々が太陽の光を浴びてのんびり過ごしていた。
寅さんと親子連れがピクニックに興じていた場所
寅さんと親子連れがくつろいでいた芝生の場所(作品では4分24秒頃)はすぐに見つかった。備中国分寺跡を正面に見て、左側にある広場である。
その広場に見覚えのある看板を発見。寅さんの背景に映っていた「制札板」である(作品では4分35秒頃)。
現地でこの札を発見した時は嬉しく、思わず「お前!生きてたのか!」とつぶやいてしまった。しかし、映像とよくよく見比べてみると、書いてある内容は同じだがレイアウトが若干異なっている。撮影後に改修されたのだろう。
となりにレオナルド熊はいないが、劇中と似たアングルを探して記念写真をパチリ。
第32作撮影当時(1983年)とほとんど変わらない風景が広がっていた
さらに、劇中と同じ風景を探していると、寅さんとレオナルド熊が立ち話をしている時(作品だと5分17秒頃)の背景によく似たアングルを見つけた。うねりながら伸びる道、遠くに見える三角屋根の建物が撮影当時(1983年)とまったく一緒だった。
おまけ1:備中国分寺五重塔
せっかくなので、備中国分寺跡の境内も散策した。
こちらが備中国分寺五重塔。岡山県唯一の五重塔で、国の重要文化財に指定されている。青空に向かって伸びる塔身が壮麗であった。
おまけ2:「総社赤米(そうじゃあかごめ)」で作った甘酒が美味しい
境内には、休憩所「くろひめ亭」があり、ここでは喫茶のほか、お土産品を売っていた。
総社市では古来から「総社赤米(そうじゃあかごめ)」の栽培が行われていて、備中国分寺跡周辺の田んぼでは毎年栽培されているという。「くろひめ亭」はこの赤米を使った珍しい甘酒(350円[税込])を提供している。滋味にあふれる優しい味だった。
おまけ3:乗り間違え&乗り過ごしには要注意!
最後に、今回の聖地巡りの失敗談をお伝えしておく。
劇中の寅さんは、岡山駅からJR吉備線(通称・桃太郎線)に乗って総社駅に向かったが、私は時間の都合もあって、JR吉備線ではなくJR伯備線に乗って総社駅に向かった。
この時、私は伯備線車内にて岡山名物「さわら丼」を夢中で食しており、ついうっかり総社駅を乗り過ごしてしまったのだ。ちなみに「さわら丼」はめちゃくちゃ美味しかった!
慌てて次の豪渓(ごうけい)駅で降りたが、伯備線は1時間に1~2本しか出ていない。仕方なく豪渓駅で時間を潰して引き返そうと考えたが、豪渓駅はご覧の通り無人駅で、駅前にはお店らしいものはなんにもない。
寅さんだったらここでのんびりと電車を待つのだろうが、この日の私には帰りの新幹線の時間が迫っていた。結局、豪渓駅前にポツンとあった豪渓交通さんに駆け込み、運よく駐在していた運転手さんにタクシーで備中国分寺跡まで運んでもらった。はぁ~助かった~。
というわけで、賢明な聖地巡礼者におかれては、岡山名物の「さわら丼」に十分ご注意いただきたいと思う(そこじゃない)。