寅さん全48作品解説/第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』

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満男、とうとうフラれる

満男シリーズ第4弾。マドンナに恋する若き日の寅さんと全く同じ行動を取るほど、泉に恋い焦がれている満男。すったもんだがあって結局満男はフラレてしまうが、そのラストに至るまでの過程が楽しい。寅さんと満男の言い争い、雰囲気ある髪結いマドンナ・風吹ジュンなど、見どころ豊富な作品。

マドンナ/風吹ジュン

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役名:富永蝶子(理髪店の女主人)
実に色っぽい髪結いのマドンナ。優しく微笑みながら寅さんの髪を切るシーンは雰囲気満点。かと思えば、寅さんの裏切り行為に対してはド迫力のタンカを切る。喜怒哀楽の振れ幅が大きいマドンナだ。

第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』評論

満男と泉、二人の未来は山田洋次の手のひらの上

第45作「寅次郎の青春」は、寅さんの甥・満男が物語の中心となる満男シリーズの第4弾。低調だった前作「寅次郎の告白」と比べて、語るべき点の多い、楽しい作品に仕上がっている。

まず注目したいのは満男の「寅さん化」である。泉を好きで好きでたまらない彼が取る行動の数々は、かつてギンギンの恋愛マシーンだった寅さんが、劇中で何度も繰り返してきた定番ギャグの再演。シリーズを第1作から追いかけてきたファンにはこれが嬉しい。

寅さんはそんな彼を嘲笑するが、「人のこと言えるか!」と満男もやり返す。二人の言い争いはまるで童貞中学生同士のケンカである。極めつけは「おじさんは楽しいだけで奥行きがないんだ」とツッコむ満男に、「うん、そうかもしれない」と神妙に答える寅さんの真顔。上映当時、劇場内は爆笑の渦だっただろう。渥美清のパントマイムも軽妙で、本作は全編にわたってコミカルな掛け合いに満ちている。

18歳になった後藤久美子はいよいよ色気を増している。ストッキングに包まれた足を無防備にさらし、意地悪っぽく満男を見つめる姿にはエロスの萌芽さえ感じる。場面が変わると、今度はマドンナ蝶子(風吹ジュン)の登場。寅さんの髪を静かに切る姿には大人の色香が漂う。フランス映画『髪結いの亭主』から着想を得た設定には、風吹ジュンという素材が見事にハマっている。彼女は結局別の男と結ばれるが、映像として描かれないその結末を、鮮やかに想像させるだけの魅力が彼女にはある。

さて、肝心の満男と泉の恋物語は終盤に急展開を迎える。母親が急病のため、東京を離れ名古屋に帰ると言い出す泉。遠距離恋愛になるのかな?と観客の誰もが思ったはずだが、若い満男にはそれができない。「もう会えないの?」と不貞腐れた言葉を吐いて、恋の終わりへと自ら突き進む。青いなァ……と観客がため息混じりにスクリーンを見つめていると、そこに流れ出すのは徳永英明!このクサさこそ満男シリーズの醍醐味である。

そして物語はおなじみ満男のポエムで幕を閉じる。「何年先かわからないけど、俺が大人になった時、泉ちゃんとまた新しい物語が始まるんだ」。今思えば、これはゴクミの寅さんシリーズ出演がいったんお休みになることの予告だったのかもしれない。

果たして、満男と泉の恋はどんな結末を迎えるのか?さくらと博をあまりに早く結婚させたことを後悔したという山田洋次は、二人の物語をじっくりと、大切に展開していきたかったに違いない。二人の未来も、シリーズの行く末も、すべては山田洋次の手のひらの上にあるのだ。

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第45作『男はつらいよ寅次郎の青春』

公開 1992年(平成4年)12月26日
併映 『釣りバカ日誌5』(西田敏行)
観客動員 207万人
マドンナ 風吹ジュン/後藤久美子
ゲスト 永瀬正敏/夏木マリ
洋題 Tora-san Makes Excuses

   

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