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寅さん全作品解説/番外編3『男は愛嬌』

あの頃映画 「喜劇 男は愛嬌」 [DVD]
本作をひとことで言うと

破壊力抜群!キレッキレの渥美清が大暴れ

第3作『フーテンの寅』の監督を務めた森崎東が、主演に渥美清を迎えて製作した喜劇映画。車寅次郎を10倍アグレッシブにしたような粗暴で攻撃的なキャラクター・オケラの五郎を伸び伸びと演じる渥美清が最高に面白い。「男はつらいよ」シリーズがいろんな監督の持ち回りで製作されていたとしたら、こんな寅さんが実現していたのかもしれない。

マドンナ

倍賞 美津子(当時 24歳)

役名:小川春子
松竹歌劇団を経て21歳で松竹映画デビュー。「男はつらいよ」シリーズのさくらを演じた倍賞千恵子は実の姉にあたる。本作「男は愛嬌」ではグラマラスな肢体がクローズアップされるなど、姉・倍賞千恵子とは違った魅力を振りまいている。

「男は愛嬌」評論

実現しなかった”もうひとつの寅さん”を垣間見る作品

本作『男は愛嬌』は、第3作『フーテンの寅』の監督を務めた森崎東が、主演に渥美清を迎えた喜劇映画。『フーテンの寅』公開の2か月前、1970年6月に公開された。

『男はつらいよ』シリーズにおける渥美清は、ホロリと泣かせる演技、バカで間抜けな演技、聞き手をうっとりさせる仕方話、さらに初期作品では体を張ったギャグなど、豊富な演技の引き出しから多面体の演技を見せてくれる。

本作では、そんな数ある渥美清の引き出しの中から「図々しくて」「粗暴で」「攻撃的で」「ヤバい男」というキャラクターが飛び出している。『男はつらいよ』シリーズの車寅次郎は時折、おいちゃんおばちゃんを相手にイヤ味たっぷりの演説をぶったり、タコ社長にドギツイ悪態をついたりするが、本作はそんな「粗暴な寅さん」だけで全編演じられるのだ。

「姉は淫売、妹は芸者、末のチョロ松はバクチ打ち、兄貴はドヤ街でモク拾い、あたしゃやさぐれネリカン(=東京少年鑑別所の俗称)暮らし!」

「どうだ!諸君!見ろみろこのパイオツを!このハリのあるツーケーを!」

「いいか、春坊(=ヒロイン)をお前にくれてやるよ、ありがたく思え!そのかわり春坊は俺のおふるだぞ。ガキが産まれたらよおくツラを見てみろ。俺に似て男前だったら大変だ!どうだざまあみろい!」

こんな調子で、ひたすら下品で、汚く、憎たらしい言葉がマシンガンのごとく放たれる。そんな役回りを水を得た魚のごとく、のびのびイキイキと演じる渥美清が小気味よい。「なにぃ?」「この野郎!」「上等だよ!」悪態をつく時の声のハリなんかもう絶品。

ストーリーにそれほど面白みはないが、ドンピシャな役回りを得た渥美清と、ワキをかためる寺尾聡、田中邦衛、財津一郎たちとの狂気に満ちた丁々発止、それらをパワフルにまとめあげる森崎監督の演出力によって、喜劇映画として一定の水準に達している。

勢いでドーン!みたいな力技の映画であるが、そこがいい。仮に渥美清がキャスティングできなければ、間違いなく駄作に終わっていただろう作品である。

『男はつらいよ』シリーズは第5作『望郷篇』から山田洋次監督のみがメガホンをとり、以降、車寅次郎のキャラクターは回を重ねるごとにマイルドな人格になっていく。

しかし、もし『男はつらいよ』シリーズが毎回違う監督がメガホンをとる映画シリーズになっていたならば、車寅次郎は本作の渥美清が演じたように、もっと粗暴で、もっとヤバい男として描かれていたのかもしれない。

本作『男は愛嬌』は、そんな実現しなかったもうひとつの寅さんを垣間見させてくれる作品である。山田洋次版寅さんのイメージに固定されない、この路線の渥美清ももっと見てみたかったなあと私は夢想する。

初期寅さん、特に第3作『フーテンの寅』のテイストが好きな向きには、強くお薦めしたい作品である。キレッキレの渥美清は破壊力抜群、もう誰にも手がつけられない。

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