寅さん全作品解説/番外編『男は愛嬌』(監督:森崎東)

寅さん全作品解説/番外編『男は愛嬌』評論

実現しなかった”もうひとつの寅さん”を垣間見る作品

本作『男は愛嬌』は、第3作『フーテンの寅』の監督を務めた森崎東が、主演に渥美清を迎えた喜劇映画。『フーテンの寅』公開の2か月前、1970年6月に公開された。

『男はつらいよ』シリーズにおける渥美清は、ホロリと泣かせる演技、バカで間抜けな演技、聞き手をうっとりさせる仕方話、さらに初期作品では体を張ったギャグなど、豊富な演技の引き出しから多面体の演技を見せてくれる。

本作では、そんな数ある渥美清の引き出しの中から「とにかく図々しくて」「粗暴で」「攻撃的で」「ヤバい男」というキャラクターが飛び出している。『男はつらいよ』シリーズ寅さんは時折、おいちゃんおばちゃんを相手にイヤ味たっぷりの演説をぶったり、タコ社長にドギツイ悪態をついたりするが、本作はそんな「粗暴な寅さん」だけで全編演じられるのだ。

「姉は淫売、妹は芸者、末のチョロ松はバクチ打ち、兄貴はドヤ街でモク拾い、あたしゃやさぐれネリカン(=東京少年鑑別所の俗称)暮らし!」

「どうだ!諸君!見ろみろこのパイオツを!このハリのあるツーケーを!」

「いいか、春坊(=ヒロイン)をお前にくれてやるよ、ありがたく思え!そのかわり春坊は俺のおふるだぞ。ガキが産まれたらよおくツラを見てみろ。俺に似て男前だったら大変だ!どうだざまあみろい!」

こんな調子で、ひたすら下品で、汚く、憎たらしい言葉がマシンガンのごとく放たれる。そんな役回りを水を得た魚のごとく、のびのびイキイキと演じる渥美清が小気味よい。「なにぃ?」「この野郎!」「上等だよ!」悪態をつく時の声のハリなんかもう絶品。

ストーリーにはそれほど面白みはないが、ドンピシャな役回りを得た渥美清と、ワキをかためる寺尾聡、田中邦衛、財津一郎たちとの狂気に満ちた丁々発止、それらをパワフルにまとめあげる森崎監督の演出力によって、喜劇映画として一定の水準に達している。

勢いでドーン!みたいな力技の映画であるが、そこがいい。仮に渥美清がキャスティングできなければ、間違いなく駄作に終わっていただろう作品である。

『男はつらいよ』シリーズは第5作『望郷篇』から山田洋次監督のみがメガホンをとり、以降、車寅次郎のキャラクターは回を重ねるごとにマイルドな人格になっていくく。

しかし、もし『男はつらいよ』シリーズが毎回違う監督がメガホンをとる映画シリーズになっていたならば、車寅次郎は本作の渥美清が演じたように、もっと粗暴で、もっとヤバい男として描かれていたのかもしれない。

本作『男は愛嬌』は、そんな実現しなかったもう一つの寅さん=「アザー・サイド・オブ男はつらいよ」を垣間見させてくれる作品である。山田洋次版寅さんのイメージに固定されない、この路線の渥美清ももっと見てみたかったなあと私は夢想する。

初期寅さん、特に第3作『フーテンの寅』のテイストが好きな向きには、強くお薦めしたい作品である。キレッキレの渥美清は破壊力抜群、もう誰にも手がつけられない。

      2020/06/13

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