「男はつらいよ」シリーズの主人公・車寅次郎こと寅さんは、独特な言語感覚を持っている。「男はつらいよ」シリーズ作品をたくさん見ているうちに、彼のユニークな話し方に影響を受けて、いつの間にか口調が寅さんになっていた…という方も多いはずだ。
本サイトでは、そんな“寅さんらしい言葉づかい・言い回し”の数々を「寅さん語」と名付け、以下にまとめた。日常生活における普段の言葉を、以下の寅さん語に置き換えてみるだけでアラ不思議。あなたの立ち居振る舞いは寅さんにグッと近づくことだろう。「寅さん語」は随時更新されるので、お楽しみに!
これであなたも寅さんになれる!?「寅さん語辞典」(随時追加予定)
ア行の寅さん語(14)
相変わらずバカか?
主に葛飾柴又界隈の友人に対して使われる寅さんの挨拶。要らぬ確執を生まないよう、愛情を込めて、極めて明るい表情で言い放ちたい。
蓬莱屋、相変わらずバカか?
第4作「新・男はつらいよ」より
あっし
私、自分、の意味。
御前様、お久しゅうござんす。あっしですよ、寅ですよ。
第1作「続・男はつらいよ」より
あばよ
さようなら、またな、の意味。
さくら、幸せになるんだぞ。これから寒くなるからな、赤ん坊には風邪ひかすんじゃねえぜ。あばよ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
油にまみれて労働してるかい?
寅さんが主に義理の弟・博に向かって放つ言葉。もし現代において使うのであれば、相手がオフィスワーカーでも特に気にせず「油にまみれて」と言い放ちたい。
おめえ相変わらず、油にまみれて労働してるかい?
第2作「続・男はつらいよ」より
案配する
物事をいい感じに整える、適当な具合に処理を施す、の意味。
俺はちょいと用事があって千住の方に行ってくるからな、タクシー代を案配してくれ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
イチコロ
一撃でコロリと相手を仕留める、の意味。
ゆんべの卵酒でもって、風邪のほうはもうイチコロよ、ハハハ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
いにしえ
昔の、古い時代の、の意味。
ほら、緑は異なるものよ、味なるものよって、いにしえの言葉にあるだろう?
第7作「男はつらいよ奮闘篇」より
色きちがい
性的な欲望を抑えられない人、の意味。
最初からお前、ジーっとこんな風にして見ちゃだめだよのっけから、色きちがいと思われちゃうから。
第1作「男はつらいよ」より
イロノーゼ
ノイローゼ(感情面に問題があり、日常生活に支障を来している状態)の意味。しかし、寅さんはノイローゼを「イロノーゼ」と間違って覚えている。
ははあ、そら完全なイロノーゼですよ。ええ。尻っぺたの青いインテリが、とかくかかりがちなイロノーゼってやつですね。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
インテリ
本来は「知識、学問、教養のある人」を指す言葉だが、寅さん的にはやや侮蔑的な意味合いも含んだ「頭でっかちの秀才」といったニュアンスでこの言葉を使う。寅さんは自身の学歴コンプレックスのためか、インテリを毛嫌いしている。
おう?てめぇさしずめインテリだな?ああそうか!そのインテリが暴力を振るったわけだ。
第2作「続・男はつらいよ」より
おかめ
あまり器量が良くない女性、の意味。本来は「丸い顔、広い額、低い鼻の女性」のことを指す言葉。
ヘッヘッヘッ、とんでもねえ。あんなみっともねぇおかめ、とても人前には…。
第5作「男はつらいよ望郷篇」より
おっかさん
お母さん、の意味。
おっかさんよう!あんたの息子は本当に親孝行モンだよ。
おとっつぁん
お父さん、の意味。
おとっつぁんよう!本当に良かったなぁ!
