寅さん全48作品解説/第5作『男はつらいよ望郷篇』

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寅さん、勤労に励む

3作目4作目を別監督に譲った山田洋次がシリーズ完結の意気込みで作る渾身の一作。テンポのよいストーリーは映画脚本のお手本ともいえる出来栄え。圧巻は失恋シーンにおける渥美清、稀代の名演。1作目から積み上げられてきた作品の諸要素がいよいよシリーズものとして完成した屈指の名作。金字塔的作品。

マドンナ/長山藍子

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役名:三浦節子(美容師)
TVドラマ版寅さんで妹さくら役をつとめた長山藍子がマドンナとして登場。若々しいミニスカートから溢れ出る肉感的な魅力は他のマドンナにはないもの。寅さんへの思わせぶりな態度はまさに悪女。節っちゃん、あんたワルい女やで~。

第5作「男はつらいよ望郷篇」評論

「男はつらいよ」いよいよここに完成!シリーズ化を決定づける金字塔的大傑作

男はつらいよは、どの作品がお薦めでしょうか?──そう問われたら迷うことなくお薦めしたいのが本作『望郷篇』。初期作品の中では、1作2作と並ぶ文句なしの名作である。

3作4作を別の監督に譲った山田洋次。しかし、出来上がった作品にどうしても納得がいかない。当初意図した通りの世界観を描き切り、本作にてシリーズ有終の美を飾ろうとする山田監督の気合がこもった作品だ。

まず、映画の出来不出来を大きく左右する脚本が素晴らしい。映画とは、登場人物のドラマ上の欲求がいかに叶えられるかの物語であり、よい映画とは例外なく、その欲求を叶えんとする過程における悪戦苦闘が面白いものである。

その意味で『望郷篇』の脚本はお手本ともいえる出来映えだ。「地道な暮らし」を求める寅さんの前に、次から次へと障害があらわれる。やれやれ一段落と思うと、すぐまた別の障害が巻き起こり、観客は息もつかせぬまま物語に惹きこまれていくのだ。

よい脚本を得て、渥美清の演技もいよいよ冴え渡る。この稀代の喜劇役者の演技も、本作品みどころの一つである。

テキ屋親分の息子を探す旅で見せる哀しみと、兄弟の盃を割る際のドスが効いた凄みは、映画をギュっと引き締める。かと思えば一転、「労働に行ってくるからな!」と今度は陽気なバカをクルクルと演じわける。

極めつけは、シリーズの中でも一二を争う見事なフラレっぷりを見せる失恋シーンだ。今回の失恋では、寅さんは喜びの絶頂から急転直下絶望のどん底へ。それでもなんとか無理をして「顔で笑って心で泣いて」を貫こうとする。

誤解を恐れずにいえば、今回のマドンナ節子は、自分が好きな男と一緒になるために寅さんの好意を利用した悪女なのだ(無意識を装うあたり、なおさらタチが悪い)。このような人物設定の甲斐(?)もあってか、3作4作ではついぞ感じられなかった寅さんへの同情と共感がここに生まれており、長く愛されるシリーズとなった理由の一つが垣間見える。

山田洋次が渾身の力を込めて放った本作品はやはり大ヒット。本作で完結するはずだった男はつらいよは、こうして本格的なシリーズ化の道を歩むこととなる。

1作から積み上げてきたシリーズとしての様々な試みはここに完成を迎え、シリーズ黄金時代の幕開けを告げる金字塔的な作品なった。文句無しの名作といえる。

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第5作「男はつらいよ望郷篇」作品データ

公開 1970年(昭和45年)8月26日
併映 なにがなんでも為五郎(ハナ肇)
観客動員 72万7,000人
マドンナ 長山藍子
ゲスト 松山省二/井川比佐志/杉山とく子
洋題 Tora-san's Runaway

      2017/04/24

 - 男はつらいよ作品紹介