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寅さん全作品解説/第3作『男はつらいよフーテンの寅』(1970年1月公開)

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本作をひとことで言うと

森崎東版・異色の寅さん

山田洋次以外が監督を務めることで、シリーズ中最も異色作となった第3作。力強い作風、生々しい底辺の暮らし、徹底してバカとして描かれる寅さんなど、他作品にはない独特の質感。人情味は薄めだが、バイタリティ豊かに生きる寅さんは極めて痛快で、本作の寅さんが一番好き!という人の存在も頷ける佳作。

マドンナ

新珠 三千代(当時 40歳)

役名:志津
職業:
温泉旅館の女主人
ホットな寅さんに対するクールな反応に、やや冷たさを感じてしまう損な役回りのマドンナ。独特のセリフまわし、着物姿の所作の美しさを見るに、現代にはこういう女優がすでに絶滅してしまったのではないかと思う。

第3作「男はつらいよフーテンの寅」解説・評論

寅さんを「バイタリティ豊かなバカ」として描く、異色の森崎東ワールド

『男はつらいよ』は第2作で終わると考えていた山田洋次の予想を裏切り、松竹はさらなる続編の製作を決定。そこで山田洋次は、脚本は書くが監督は他をあたってほしいと会社に訴え、本作は森崎東が監督を務めることになった(代表作は『塀の中の懲りない面々』『ペコロスの母に会いに行く』)。シリーズ中、山田洋次以外がメガホンを取るのは本作と第4作『新・男はつらいよ』のみである。

監督が変わることで『フーテンの寅』は他の作品と比べて明らかに異色の作品となった。しかし、本作をベストにあげる人もおり、森崎東節とも言うべき独特の魅力を持った一本に仕上がっている。

まず、力強いテイストが特徴だ。真っ赤に彩られた『フーテンの寅』のタイトルバックに、煙を吹き上げ爆走するSLの映像が差し込まれる。セリフ、演出、映像の随所に、荒々しさが感じられる。劇中には何度も「貧乏人」という言葉が飛び出し、半身麻痺に侵され酒びたりとなった元テキ屋の哀しい姿も映しだされる。底辺の暮らしをオブラートに包まず見せることも、他のシリーズ作品ではあまり見られない。

そして、異色作である最大のポイントは、寅次郎を見つめる視点が、山田洋次作品とは大きく違うこと。本作の寅さんは、徹底して「バカ」として描かれているのだ。

失恋に至る流れを見れば明らかだが、本作の寅さんには共感できるポイントがほとんどない。現役テキ屋として、元テキ屋の先輩に見せる人情のシーンは見どころのひとつだが、それはアウトロー社会に生きる人間のものであって、一般市民が共感を覚えるのは難しい。

男はつらいよを熱心に見ている我々ファンは、寅さんをどこか自分たちの仲間、友達、味方、あるいは良き理解者として見ている。それは取りも直さず、各作品で繰り広げられる寅さんの奮闘努力に揺るぎない「共感」を覚えるからだ。

一方、本作における寅さんは、徹底して「バカ」な「あちら側」の人間として描かれており、笑いこそすれ「共感」するまでには至らない。これが本作を異色作たらしめている最大の要因であろう。

しかしながら、他の作品以上に力強くバイタリティ溢れる寅さんは、やっぱり魅力的だ。ラストシーンにおける「おまえのケツはクソだらけ!」の大合唱は実に痛快。このラストシーンにも本作の魅力が象徴されている。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 森﨑東 (監督)
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第3作「男はつらいよフーテンの寅」 作品データ

公開1970年(昭和45年)1月15日
上映時間90分
主要な出演者【車寅次郎】渥美清
【諏訪さくら】倍賞千恵子
【お志津】新珠三千代
【染奴】香山美子
【信夫】河原崎建三
【駒子】春川ますみ
【お澄】野村昭子
【徳爺】左卜全
【千代】佐々木梨里
【信州の女中】悠木千帆
【坂口清太郎(染奴の父)】花沢德衛
【車竜造】森川信
【車つね】三崎千恵子
【諏訪博】前田吟
【梅太郎】太宰久雄
【御前様】笠智衆
【源吉】佐藤蛾次郎
同時上映ひばり森進一の花と涙と炎(美空ひばり、森進一)
観客動員数52万6,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san, His Tender Love

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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