押っぺする
相手を押す、の意味。
ちょっと押っぺしただけだよ、殴ったりなんかしやしねぇよ。
第2作「続・男はつらいよ」より
カ行の寅さん語(7)
キッス
キス、接吻、の意味。
交際だろうとキッスだろうとペッチングだろうと、お好きなようにしなさいよ。
第1作「男はつらいよ」より
キーパン
キーパンチャーの意味。この言葉が登場した寅さん第1作の頃(1969年)には、電子計算機と呼ばれるいにしえのパソコンを操作する事務担当者のことをキーパンチャーと呼んだ。しかし、キーパンチャーをキーパンと略すのは世界広しと言えども寅さんしかいない。
キーパン?なるほどねぇ。
第1作「男はつらいよ」より
向後万端(きょうこうばんたん)引き立って、よろしくお頼み申します
初対面の相手(寅さんの場合、主に同業のテキヤ屋仲間)に対して、かしこまった挨拶をするときの言葉。「向後万端」とは「これから先、あらゆる事柄について」といった意味合い。
以後お見知りおかれまして、向後万端引き立って、よろしくお頼み申します。
第1作「男はつらいよ」より
具合
調子、様子、の意味。
時計がちょっと具合が悪いから、修理してくらぁ。
第1作「男はつらいよ」より
苦労かけたなぁ
相手の苦労をねぎらう時の言葉。ねぎらいの気持ちをしっかりと込めて、しみじみと言い放ちたい。
さくら、苦労かけたなぁ。
第1作「男はつらいよ」より
結構毛だらけ、猫灰だらけ、お尻のまわりは糞だらけ
最も有名な寅さん慣用句。何か不満を感じた際に相手に対する捨てゼリフとして、もしくは、寅さんが上機嫌な時に場を盛り上げる景気づけの言葉として使われることが多い。
結構結構!結構毛だらけ猫灰だらけお尻のまわりは糞だらけ!
第6作「男はつらいよ純情篇」より
御一統様(ごいっとうさま)
ここにいらっしゃるみなさん、の意味。
これはこれは、御町内の御一統様、長らくご無沙汰いたしました。
第1作「男はつらいよ」より
サ行の寅さん語(11)
さくら、止めるなよ?
おじちゃん、おばちゃんと喧嘩をした寅さんが、さくらに仲裁に入ってほしい、喧嘩を止めてほしい時に使う寅さん語。本当は相手と和解をしたいが、自分のメンツを立てるため、自分からは謝ることができないシチュエーションで使いたい。なお、ダチョウ倶楽部のギャグ「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ」の元ネタはこの寅さん語ではないかと考えられる。
さくら、止めるなよ。俺はもう二度とこの家に帰って来ねえからな。ええ?こんな心の冷てえ人間の住むところによ。さくら、止めるなよ。
第5作「男はつらいよ望郷篇」より
女工
工場で働く女性労働者、の意味。寅さんは「若くて素朴な女性はたいてい工場で働いている」という先入観を持っている。
近所の紡績の女工でもやってんのか?
第1作「男はつらいよ」より
しち面倒くせぇ
とても面倒くさい、の意味。
しち面倒くせぇのなんのって、へへへ。
第1作「男はつらいよ」より
シャーゲー
芸者、の意味。
いいか?相手はシャーゲーだよ?芸者は芸者らしく座敷で口説いたらいいんだよ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
ジャンズ
ジャズ、の意味。
あんたさんとご同様、東京の空の下、ネオンきらめきジャンズ高鳴る花の都に仮の住居まかりあります。
第6作「男はつらいよ純情篇」より
上等だよ!
相手と口論をしている際、相手の言葉を受けて立ち、言い返す時に出てくる反撃の言葉。
上等じゃねえかよ。血の雨降らしてやるよ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
職工
工場で働く労働者、の意味。寅さんはタコ社長が経営する朝日印刷の従業員を十把一絡げに「職工」と呼ぶ。
おい職工!なんだよ朝っぱらからガタガタガタガタ機械回しやがって!
第15作「男はつらいよ寅次郎相合い傘」より
シンリガキー
心理学、の意味。寅さんは義理の弟・博から「これは心理学の言葉です」と言われるが、心理学という単語を知らなかったため、「シンリガキー」という英単語を想像してしまった。さらに博に対して「英語なんか使うんじゃないよ!」と怒ったのである。
「いや、心理学の言葉ですけどね」「何だい、シンリガキーって」「つまりそういう学問なんです」「馬鹿野郎、ひとが真面目に話してるときにね、英語なんか使うんじゃないよお前は」
第6作「男はつらいよ純情篇」より
スパゲッチー
スパゲッティ、の意味。
馬鹿野郎!あのお嬢さんがラーメンなんか作るかい。決まってるじゃねえか、スパゲッチーよ。
第2作「続・男はつらいよ」より
青年
若い人、の意味。寅さんは若い男性を見かけるとたいてい「青年」と呼ぶ。名前を知っている親しい間柄でも、冗談めかして「おい、青年」と呼ぶこともある。
そこだよ!そこで最後のセリフを言う。アイ・ラブ・ユー…。できるか、青年!
