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寅さん全作品解説/第35作『男はつらいよ寅次郎恋愛塾』(1985年8月公開)

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本作をひとことで言うと

寅さんシリーズの正統派ラブコメディ

寅さんが恋の世話役を務める「コーチもの」。松村達雄、杉山とく子ら多彩な出演陣と、ロケ先で大きく展開する物語が作品に活気をもたらしている。寅さんが変則的なタイミングでフラれることによって物語後半は男女の恋愛模様にフォーカス、尻上がりにテンションを高めていく。純然たるラブコメディ作品。

マドンナ

樋口 可南子(当時 27歳)

役名:江上若菜
職業:写植オペレーター

樋口可南子はこの時27歳。20代マドンナではどうしても「コーチもの」にならざるを得ないかもしれないが、寅さんとの相性は意外によい。寅さんも若菜も複雑な家庭環境であるから、ひょっとしたらうまくいった二人なのかも。

第35作「男はつらいよ寅次郎恋愛塾」解説・評論

シリーズのお約束破りで成功した“鮮やかな主役交代”

第35作『寅次郎恋愛塾』は、寅さんが恋の指南役になるいわゆる「コーチもの」。直近2作品が人間の業に迫る重たいテーマの“短調”の作品だったとすれば、本作は“長調”で奏でられるラブコメディ。楽しい作品である。

まず感じるのは登場人物のバラエティさ。2代目おいちゃん松村達雄、TV版おばちゃんの杉山とく子に、いよいよ反抗期の萌芽を見せ始めた満男(吉岡秀隆)、作品ごとに存在感を増しつつあるあけみ(美保純)とレギュラー陣にも変化が見られる。大勢のエキストラによる野球シーンなど、単純に画面に映る人が多いことも作品に活気を与えている。

ロケ先での物語展開が多いことも本作の特徴。長崎の五島列島を旅する寅とポンシュウを包み込むのは光、海、風、緑などの美しい自然。そこにキリスト教の荘厳な葬儀風景が重なるイントロダクションには映画らしい風格がある。その後舞台は柴又を挟み秋田にまで広がっていくが、スケール感、テンポの良さは作品の調にフィットしている。

さて、本作は大きく2部構成となっており、作品前半は寅さん、作品後半は民夫青年(平田満)が主役を務める。寅さんシリーズのあるお約束を破ることで実現した“鮮やかな主役交代”が本作成功最大の要因といっていいだろう。

そのお約束とは、寅さんの失恋タイミングである。作品の中盤、マドンナが青年に好意を抱いていると察知した寅さんは神妙な顔をする。寅さんシリーズビギナーにとってこれを失恋と呼ぶことに戸惑いを覚えるかもしれないが、柴又駅ホーム、マドンナとの別れ、スローテンポのテーマソング、という状況証拠を積み重ねていくとこれは「今フラれたよ」の合図に他ならない。寅さんシリーズは失恋で幕を閉じるのが常だが、本作はこの失恋をきっかけに第2部の恋愛パートが幕を開けるのである。

寅さんの失恋というシリーズの制約(?)を早めに片付けたことで、作品後半では若い男女の恋物語を自由に展開できる。ここで青年の不器用な恋心を好演するのが平田満である。

前作『寅次郎真実一路』評論でも指摘したが、シリーズもこの頃になると寅さんに駆け出し役者のような熱演を求めることに無理が出てきてしまった。その役目を平田満に担わせることで本作はクライマックスに向け右上がりにテンションを高めていく。山田洋次/朝間義隆コンビによる脚本の勝利といっていいだろう。

マドンナ若菜を演じるのは樋口加奈子。そよ風のように爽やかな彼女の佇まいも作品にマッチしている。「コーチもの」がいよいよ爛熟の域に達した秀作である。

渥美清 (出演), 倍賞千恵子 (出演), 山田洋次 (監督)
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第35作「男はつらいよ寅次郎恋愛塾」 作品データ

公開1985年(昭和60年)8月3日
上映時間108分
主な出演者[車寅次郎]渥美清
[諏訪さくら]倍賞千恵子
[江上若菜]樋口可南子
[坂田民夫]平田満
[牛山教授(民夫の恩師)]松村達雄
[小春(コーポ富士見の大家)]杉山とく子
[江上ハマ(若菜の祖母)]初井言榮
[ポンシュウ]関敬六
[民夫の父親]築地文夫
[車竜造]下條正巳
[車つね]三崎千恵子
[諏訪博]前田吟
[桂梅太郎]太宰久雄
[源公]佐藤蛾次郎
[満男]吉岡秀隆
[あけみ]美保純
[御前様]笠智衆
同時上映俺ら東京さ行ぐだ(新藤栄作)
観客動員数137万9,000人
※『男はつらいよ』寅さん読本/寅さん倶楽部[編]より
洋題Tora-san, the Go-Between

「男はつらいよ」全作品解説リンク

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