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寅さん全作品解説/第1作『男はつらいよ』(感想・評論・あらすじ・出演者)

本作をひとことで言うと

寅さん、20年ぶり故郷に帰る

20年ぶりに帰郷した寅さんが巻き起こす、葛飾柴又騒動記。監督も演者もシリーズ化を想定しない全力投球だからこそできた喜劇映画の大傑作。リアルとも下手とも違うクサイ芝居の渥美清と、ワキを固める倍賞・前田の熱演が生み出す泣き笑いは、どうリメイクしたって超えられない。まさに奇跡の一本。

マドンナ/光本幸子

役名:坪内冬子(御前様の娘)

記念すべき初代マドンナは、本作が映画デビューとなった劇団俳優の光本幸子。清楚かつ上品ながら、子供のような純粋さでオートレースに興じる一面もある可憐なお嬢様。

目次

第1作「男はつらいよ」感想・評論

リメイク不可能、喜劇映画の大傑作

「桜が咲いております。懐かしい葛飾の桜が、今年も咲いております」

第1作「男はつらいよ」

映像、音楽、日本語、声色。全てが美しい寅次郎のモノローグではじまる本作は、観客を一瞬にして別世界へ誘い、そこからはめくるめく91分間の映画体験。

1969年の製作、今からもう50年近くも経つのに、古臭さは皆無。テクノロジーとは無縁の下町、最近の映画によくあるヘンテコなタイアップもない本作は、もはや年代不詳のおとぎ話の世界だ。よく練られた脚本と、大半が舞台出身者である演者がくり広げる物語は、古いどころか新鮮ですらある。芸能の前提がガラリと変わった現在では再現不可能な質感だ。

もともと26話あったTVドラマを映画用に再構築しているから、エピソードが凝縮されている。小難しさも一瞬の緩みもなく、テンポ良く進んで小気味良い。しかし、脚本が優れているだけならば、男はつらいよはただの佳作映画で終わっていただろう。本作を時を超える名作たらしめているのが、渥美清をはじめとする俳優陣の熱演だ。

渥美の演技は、最近の俳優がやりがちな自然体の演技とは真逆を行くクサイ芝居。しかし、舞台という実戦で客に磨かれつづけたクサイ芝居はなんとも絵になるのだ。歌舞伎から大衆演劇を経て、渥美にいたった日本伝統のクサイ芝居は寅次郎にまさしく命を吹き込む。

助演俳優たちも凄い熱量。前田吟の一世一代の告白もさることながら、その求愛を受けとめるさくらこと倍賞千恵子の演技も凄い。このシーン、倍賞の瞳孔はパックリと開いており、さくらの興奮状態を言葉でなく目で表現している。愛の喜びが全身を駆け巡る人間の姿がそこにあり、思わず泣けてしまう。

監督も演者も、まさか続編ができるとは露程にも思わないから、ここに全てをぶつける!という覚悟が感じられる全力投球。これが本作のテンションを支えている。

ラストシーンのぱあっと広がる青空のごとく、極めてヌケのよい極上の喜劇映画。男はつらいよは知っているが、なんとなく接点がなかったという人にこそ観てもらいたい。こんなにも面白い映画だったのかと、きっと驚くことに違いない。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第1作「男はつらいよ」 作品データ

第1作「男はつらいよ」 予告編

第1作「男はつらいよ」 あらすじ

ここは庚申の日のお祭りで賑わう柴又帝釈天の参道。お祭りの列の中に、威勢よく纏(まとい)を振り回す見慣れない顔の男がいた。「誰だろう?」「土地の者かしら?」。ご近所が噂をするこの男こそ、20年ぶりに故郷に帰ってきた寅さんである。寅さんこと車寅次郎(渥美清)は、幼い頃に父親と大喧嘩をして家を飛び出し、その後は長らく音信不通の状態だった。そんな彼が生まれ故郷の葛飾柴又に帰ってくるところから物語は始まる。

寅さんには、柴又帝釈天の参道でだんご屋・とらやを営む叔父(森川信)と叔母(三崎千恵子)がいる。寅さんはとらやの茶の間で、叔父・叔母を前に古めかしい言葉で帰郷の挨拶をした。

