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寅さん全作品解説/第1作『男はつらいよ』(1969年8月公開)

本作をひとことで言うと

寅さん、20年ぶり故郷に帰る

20年ぶりに帰郷した寅さんが巻き起こす、葛飾柴又騒動記。監督も演者もシリーズ化を想定しない全力投球だからこそできた喜劇映画の大傑作。リアルとも下手とも違うクサイ芝居の渥美清と、ワキを固める倍賞・前田の熱演が生み出す泣き笑いは、どうリメイクしたって超えられない。まさに奇跡の一本。

マドンナ/光本幸子

役名:坪内冬子(御前様の娘)

記念すべき初代マドンナは、本作が映画デビューとなった劇団俳優の光本幸子。清楚かつ上品ながら、子供のような純粋さでオートレースに興じる一面もある可憐なお嬢様。

第1作「男はつらいよ」解説・評論

リメイク不可能、喜劇映画の大傑作

「桜が咲いております。懐かしい葛飾の桜が、今年も咲いております」

第1作「男はつらいよ」

映像、音楽、日本語、声色。全てが美しい寅次郎のモノローグではじまる本作は、観客を一瞬にして別世界へ誘い、そこからはめくるめく91分間の映画体験。

1969年の製作、今からもう50年以上も経つのに古臭さはあまり感じられない。それもそのはず、テクノロジーとは無縁の下町、最近の映画によくあるヘンテコなタイアップも挿入歌もない本作は、もはや年代不詳のおとぎ話の世界だ。作り物でないリアル昭和の風景を舞台に、大半が舞台出身者である演者たちがくり広げる物語は、古いどころか新鮮ですらある。芸能の前提がガラリと変わった現在では再現不可能な質感だ。

もともと26話あったTVドラマを映画用に再構築しているから、エピソードが凝縮されている。よく練りこまれた脚本には小難しさも一瞬の緩みもなくテンポ良く進んで小気味良い。しかし、脚本が優れているだけならば、男はつらいよはただの佳作映画で終わっていただろう。本作を時を超える名作たらしめているのが、渥美清をはじめとする俳優陣の熱演だ。

渥美の演技は、最近の俳優がやりがちな自然体の演技とは真逆を行くクサイ芝居。しかし、舞台という実戦で客に磨かれつづけたクサイ芝居はなんとも絵になるのだ。歌舞伎から大衆演劇を経て、渥美にいたった日本伝統のクサイ芝居は寅次郎に命を吹き込む。

助演俳優たちも凄い熱量。前田吟の一世一代の告白もさることながら、その求愛を受けとめるさくらこと倍賞千恵子の演技も凄い。このシーン、倍賞の瞳孔はパックリと開いており、さくらの興奮状態を言葉でなく目で表現している。愛の喜びが全身を駆け巡る人間の姿がそこにあり、思わず泣けてしまう。

監督も演者も、まさか続編ができるとは露程にも思わないから、ここに全てをぶつける!という覚悟が感じられる全力投球。これが本作のテンションを支えている。

ラストシーンのぱあっと広がる青空のごとく、極めてヌケのよい極上の喜劇映画。男はつらいよは知っているが、なんとなく接点がなかったという人にこそ観てもらいたい。こんなにも面白い映画だったのかと、きっと驚くことに違いない。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第1作「男はつらいよ」 作品データ

公開1969年(昭和44年)8月27日
上映時間91分
主要な出演者【車寅次郎】渥美清
【車さくら】倍賞千恵子
【坪内冬子】光本幸子
【御前様】笠智衆
【諏訪飈一郎(ひょういちろう)】志村喬
【車竜造】森川信
【車つね】三崎千恵子
【諏訪博】前田吟
【川又登】津坂匡章
【源吉】佐藤蛾次郎
【桂梅太郎】太宰久雄
同時上映喜劇・深夜族(伴淳三郎)
観客動員数54万3,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題It’s Tough Being a Man

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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