第20作「男はつらいよ寅次郎頑張れ!」より
そうかそうか、草加、越谷、千住の先だ
江戸時代の奥州街道の宿場町は、日本橋から始まり千住宿、草加宿、越ケ谷宿と続く。このことから「そうか」という言葉のあとに「草加、越谷、千住の先だ」と続ける言葉遊びが生まれた。
ほいきた梅の間。そうかそうか、「草加 越谷 千住の先だ」と。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
そこが渡世人のつれえところよ
渡世人とは、各地をさすらいながら博打で生計を立てる人のこと。寅さんは往年の任侠映画の主人公を気取りながら、辛い状況の時にこのセリフを吐く。
「兄貴、この家じゃ、のけ者にされてんじゃないのかい?」「……そこが、渡世人のつれえところよ」
第5作「男はつらいよ望郷篇」より
タ行の寅さん語(16)
大学出
大学出身者、大卒、の意味。寅さんは堅気の女性が結婚する相手は「大学出」であるべきだと考えている模様。
あいつは大学出のサラリーマンと結婚させるんだい!
第1作「男はつらいよ」より
大したもんだカエルの小便、見上げたもんだ屋根屋のふんどし
頻出する寅さん慣用句。相手の発言や行動が、自分の想像を超えた時の感嘆を表すセリフとして使われる。ポジティブな感嘆としても使われるし、相手への皮肉的な意味を込めて挑発的に使われることも多い。
ああそうか!そのインテリが暴力を振るったわけだ。へぇ~大したもんだカエルの小便、見上げたもんだ屋根屋のふんどしだよ
第2作「続・男はつらいよ」より
タコはイボイボ、ニワトリゃハタチ、イモムシ十九で嫁に行く
啖呵売の際に使用される寅さん慣用句。七五調になるよう、語呂がいい単語をただまとめただけの慣用句と思われる。「イモムシ十九で」の部分は、「イモムシゃぁ十九で」と「シゃぁ」に気を付けて寅さんっぽく発音したい。
結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりは糞だらけってね。タコはイボイボ、ニワトリゃハタチ、イモムシ十九で嫁に行くと来た!
第6作「男はつらいよ純情篇」より
ダチ公
友達、友人、の意味。
おいちゃん、俺はちょっとダチ公んとこ行ってね、洋ラン借りてくるよ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
達者でいたかい?
しばらく会っていなかった、親しい人に対して使われる挨拶。おいちゃん、おばちゃんに向けて使われることが多い。
おいちゃん、達者でいたかい?
第2作「続・男はつらいよ」より
旦那
見知らぬ成人男性を敬って呼ぶ際の呼称。
ちょっとそこの旦那!流石いいところに目をつけたねぇ。
チョンガー
独身男性、の意味。
さて皆さん、こうやってここで話をしておりますチョンガーの身の上のこのわたくしも、いついかなる時絶世の美人とばったり出会うということも…
第2作「続・男はつらいよ」より
ツバクロ
燕(ツバメ)、の意味
夏になったら鳴きながら、必ず帰ってくるあのツバクロさえも、何かを境にぱったり姿を見せなくなることも、あるんだぜ?
第6作「男はつらいよ純情篇」より
釣りはいらねえよ
お店での会計時、紙幣を差し出すのと同時に言い放たれる寅さん語。しかし、寅さんは会計をよく確認せず、足りない紙幣を差し出しておきながら、「釣りはいらねえよ」と言ってしまうことも多い。
釣りはいらねえよ、ばあさん。おめえさんのかわいいお孫さんが送ってくれた電気アンカの電気代の足しにでもしてくれたら嬉しいぜ。
第4作「新・男はつらいよ」より
連れ込み旅館
ラブホテル、の意味。ちなみに寅さんの母親・お菊(ミヤコ蝶々)は、京都で「グランドホテル佛蘭西ハイツ」という名前のラブホテルを経営している。
当節はな、ちょいとした連れ込み旅館だって生意気にホテルだい。
第1作「男はつらいよ」より
てめぇ生きてたか?
しばらく会っていなかった、仲の良い友人に対して使う挨拶。寅さんは久しぶりに柴又に帰ってくると、近所の馴染みの顔に向けて明るくこの言葉を言い放つ。
てめぇ生きてたか?