「10年ひと昔の勘定でいきゃ、ちょうどふた昔。父母も、亡き兄も、さぞかし生前ご迷惑をおかけしたことでございましょう」「なお、たった一人残りました愚かなる妹が無事に成長いたしましたのも、ただただひとえに、お二人のご訓育の賜物と、誠に兄としては御礼の言葉もございません。叔父ちゃん、ならびに叔母ちゃん、本当にありがとうございました」。

するとそこに、今噂をしたばかりの寅さんの妹・さくら(倍賞千恵子)が帰ってきた。はじめは寅さんが誰なのか見当もつかないさくらだったが、やがて幼い頃に生き別れた兄のことを思い出す。

「あっ……お兄ちゃん?」「そうよ、お兄ちゃんよ!」「生きてたの……」。

とらや一同とご近所さんたちは、兄妹20年ぶりの再会を喜ぶのだった。

一夜明けて、今日は前々から決まっていたさくらのお見合い当日。とある会社の社長の息子との縁談で、さくらにはまたとない良い話だった。ここに同席予定だった叔父ちゃんが二日酔いで動けないため、急遽寅さんがお見合いに同席することになった。

最初こそ大人しくしていた寅さんだったが、酒に酔うと下品な糞尿ジョークを披露し、挙句の果てには、父親の女道楽のせいで自分とさくらは異母兄弟であると暴露してしまい、お見合いをド派手にぶち壊す。これが原因で寅さんととらや一同は大喧嘩。とらやの裏手にある共栄印刷の従業員も巻き込む大騒動となり、翌朝寅さんは気まずさから葛飾柴又を飛び出していく。

ひと月後、奈良でフラフラしていた寅さんは、柴又帝釈天の住職・御前様(笠智衆)と、その娘で寅さんとは幼馴染の冬子(光本幸子)にばったり出会う。奈良で病気療養をしていた冬子は、体調の回復にともない葛飾柴又に帰るところだった。冬子の美しさに惹かれた寅さんは、2人に便乗してノコノコと葛飾柴又に舞い戻ることになった。

葛飾柴又に戻った寅さんは早速、共栄印刷の従業員たちと揉め事を起こす。しかし、リーダー格の博(前田吟)が妹・さくらに惚れていることを知ると、2人の縁結びを買って出た。寅さんは突然さくらの勤務先・オリエンタル電子を訪問してさくらに尋ねた。「あのな、“なに”どう思う? ほら、となりの博とかいう職工よ。いや別にどうもしやしねえけどさ、試しに聞いたんだい。やっぱり無理だろうな」。一人合点して足早に帰っていく寅さんを不思議に思うさくらだったが、寅さんはこの数秒のやり取りで「さくらは博にまったく気がない」と勝手に判断をしてしまうのだった。

とらやに帰った寅さんは、縁結びの結果を博に伝えた。「パーでイチコロだよ。ありゃ諦めな、脈ねえから」「口下手のお前じゃとても言えねえぐらいうまく言ったつもりだけどね」。絶望した博は、共栄印刷を辞めて葛飾柴又を出ていく決心をする。旅立ちの直前、博はとらやの茶の間に飛び込み、募る思いをさくらに打ち明けた。

「あの工場に来てから3年間、毎朝あなたに会えるのが楽しみで、考えてみれば、それだけが楽しみでこの3年間を……。僕は出ていきますけど、さくらさん幸せになってください」。

真摯な告白に心を動かされたさくらは博を追いかけ、京成電鉄・柴又駅のホームで彼をつかまえる。もともとお互いに惹かれあっていたさくらと博は、このことがきっかけで結ばれることになった。寅さんととらや一同が激しい口論をする中、とらやに帰ってきたさくらは、興奮した面持ちで寅さんにこう伝えた。「お兄ちゃん、私、博さんと結婚する。決めちゃったの。いいでしょう?」。様々な思いが胸に去来する寅さんは何も言えず、ただただ頷くばかりだった。

後日、さくらと博の結婚式が開かれた。結婚式には博と8年間絶縁状態にあった博の両親も北海道から駆けつけた。たくさんの笑いに包まれ、式は和やかに進行していたが、博の父親・飈一郎(志村喬)だけは終始顔を強張らせ、無言のままでいた。寅さんはそんな飈一郎の様子が面白くない。「あの親父のツラ見てみろよ、貧乏人の結婚式はこんなもんかと面白がっているツラだよ」。

