寅さん全48作品解説/第39作『男はつらいよ寅次郎物語』

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“子連れ寅さん”の母親探し

幼い頃に母と生き別れた少年が、寅さんと母親探しの旅に出る物語。クライマックスは母子感動の再会と、その直後に訪れる寅さんと少年の別れ。冷酷に少年を突き放す寅さんの姿に、渡世人稼業の孤独と悲しさが垣間見える。決して人気作品ではないが、穏やかな感動に包まれる渋味のある人間ドラマ。

マドンナ/秋吉久美子

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役名:高井隆子(化粧品の美容部員)
彼女自身が語る断片的な過去以外に情報がなく、感情移入が難しい異色のマドンナ。ふとした勘違いから寅さんを「父さん」と呼ぶのはいいとしても、翌日もそう呼び続けることに違和感を覚えるのは私だけ?情動にやや不可解な点のある不思議なマドンナだ。

第39作『男はつらいよ寅次郎物語』評論

辛い人生、悲しい人生を肯定する、渋味のある人間ドラマ

第39作『寅次郎物語』は、幼い頃に母と生き別れた少年が寅さんと母親探しの旅に出る物語。山田監督は映画『キッド』『子連れ狼』から本作の着想を得たという。

物語が進むにつれ、登場人物たちは「人生」についての短いながらも印象的なセリフを語る。それらの言葉が積み重なり、やがて本作のテーマに向けて収斂していく構成が見事だ。

寅「ああ、生まれてきてよかったなあって思うことが、なんべんかあるじゃねえか。そのために人間生きてんじゃないのか?」

寅さんは生きる意味を実感的に語り、堕胎経験のあるマドンナは「粗末にしてしまったのね、大事な人生なのに」と己の人生を嘆き、生き別れの息子と再会した母は「生きていてよかったと心から思っています」と心境を手紙に綴る。

さまざまな生き様のスケッチを通して「人生とは何か?」を観客に問いかけながら、辛い人生も悲しい人生もいつかは報われると説く。穏やかな感動が心に染みわたる、そんな後味を持った作品である。

クライマックスは寅さんと少年の港での別れ。母親探しの旅を経て少年は寅さんに懐いており、実母との暮らしより寅さんと柴又に帰りたいとせがむ。しかし寅さんは少年の目を真っ直ぐに見つめ冷酷に突き放す。自分はお前のあのろくでなしの親父と同類だ、俺のことなどすぐに忘れて母ちゃんと幸せに暮らせ、と。

凄む寅さんの瞳には「これはお前のためなんだよ」という優しさの光は一分もなく、ヤクザな自分をただ冷徹に見つめる暗さ、冷たさがある。芽生えかけた情愛をすっぱりと断ち切る寅さんの去り際に、我々観客は渡世人稼業の辛さ、哀しさ、孤独をまざまざと思い知らされることになる。

秋吉久美子が演じるマドンナ隆子は化粧品のセールスウーマン。彼女自身から語られる断片的な過去以外に素性についての情報がなく、感情移入が難しい異色のマドンナだ。寅さんと親密になるプロセスにはやや腑に落ちない点もあるが、寅さん一行との出会いにより人生を取り戻す女性を好演している。

マドンナと寅さんがお互いを「父さん」「母さん」と夫婦のように呼び合うことで電話口のさくらと博を混乱の極みに陥れるくだりは爆笑必至。老医師として登場する松村達雄も替えの効かないいい仕事をしている。寅さんシリーズの人気作品では決してないが、渋味のある通好みの作品といえよう。

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第39作『男はつらいよ寅次郎物語』

公開 1987年(昭和62年)12月26日
併映 『女咲かせます』(松坂慶子)
観客動員 143万4,000人
マドンナ 秋吉久美子
ゲスト 五月みどり/笹野高史/松村達雄
洋題 Tora-san Plays Daddy

      2017/03/15

 - 男はつらいよ作品紹介