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寅さん全作品解説/第12作『男はつらいよ私の寅さん』(1973年12月公開)

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本作をひとことで言うと

寅さん、パトロンになる

恋に浮かれる寅さんの喜怒哀楽と、笑える小ネタが全編に散りばめられ、ポップで楽しい印象の作品。回を重ねるごとに濃度を増してきた人情味はいよいよシリーズの主調になり、初期作品とは明らかに質感の違う映画に。人情味と奔放な寅さんのバランスが良く、笑って泣ける堂々たる人情喜劇作品である。

マドンナ

岸 恵子(当時 41歳)

役名:柳りつ子
職業:画家

フランス人の映画監督と結婚後、パリに居を構えていた岸恵子らしく、芸術家という役どころで登場。寅さんのことを「熊さん」と計6回も言い間違えるなど、相当な天然ぶりを発揮するマドンナであるが、トレンチコートの見事な着こなしなどはさすがにパリジェンヌ。

第12作「男はつらいよ私の寅さん」評論

シリーズ観客動員歴代1位!人情味と奔放な寅さんのバランスがちょうど良い、笑って泣ける人情喜劇

第12作『私の寅さん』は、全体的にポップで楽しい印象の作品であると同時に、男はつらいよが初期作品とは明らかに違う質感の映画になったことを印象づける作品でもある。

映画前半は、とらや一同の家族旅行を、寅さんがひとりで”おるすばん”するエピソードからスタートする。どう考えたって100%騒動がおこりそうな設定の妙と、猿と寅さんの対比、電話口でのやり取りを効果的に見せる画面二分割などの演出により、このパートには弾むような楽しさがある。

しっかりとオチがつき、楽しい導入部が終わると、物語はマドンナりつ子(岸恵子)との恋愛を描く後半パートに突入する。本作は前半と後半が全く別の映画であり、このような作品はシリーズ48作中本作のみ。珍しい。

マドンナの登場は、いきなり寅さんとの大ゲンカからスタートする。このケンカで寅さんは怒り狂うが、その後花束を持って謝りにきたりつ子を見た瞬間、態度はころっと豹変。お約束どおり、やっぱり惚れてしまう。このシーン、マドンナが「寅さん」を「熊さん」と言い間違えるギャグが挿まれているが、このようにわかりやすい小ネタがあちこちに散りばめられているのが本作の特徴。ポップで楽しい作品の印象は、このようなギャグの多さによっても形づくられている。

ここ数作、どちらかというと受け身の恋であった寅さんは、本作では恋愛マシーンとしてエンジン全開。マドンナのふとした言動に、喜怒哀楽を目一杯に表現する。恋に浮かれる寅さんのおかしさは、シリーズ最初期に立ち返ったような印象を与えるが、マドンナの苦悩が作品の中心に据えられているため、寅さんはただ恋に浮かれているわけにはいかない。

マドンナりつ子の後見をさくらにお願いしながら旅に出るくだりには、渥美清の抑えた演技がぐっと効いている。寅さんの恋愛には、もはや恋心よりも慈悲の心の方が勝ってしまうのである。

人情とペーソスの味付けは、回を重ねるごとに少しづつ濃度を増し、本作ではいよいよ誰もがはっきりと知覚できるメインの味付けへと変化している。人情とペーソスが映画の主調になることで、男はつらいよは初期作品とは明らかに違う質感の映画となったのだ。

本作は、この人情味と奔放な寅さんの楽しさが程よいバランスで保たれており、映画としての成熟を感じさせる。シリーズ最多観客動員241万人も納得の、大いに笑ってホロリと泣かせる、堂々たる人情喜劇作品だ。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第12作「男はつらいよ私の寅さん」作品データ

公開1973年(昭和48年)12月26日
上映時間107分
主な出演者【車寅次郎】渥美清
【諏訪さくら】倍賞千恵子
【柳りつ子】岸恵子
【柳文彦】前田武彦
【一条】津川雅彦
【諏訪博】前田吟
【車竜造】松村達雄
【車つね】三崎千恵子
【源公】佐藤蛾次郎
【桂梅太郎】太宰久雄
【満男】中村はやと
【御前様】笠智衆
同時上映大事件だよ全員集合!!(ザ・ドリフターズ)
観客動員数241万9,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san Loves an Artist

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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