寅さん全48作品解説/第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』

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記念すべき「満男シリーズ」の幕開け

寅さんの甥・満男が作品の中心となる通称「満男シリーズ」のはじまり。古今東西の英雄伝説を換骨奪胎したストーリーは、満男の成長を描きながらも寅さんの見せ場をしっかりと用意しており、新生「男はつらいよ」を鮮やかに提示している。“国民的美少女”こと後藤久美子の存在も作品に華を添えている。

マドンナ/後藤久美子

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役名:及川泉(満男の恋人)
“国民的美少女”とよばれたゴクミは当時15歳。年相応にも不相応にも見える魅力的な黒髪の少女を見れば、満男の恋い焦がれる気持ちにも納得がゆく。満男シリーズ成功の鍵は、このキャスティングにあったのかもしれない。

第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』評論

『スターウォーズ』と同じ構造の王道ストーリーで描かれる新生・男はつらいよ

さあ、いよいよ第42作『ぼくの伯父さん』である。本作から寅さんの甥・満男(吉岡秀隆)が物語の中心となる通称「満男シリーズ」が幕を開ける。

吉岡はあどけなさが残る小学6年生から寅さんシリーズに出演、その後成長するに従い作品内だけでなく撮影所内でも思春期男子特有の雰囲気を醸し出すようになったという。そんな彼の変化をつぶさに見ていた山田洋次は自然と「彼が恋をしたら、博やさくら、そして寅さんはどんな反応をするのだろう?」とシリーズの腹案を考えるようになる。

かくして誕生した満男シリーズは、渥美清の衰えが目立ちはじめたシリーズに再び活気を取り戻した。1970年代半ばから緩やかに減少してきた観客動員も満男シリーズ以降増加傾向に転じており、「男はつらいよ」は興行成績の面でも息を吹き返すことになる。

さて、本作は古代ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』や映画『スターウォーズ』のように、古今東西の英雄伝説と同じ基本構造を持つ王道のストーリー展開となっている。

大学浪人中の満男は後輩の美少女・泉(後藤久美子)に会いたくて仕方がない。そんな時、ふらり帰郷した寅さんから酒のイニシエーションを受けた満男は、泉に会うべく家出することを決意する。ゲイのライダー(笹野高史)に寝込みを襲われるなどの困難を乗り越え、ついに佐賀に住む泉のもとに辿り着いた満男だったが、泉への募る思いを打ち明けられずにジタバタ。そこにメンターとして再び現れるのが寅さんである。寅さんから深草少将の「百夜通い」伝説を教えられた満男は、不器用ながらも泉への愛の告白に成功する。

泉が身を寄せる親戚宅の厳格な家長(尾藤イサオ)はさしずめこの物語の“ダースベイダー”で、満男はこの人物にネチネチとやりこめられるが、寅さんは満男の行為を堂々と肯定し観客にささやかなカタルシスをもたらす。そう、本作の寅さんは満男のメンターであると同時に、満男の仇をとって彼に勝利を授けるもう一人のヒーローなのだ。英雄伝説の見事な換骨奪胎によって、満男の成長物語を描きながら本来の主役である寅さんの見せ場もきっちり担保する作劇は実に鮮やかである。

満男の相手・泉を演じるのは当時“国民的美少女”と呼ばれたゴクミ。透明感、儚さ、気高さを兼ね備えた黒髪の少女はヒロインの風格十分で、彼女の存在も満男シリーズの成功に大きく貢献していると言えるだろう。

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第42作『男はつらいよぼくの伯父さん』

公開 1989年(平成1年)12月27日
併映 『釣りバカ日誌2』(西田敏行)
観客動員 190万5,000人
マドンナ 後藤久美子
ゲスト 檀ふみ/夏木マリ/戸川純/尾藤イサオ
洋題 Tora-san, My Uncle

      2017/03/13

 - 男はつらいよ作品紹介