寅さん全作品解説/第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』
寅さん&リリーのメモリアル作品
渥美清死去の翌年、過去作『寅次郎ハイビスカスの花』に撮り下ろしシーンを加えて「特別篇」として公開された第49作。寅さんとマドンナリリーの名場面ダイジェストや、CG技術で蘇った寅さん、八代亜紀が歌うテーマソングなど、『男はつらいよ』未体験ファン向けの配慮がなされたメモリアル作品。
マドンナ/浅丘ルリ子

第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別編】』評論
別の意味で、ちょっぴり切ないメモリアル作品
1996年8月に渥美清が死去したことで、第49作『寅次郎花へんろ』の撮影・公開は幻に終わった。これにより『男はつらいよ』シリーズは第48作で打ち止め──になるかと思いきや、松竹株式会社は過去作品をリニューアルし、これを第49作『寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』として劇場公開することにした。
その狙いを、本作のパンフレットに掲載された山田洋次監督のコメントから引用してみよう。
数ある寅さんシリーズの中でも、ぼくが最も気に入っている何本かの作品のひとつ、第25作『寅次郎ハイビスカスの花』をリニューアルして上映することにしました。(中略)言わば“寅さん”の新装開店です。今まで名前は聞いたことがあるが、見たこともない若者たちにも、この機会にぜひ見てもらいたいと思っています。(『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』パンフレットより)
しかし、そのリニューアルとは、寅さんを懐かしむ満男(吉岡秀隆)のモノローグと回想が、作品冒頭とラストにおまけ程度に加えられたものである。寅さんとリリーの名場面ダイジェストなどもあるが、「はたしてこれで“特別篇”と銘打ってよいのだろうか?」と、私は本作品を見た時の戸惑いを覚えている。
満男のモノローグシークエンスにおいて思わず苦笑してしまうのが、当時「最先端のCG技術」の触れ込みで合成された寅さんの姿だ。現代の映像水準と比べれば拙さが目立つのは致し方ないとしても、不二家のペコちゃんのように顔だけがゆらゆら動き、「お~い、みつお~」と不気味に動く寅さんの姿は、もはやホラーである。
公開当時、このCGがどう評価されたかについては詳しく知らないが、こんな風に映像技術で遊ばれてしまう渥美清がちょっぴり哀しい。
気になる点がもう一つある。本作では八代亜紀がオープニングのテーマソングを歌っているが、渥美清が歌う原曲よりキーが低いため、イントロの第一音「プァ~!」がこれまで幾度となく聞いてきたあの「プァ~!」と違うのだ。
これでは「ヨッ!寅さん、待ってました!」と快哉を叫ぶことができない。どうしてシリーズの聖域とも言えるテーマソングに手を加えてしまったのか。これは完全に企画ミスと言っていいだろう(八代亜紀にまったく非はない)。
『男はつらいよ』シリーズ終了にともなう興行成績の落ち込みをカバーするための商業作品、というのが本作の位置づけではないだろうか。
名作の誉れ高い、第25作『寅次郎ハイビスカスの花』を一度しっかりと見ている方であれば、本作はスルーしても問題ないと思うが、どうか。
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第49作『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花【特別篇】』
公開 | 1997年(平成9年)11月22日 |
マドンナ | 浅丘ルリ子 |
ゲスト | 江藤潤 |
洋題 | Tora's Tropical Fever |
2021/01/17