倍賞千恵子トークショーを含む映画上映会「倍賞千恵子 主演映画を語る」に行ってきた。
会場最寄はJR大船駅、平日11時開始のイベントとあって、なんとなく予想はしていたが来場者の年齢層が高い。私は35歳でもう決して若くないのだが、それでもこの会場だと間違いなく最年少になってしまうほど。
上映作品は、1965年『霧の旗』、1980年『遙かなる山の呼び声』の2本立て。それぞれ倍賞千恵子が24歳、39歳の時の主演作品。
詳細な感想は省くが、どちらの作品も女優・倍賞千恵子の魅力が溢れる作品。『霧の旗』桐子ではクールビューティーとでもいうべき冷酷な女性を演じ、一転『遙かなる山の呼び声』では、深い母性をもつ女性らしい民子を自然に演じていた。
『男はつらいよ』のさくら役でもそうだが、倍賞千恵子の芝居には”虚飾”というものがあまり感じられない。登場人物の生活環境、性格、感情への憑依を極めて自然にできる女優なので、スクリーンにリアリティが生まれている。
『霧の旗』桐子も相当良かったが、『遙かなる~』民子ではもって生まれた素質に15年の経験がプラスされており、女優としての成熟を感じさせた。一人の俳優を年度を追って観ていくと、こういう発見があるのだと気付いた。
さて、トークショーは元松竹の映画プロデューサー・山内静夫と、倍賞千恵子の二人による出演でスタート。倍賞は客席ににこやかに手を振り、司会不在のため自分から話を切り出して進行していく。大女優ということを少しも鼻にかけない人柄が素敵だ。
元々はSKD(松竹歌劇団)のダンサーとして芸能活動をスタートした倍賞千恵子だが、その後映画の仕事の方が徐々に増えていき、やがて三本から四本の映画製作を同時並行するほどまでになったという。
「朝は春子さんで、昼は夏子さんで、夜は冬子さんみたいなそんな生活」
デビュー当時は映画の仕事になじめず、大船撮影所での撮影合間には江ノ島へ行き、海に向かって「映画のバカヤロー!」と叫んで発散していたそうである。萌えるエピソードだ。
その後、話題は自然と映画『男はつらいよ』へ。この時、倍賞千恵子の発した、とても自然で何気ない一言が私にはとても印象的だった。
「渥美さんが突然どこかへいなくなっちゃって『男はつらいよ』は終わったんですけど……」
あまりにサラリと発言するのでついスルーしそうになったが、渥美清が「亡くなった」という言い方をこの日は決してしなかったと記憶している。まるでしばらく会わない知己の友人について語るかのごとく、とても軽やかな回想をしておられた。倍賞千恵子の心の中で、渥美清は今でもきっと生きているのだ。
その他トークショーでは、寅さんを通して人として成長できたお話、『遙かなる~』製作時の裏話、最新作『小さいおうち』で手が震えるほど緊張したお話などが続く。終始和やかな四十分はあっという間に過ぎていった。
倍賞千恵子は、もはや日本を代表する大女優なのに、気取るところがなく爽やかで、本当に可愛らしい素敵な女性であった。女優・倍賞千恵子にますます惚れてしまう、そんな上映会であった。