寅さん全48作品解説/第12作『男はつらいよ私の寅さん』

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寅さん、パトロンになる

恋に浮かれる寅さんの喜怒哀楽と、笑える小ネタが全編に散りばめられ、ポップで楽しい印象の作品。回を重ねるごとに濃度を増してきた人情味はいよいよシリーズの主調になり、初期作品とは明らかに質感の違う映画に。人情味と奔放な寅さんのバランスが良く、笑って泣ける堂々たる人情喜劇作品である。

マドンナ/岸恵子

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役名:柳りつ子(画家)
フランス人の映画監督と結婚後、パリに居を構えていた岸恵子らしく、芸術家という役どころで登場。寅さんのことを「熊さん」と計6回も言い間違えるなど、相当な天然ぶりを発揮するマドンナであるが、トレンチコートの見事な着こなしなどはさすがにパリジェンヌ。

第12作「男はつらいよ私の寅さん」評論

シリーズ観客動員歴代1位!人情味と奔放な寅さんのバランスがちょうど良い、笑って泣ける人情喜劇

第12作『私の寅さん』は、全体的にポップで楽しい印象の作品であると同時に、男はつらいよが初期作品とは明らかに違う質感の映画になったことを印象づける作品でもある。

映画前半は、とらや一同の家族旅行を、寅さんがひとりで”おるすばん”するエピソードからスタートする。どう考えたって100%騒動がおこりそうな設定の妙と、斬新なカット割りなどの演出により、このパートには弾むような楽しさがある。

しっかりとオチがつき、楽しい導入部が終わると、物語はマドンナりつ子(岸恵子)との恋愛を描く後半パートに突入する。本作は前半と後半で全く別の映画であり、このような作品はシリーズ48作中本作のみ。珍しい。

マドンナの登場は、いきなり寅さんとの大ゲンカからスタートする。このケンカで寅さんは怒り狂うが、その後花束を持って謝りにきたりつ子を見た瞬間、態度はころっと豹変。お約束どおり、やっぱり惚れてしまう。このシーン、マドンナが「寅さん」を「熊さん」と言い間違えるギャグが挿まれているが、このようにわかりやすい小ネタがあちこちに散りばめられているのが本作の特徴。ポップで楽しい作品の印象は、このようなギャグの多さによっても形づくられている。

ここ数作、どちらかというと受け身の恋であった寅さんは、本作では恋愛マシーンとしてエンジン全開。マドンナのふとした言動に、喜怒哀楽を目一杯に表現する。恋に浮かれる寅さんのおかしさは、シリーズ最初期に立ち返ったような印象を与えるが、マドンナの苦悩が作品の中心に据えられているため、寅さんはただ恋に浮かれているわけにはいかない。

マドンナりつ子の後見をさくらにお願いしながら旅に出るくだりには、渥美清の抑えた演技がぐっと効いている。寅さんの恋愛には、もはや恋心よりも慈悲の心の方が勝ってしまうのである。

人情とペーソスの味付けは、回を重ねるごとに少しづつ濃度を増し、本作ではいよいよ誰もがはっきりと知覚できるメインの味付けへと変化している。人情とペーソスが映画の主調になることで、男はつらいよは初期作品とは明らかに違う質感の映画となったのだ。

本作は、この人情味と奔放な寅さんの楽しさが程よいバランスで保たれており、映画としての成熟を感じさせる。シリーズ最多観客動員241万人も納得の、大いに笑ってホロリと泣かせる、堂々たる人情喜劇作品だ。

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第12作「男はつらいよ私の寅さん」作品データ

公開 1973年(昭和48年)12月26日
併映 大事件だよ全員集合!!(ザ・ドリフターズ)
観客動員 241万9,000人
マドンナ 岸恵子
ゲスト 前田武彦/津川雅彦
洋題 Tora-san Loves an Artist

      2017/04/24

 - 男はつらいよ作品紹介