寅さん全48作品解説/第8作 『男はつらいよ寅次郎恋歌』

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漂白と定住

「漂泊と定住」というテーマが明確な第8作。名優・志村喬による「りんどうの花」、旅芸人一座と寅さんのラストシーンなど、シリーズ屈指の名場面が満載。もはやただの喜劇作品とはいえない、重厚さすら感じさせる作品。本作ではフラれる前に自ら身を引き旅に出る”フラれない寅さん”も誕生する。

マドンナ/池内淳子

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役名:六波羅貴子(喫茶店ロークの女主人)
重ねた苦労が外面ににじみ出る女主人役を池内淳子が好演。今回の寅さんは、”薄幸な女性に尽くす”という古いヤクザ映画のパロディともいえる奮闘を見せており、その中心を担うマドンナとしてはぴったりのキャスティング。

第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」評論

「漂白と定住」というテーマ性が明確な、重厚感すら漂う名作

順調に作品を重ねる『男はつらいよ』だったが、第5作目の時点ですでに”マンネリ”を懸念されていたという。

 山田洋次「話として単純なんで会社じゃ心配して五作目ぐらいから少し変化をつけろっていいましてね。」(『映画をたずねて 井上ひさし対談集』138p)

マンネリ懸念に対する回答か、5作目以降の作品では毎回少しづつ新たな試みがトライされる。そしてこの第8作では、後のシリーズ作品に大きな影響を与える、あるひとつの変化が寅さんに起きることになる。

今回の寅さんは、博の父・飄一郎(志村喬)からの薫陶を受け、家族と寄りそって暮らす定住への憧れを持つ。未亡人であるマドンナ貴子(池内淳子)と出会い、彼女とその暮らしを実現したいと願うが、放浪者と定住者の看過できない価値観の違いを悟り、貴子の元を去り、旅に出る。

これまでの作品では、一方的な恋心を派手に打ち砕かれる失恋がほとんどだったが、本作の寅さんは、己の分をわきまえて自ら身を引いていく。失恋は失恋なのだが、”フラれない寅さん”がここに誕生するのだ。

この失恋パターンの発明により、シリーズには無限のバリエーションが生まれ得ることになった。小林信彦は、本作を観た当時の印象をこう振り返る。

ぼくは第八作を観た時に、これはもう、無限のくりかえしになるな、と思った。
『おかしな男』321p)

本作品はテーマ性が強いことも特徴で、そのテーマは「漂泊の悲哀と、定住への憧れ」といえる。この主題を軸としながら、それぞれの登場人物がおりなす印象的な名シーンが豊富にあり、話の筋よりもそれぞれの名場面で本作を記憶しているファンも多いのではないか。

なかでも、名優・志村喬による語り「りんどうの花」は、物語展開上のキーポイントでもあり、作品に重厚なトーンを与えている。セリフ自体なんてことないのだが、志村喬の存在自体の重みにより、寅さんの生き方をコロリとかえてしまうほどの薫陶として成立しているのがすごい。

そして、この志村の名演を逆手にとり、重みゼロの寅さんが100%受け売りで語る「寅さん版・りんどうの花」を作り上げたアイデアはお見事。寅さんととらや一同のやり取りが実に楽しい。

冒頭とラストに登場する、寅さんと旅芸人・坂東鶴八郎一座とのふれあいも印象深い(坂東鶴八郎一座はつづく作品にも何回か登場する)。漂白の悲しみに負けず、肩を寄せ合いながら旅をつづけるラストシーンはシリーズベストのヌケの良さであり、もはやただの喜劇作品とは言えない重厚な演出が続く本作に、鮮やかな幕引きをもたらしている。

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第8作「男はつらいよ寅次郎恋歌」作品データ

公開 1971年(昭和46年)12月29日
併映 春だ!ドリフだ!全員集合!!(ザ・ドリフターズ)
観客動員 148万1,000人
マドンナ 池内淳子
ゲスト 志村喬
洋題 Tora-san's Love Call

      2017/04/24

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