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第6作『男はつらいよ純情篇』ラストシーンで寅さんはなんと言っていたのか?

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第6作『男はつらいよ純情篇』における寅さんとさくらの柴又駅での別れのシーンは、シリーズ全作品中もっとも美しく、もっとも悲しく胸に迫る名シーンといっていいだろう。

電車が発車する間際まで別れを惜しむ寅さんとさくら。「故郷ってやつは……故郷ってやつはよ……」。寅さんは何かを言いかけるが、その時ちょうどドアがしまり、寅さんは結局なんと言いたかったのかわからないままに別れが訪れる。

さて、このシーン、実際に寅さんはさくらになんと言っていたのであろうか?

私は本作品を初めて見た時から、寅さんはこんなニュアンスのことを言っていたのではないだろうか?と考えている。

寅 「故郷ってやつは……故郷ってやつはよ……俺のような奴が帰っていい場所じゃあねえんだ。遠く離れたところから、懐かしく思い出すだけで十分なんだよ。なあさくら、そうだろう?」

私がこんな風に考えたのは、本作冒頭の寅さんのモノローグに理由がある。

寅「ふるさとは遠きにありて思うもの、とか申します」

第6作『男はつらいよ純情篇』

これは有名な室生犀星(むろうさいせい)の詩『小景異情 その二』の一節だ。

ふるさとは遠きにありて思ふもの

そして悲しくうたふもの

よしや

うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても

帰るところにあるまじや

ひとり都のゆふぐれに

ふるさとおもひ涙ぐむ

そのこころもて

遠きみやこにかへらばや

遠きみやこにかへらばや

室生犀星「小景異情 その二」

これは、遠く離れた場所から故郷のことを美しく思いだす望郷の詩。寅さんがこの詩の一節を引用するということは、当然、そのあとに続く言葉も記憶しているはずである。

何事にも感化されやすい寅さんのことだから、旅の途中、どこかで誰かからこの詩を聞かされ、「そうか、ふるさとというものは、遠きにありて思うもの、そして悲しくうたうものなのか……」としみじみ感じ入った経験があったとしても不思議ではない。

今回の寅さんは、故郷恋しさのあまり矢も盾もたまらずに帰郷したが、結局は周囲を騒動に巻き込み居心地の悪さからまた旅に出ることになる。故郷には帰りたいが、帰ればまた同じことを繰り返してしまう……そんなみじめさに打ちひしがれている瞬間に頭によぎったのが、いつかどこかで誰かから教わった、この室生犀星の詩句ではなかったか。私はそんな風に考えている。

結局のところ、寅さんがこのシーンで何と言っていたのか、その真相は明らかではない。しかし、その解釈の余白を我々観客に残している鮮やかな演出が、この別れのシーンの情感をより一層深いものにしている。

何度でも味わいたい、寅さんシリーズ屈指の名場面である。

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