森崎東版・異色の寅さん
山田洋次以外が監督を務めることで、シリーズ中最も異色作となった第3作。力強い作風、生々しい底辺の暮らし、徹底してバカとして描かれる寅さんなど、他作品にはない独特の質感。人情味は薄めだが、バイタリティ豊かに生きる寅さんは極めて痛快で、本作の寅さんが一番好き!という人の存在も頷ける佳作。
新珠 三千代(当時 40歳)
役名:志津
職業:温泉旅館の女主人
ホットな寅さんに対するクールな反応に、やや冷たさを感じてしまう損な役回りのマドンナ。独特のセリフまわし、着物姿の所作の美しさを見るに、現代にはこういう女優がすでに絶滅してしまったのではないかと思う。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」解説・評論
寅さんを「バイタリティ豊かなバカ」として描く、異色の森崎東ワールド
『男はつらいよ』は第2作で終わると考えていた山田洋次の予想を裏切り、松竹はさらなる続編の製作を決定。そこで山田洋次は、脚本は書くが監督は他をあたってほしいと会社に訴え、本作は森崎東が監督を務めることになった(代表作は『塀の中の懲りない面々』『ペコロスの母に会いに行く』)。シリーズ中、山田洋次以外がメガホンを取るのは本作と第4作『新・男はつらいよ』のみである。
監督が変わることで『フーテンの寅』は他の作品と比べて明らかに異色の作品となった。しかし、本作をベストにあげる人もおり、森崎東節とも言うべき独特の魅力を持った一本に仕上がっている。
まず、力強いテイストが特徴だ。真っ赤に彩られた『フーテンの寅』のタイトルバックに、煙を吹き上げ爆走するSLの映像が差し込まれる。セリフ、演出、映像の随所に、荒々しさが感じられる。劇中には何度も「貧乏人」という言葉が飛び出し、半身麻痺に侵され酒びたりとなった元テキ屋の哀しい姿も映しだされる。底辺の暮らしをオブラートに包まず見せることも、他のシリーズ作品ではあまり見られない。
そして、異色作である最大のポイントは、寅次郎を見つめる視点が、山田洋次作品とは大きく違うこと。本作の寅さんは、徹底して「バカ」として描かれているのだ。
失恋に至る流れを見れば明らかだが、本作の寅さんには共感できるポイントがほとんどない。現役テキ屋として、元テキ屋の先輩に見せる人情のシーンは見どころのひとつだが、それはアウトロー社会に生きる人間のものであって、一般市民が共感を覚えるのは難しい。
男はつらいよを熱心に見ている我々ファンは、寅さんをどこか自分たちの仲間、友達、味方、あるいは良き理解者として見ている。それは取りも直さず、各作品で繰り広げられる寅さんの奮闘努力に揺るぎない「共感」を覚えるからだ。
一方、本作における寅さんは、徹底して「バカ」な「あちら側」の人間として描かれており、笑いこそすれ「共感」するまでには至らない。これが本作を異色作たらしめている最大の要因であろう。
しかしながら、他の作品以上に力強くバイタリティ溢れる寅さんは、やっぱり魅力的だ。ラストシーンにおける「おまえのケツはクソだらけ!」の大合唱は実に痛快。このラストシーンにも本作の魅力が象徴されている。
第3作「男はつらいよ フーテンの寅」を今すぐ観るなら
- Amazon Prime Videoならレンタル400円/購入2,500円で今すぐ視聴可能
- プライム会員なら「プラス松竹」で寅さん全作見放題!【14日間無料体験可能】
※価格や無料体験特典は2024年3月時点の情報です。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」 作品データ
公開 | 1970年(昭和45年)1月15日 |
上映時間 | 90分 |
主要な出演者 | 【車寅次郎】渥美清 【諏訪さくら】倍賞千恵子 【お志津】新珠三千代 【染奴】香山美子 【信夫】河原崎建三 【駒子】春川ますみ 【お澄】野村昭子 【徳爺】左卜全 【千代】佐々木梨里 【信州の女中】悠木千帆 【坂口清太郎(染奴の父)】花沢德衛 【車竜造】森川信 【車つね】三崎千恵子 【諏訪博】前田吟 【梅太郎】太宰久雄 【御前様】笠智衆 【源吉】佐藤蛾次郎 |
同時上映 | ひばり森進一の花と涙と炎(美空ひばり、森進一) |
観客動員数 | 52万6,000人 ※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より |
洋題 | Tora-san, His Tender Love |
「男はつらいよ」全作品解説リンク
- 第1作『男はつらいよ』
- 第2作『続・男はつらいよ』
- 第3作『男はつらいよフーテンの寅』
- 第4作『新・男はつらいよ』
- 第5作『男はつらいよ望郷篇』
- 第6作『男はつらいよ純情篇』
- 第7作『男はつらいよ奮闘篇』
- 第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』
- 第9作『男はつらいよ柴又慕情』
- 第10作『男はつらいよ寅次郎夢枕』
- 第11作『男はつらいよ寅次郎忘れな草』
- 第12作『男はつらいよ私の寅さん』
- 第13作『男はつらいよ寅次郎恋やつれ』
- 第14作『男はつらいよ寅次郎子守唄』
- 第15作『男はつらいよ寅次郎相合い傘』
- 第16作『男はつらいよ葛飾立志篇』
- 第17作『男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け』
- 第18作『男はつらいよ寅次郎純情詩集』
- 第19作『男はつらいよ寅次郎と殿様』
- 第20作『男はつらいよ寅次郎頑張れ!』
- 第21作『男はつらいよ寅次郎わが道をゆく』
- 第22作『男はつらいよ噂の寅次郎』
- 第23作『男はつらいよ翔んでる寅次郎』
- 第24作『男はつらいよ寅次郎春の夢』
- 第25作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花』
- 第26作『男はつらいよ寅次郎かもめ歌』
- 第27作『男はつらいよ浪花の恋の寅次郎』
- 第28作『男はつらいよ寅次郎紙風船』
- 第29作『男はつらいよ寅次郎あじさいの恋』
- 第30作『男はつらいよ花も嵐も寅次郎』
- 第31作『男はつらいよ旅と女と寅次郎』
- 第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』
- 第33作『男はつらいよ夜霧にむせぶ寅次郎』
- 第34作『男はつらいよ寅次郎真実一路』
- 第35作『男はつらいよ寅次郎恋愛塾』
- 第36作『男はつらいよ柴又より愛をこめて』
- 第37作『男はつらいよ幸福の青い鳥』
- 第38作『男はつらいよ知床慕情』
- 第39作『男はつらいよ寅次郎物語』
- 第40作『男はつらいよ寅次郎サラダ記念日』
- 第41作『男はつらいよ寅次郎心の旅路』
- 第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』
- 第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』
- 第44作『男はつらいよ寅次郎の告白』
- 第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』
- 第46作『男はつらいよ寅次郎の縁談』
- 第47作『男はつらいよ拝啓車寅次郎様』
- 第48作『男はつらいよ寅次郎紅の花』
- 第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』
- 第50作『男はつらいよお帰り寅さん』
- 番外編 テレビドラマ版『男はつらいよ』
- 番外編1『虹をつかむ男』
- 番外篇2『キネマの天地』
- 番外編3『男は愛嬌』
- 番外編4『山田洋次×渥美清 TBS日曜劇場傑作選 4作品DVDボックス』