結婚式は終盤に差し掛かり、いよいよ新郎新婦の両親のあいさつの時間となる。飈一郎はここで初めて重たい口を開く。

「実は今日、私は8年ぶりに倅の顔を……。みなさんの温かい友情と、さくらさんの優しい愛情に包まれた、倅の顔を見ながら、親として私はいたたまれないような恥かしさを……。いったい、私は、親として倅に何をしてやれたのだろうか。なんという、私は無力な親だったか……」「この8年間は、私ども2人にとって、長い長い冬でした。そして、今ようやく、みなさまのお陰で春を迎えられます。みなさん、ありがとうございました」。

飈一郎の感動のスピーチを聞き、寅さんをはじめ、さくら、博も目に涙を浮かべている。暖かく大きな拍手に包まれて、さくらと博の結婚式は無事に終了した。

さて、さくらの結婚式が終わり、気が抜けた日々を過ごす寅さんは、密かに恋心を抱いている冬子への思いを募らせていく。毎日のように冬子の元に通う寅さんは、「寅さんの寺通い」と周囲から噂されるほどになっていた。ある日、寅さんは冬子からこう誘われた。「ねえ、寅ちゃん、憂さ晴らしにこれからどっか行きましょうか?」。2人はオートレース場に出かけ、小汚い焼き鳥屋で一杯ひっかけ、楽しい時を過ごす。すっかり酒が回って上機嫌の冬子は、たわむれに寅さんの手を握って「おやすみなさい」と別れの挨拶をした。冬子に手を握られ、天にも昇るような幸せを感じた寅さんは、柴又帝釈天の参道を高らかに歌いながら帰っていった。

今日もいつものように冬子の元に出かけていく寅さんだったが、冬子は寅さんとの約束をすっかり忘れて、他の男と縁側に仲良く座っていた。寅さんが男の存在について御前様に尋ねると、御前様はこう答えた。「これから親戚になる男だ。つまり冬子の婿にな」。冬子にフィアンセがいたことを知った寅さんはひどく落ち込み、傷心状態のまま葛飾柴又を飛び出して、旅の空に向かうのだった。

寅さんの旅立ちから1年後、さくらには早くも子供が産まれ、とらや一同は寅さんのいない穏やかな日々を過ごしていた。その頃寅さんは、葛飾柴又から遠く離れた旅の空、舎弟・登(津坂匡章)とともに気ままなフーテン暮らしを続けていたのであった。2人が元気よく商売に励み、その後、浜辺で仲良くじゃれあう姿を映しながら、物語は幕を閉じる。

第1作「男はつらいよ」 出演者

第1作「男はつらいよ」主要キャスト

【車寅次郎】渥美清
【車さくら】倍賞千恵子
【坪内冬子】光本幸子
【御前様】笠智衆
【諏訪飈一郎】志村喬
【車竜造】森川信
【車つね】三崎千恵子
【諏訪博】前田吟
【川又登】津坂匡章
【源吉】佐藤蛾次郎
【桂梅太郎】太宰久雄

第1作「男はつらいよ」その他キャスト

[結婚式の司会者]関敬六/[オリエンタル電機の部長]近江俊輔/[さくらのお見合い相手]広川太一郎/[さくらのお見合い相手の父]石島房太郎/[さくらのお見合い相手の母]志賀真津子/[さくらのお見合い相手の妹]津路清子/[川甚の仲居]村上記代/[共栄印刷の職工1]石井愃一/[共栄印刷の職工2]市山達己/[テキ屋1]北竜介/[テキ屋2]川島照満/[共栄印刷の職工3]みずの晧作/[参道の旦那1]高木信夫/[参道の旦那2]大久保敏男/[梅太郎の妻]水木涼子/[とらやの店員]米本善子/[博の母親]大塚君代/[参道の奥さん1]谷よしの/[参道の奥さん2]後藤泰子/[通りすがりの奥さん]秩父晴子/[参道の奥さん3]佐藤和子

※配役や役名は、書籍「みんなの寅さん from 1969」(著・佐藤利明)を参考にさせていただきました。

第1作「男はつらいよ」 作品データ

公開昭和44年8月27日
同時上映喜劇・深夜族(伴淳三郎)
観客動員数54万3,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題It’s Tough Being a Man
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