寅さん全48作品解説/第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』

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「満男シリーズ」の実質的な幕開け

前作に続き、満男と泉の恋の行方を描いたストーリー。若い2人の恋愛と成長が物語の中心だが、寅さんの恋というお約束の復活で、前作とは打って変わって“いつもの寅さん”を強く印象付けている。寅さん&満男の2枚看板様式が成立し、以後このパターンの作品が続くことになる。実質的な満男シリーズはじまりの作品。

マドンナ/夏木マリ

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役名:及川礼子(泉の母・クラブのチーママ)
寅さんと実にほのかな恋愛模様を繰り広げるマドンナ。満男と泉の爽やかな恋愛の裏で人生の苦味パートを一身に担っている。個人的には、この人が泉の母親というキャスティングがいまだ腑に落ちない。

第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』評論

ニューヒーロー満男をがっちりとマンネリに組み込んだ、寅さん&満男の2枚看板様式

第43作「寅次郎の休日」は、前作「ぼくの伯父さん」で初登場した泉(後藤久美子)と寅さんの甥・満男(吉岡秀隆)のその後を描くストーリー。満男を主人公に据え、“スピンオフ作品”のような新鮮さのあった前作と打って変わり、“いつもの寅さん”への回帰を強く印象づける作品である。

その要因としては、寅さんシリーズ種々のお約束事の復活がやはり大きい。夢のシーン、帰郷コント、寅さんとタコ社長の口論に加えて、本作の寅さんは泉の母親(夏木マリ)に恋をする。寅さんの恋とは物語終盤での失恋とほぼイコールだから、これが作品の結末や印象に効いてくる。満男と泉に主眼を置いた作品でありながら“いつもの寅さん”を強く感じさせる理由はここにある。

そして、寅さんの失恋という予定調和があることで、満男と泉の恋愛ストーリーを“性急に進展させる必要がなくなっている”ことは、その後のシリーズ展開を考える上で重要なポイントである。

本作の満男と泉は、別居中の泉の父親(寺尾聰)に会うため2人旅に出かける。父親の不倫相手になんとも人の良さそうな宮崎美子を配したキャスティングは絶妙だったが、エピソード自体は凡庸で、満男と泉の恋愛も特には進展しない。これだけで1本の映画とするにはやや物足りないところだが、寅さんの恋そして失恋というもう1つの柱を組み合わせれば、シリーズ作品としては十分に成立してしまうのである。

寅さんの失恋が作品に安定感とオチをもたらすから、若い満男はジタバタとモラトリアムを続けることができ、彼の恋の行方も結論を次作に持ち越しながらゆっくり展開することができる。本作で確立された寅さん&満男の2枚看板様式は第47作まであと4回繰り返されることになり、主要キャストの高齢化が目立つ寅さんシリーズのさらなる継続に貢献することになった。

それにしても、1回限りと思われた(それゆえに鮮やかだった)“主人公・満男”というカードを、こうも見事にマンネリズムに落とし込んでしまう山田洋次の手腕は恐るべきものである。

本作の寅さんは満男と泉の結婚、そして2人の子供についてまで言及していたが、かつて赤ん坊だった満男が今や主役を張っているシリーズの流れを見ていると、これも数十年後に向けた伏線だったのかもしれないと思うと、少しゾッとしてしまう。山田洋次はシリーズの未来を一体どこまで見据えていたのだろうか。

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第43作『男はつらいよ寅次郎の休日』

公開 1990年(平成2年)12月22日
併映 『釣りバカ日誌3』(西田敏行)
観客動員 208万3,000人
マドンナ 夏木マリ
ゲスト 夏木マリ/寺尾聡/宮崎美子/人見明/小島三児
洋題 Tora-san Takes a Vacation

      2017/06/10

 - 男はつらいよ作品紹介