第1作「男はつらいよ」より
出物腫れ物所嫌わず(でもの はれもの ところきらわず)
思わずオナラをしてしまったり、ニキビなどのデキモノができてしまった相手に対してかけてあげる、慰めの慣用句。
お便所?あぁ行ってらっしゃい、出物腫れ物所嫌わず。我慢しちゃいけねえや、爆発しちゃうからな。
第1作「男はつらいよ」より
電子
精密機器や、テクノロジー全般のことを指す寅さん語。寅さんにとっては、なんとなく時代の先端技術っぽいものはすべて「電子」になる。よって、スマートフォンも、インターネットも、SNSも「電子」。
電子やってるの?そりゃ大したもんだよ、今の世の中なんたって電子だからね。
第1作「男はつらいよ」より
当節
最近、近頃、の意味。
博、お前んとこは2人でどのぐらいかかるんだ?当節は。
第7作「男はつらいよ奮闘篇」より
灯台の根元は暗いよ
灯台下暗し(とうだいもとくらし)、の意味。
俺もなんだって初めからこのことに気が付かなかったかなぁ。ほれ、昔からよく言うじゃねえか。えー、灯台の根元は暗いよって。
第7作「男はつらいよ奮闘篇」より
どん百姓(どんびゃくしょう)
相手を田舎者として蔑む際の言葉。
田舎でも行ってどん百姓でもしてろよ。
第2作「続・男はつらいよ」より
ナ行の寅さん語(1)
菜っ葉服
工場労働者などが着る、薄青色の作業服、の意味。「職工」とセットで使われる。
てめえらみたいな菜っ葉服の職工には高嶺の花だい。
第1作「男はつらいよ」より
ハ行の寅さん語(8)
バイ
商売、の意味。
もっとマシなバイができねえのか、マヌケ!
第1作「男はつらいよ」より
バタァ~
寅さんは、記念撮影をする際の掛け声「チーズ!」を間違えて「バタァ~」と言ってしまう。元々は第1作で御前様が「バタァ~」と言ったことがきっかけ。
あっ、俺バターって言った?あっ間違えちゃった!あれチーズなんだよね!
第9作「男はつらいよ柴又慕情」より
ハチの頭だとか、アリの金玉だとか
主に口論や議論の場で、相手に対して反論する際に使われる寅さん慣用句。口から泡を飛ばしながら、勢い良く最後までまくし立てて使いたい。「アリの金玉」は「アリのおちんちん」に変わる時もある。
この野郎、女だとか愛だとかハチの頭だとかアリの金玉だとか御託ならべやがって!
第1作「男はつらいよ」より
早メシ、早グソ、芸のうち
食事や用足しが早いことは立派な特技である、といった意味の寅さん慣用句。さくらのお見合い会場(第1作)にて泥酔した寅さんが一座に対して朗々と言い放った。
早メシ、早グソ、芸のうちってね、見せたいぐらいだな。座ったと思ったらペロっとケツ拭いちゃうの。
第1作「男はつらいよ」より
ヒガイモーソ
被害妄想、の意味。寅さんは義理の弟・博から「それは被害妄想ですよ」と言われるが、被害妄想という単語をを知らなかったため、「ヒガイモーソ」という英語単語を想像してしまった。
「そりゃ兄さんの被害妄想じゃないのかなぁ」「え?何だい、ヒガイモーソって」
第6作「男はつらいよ純情篇」より
BG(ビージー)
働く女性、現代で言う「OL」、の意味。語源は「business girl(=BG)」。なお「business girl」は売春婦を想起させるという理由で、NHKは1963年に放送禁止用語に指定している。ちなみに、寅さんがこの言葉を発した第1作は1969年の公開。
妹を紹介するよ、これ見ろ、綺麗だろ?丸の内でもってBGやってんだよ。
第1作「男はつらいよ」より
ふうけん主義
考え方や行動が保守的である、の意味。「封建主義(ほうけんしゅぎ)」の言い間違え。
それじゃお前なにかい?お見合いってのはふうけん主義だとこう言うのか?
第1作「男はつらいよ」より
ペッチング
ペッティング、の意味。
交際だろうとキッスだろうとペッチングだろうと、お好きなようにしなさいよ。
第1作「男はつらいよ」より
マ行の寅さん語(1)
文部省選定
文部省がお墨付きを与えるほど立派な、素晴らしい、の意味。
文部省もしかしなんだってこんな孝行娘を文部省選定にしねえのかなあまったくなあ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
ヤ行の寅さん語(2)
ゆんべ
昨晩、昨夜、の意味。
おかげさまで治ってな。ゆんべの卵酒でもってイチコロだよ、ハハハ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
洋ラン
西洋の服、スーツ、の意味。
おいちゃん、俺はちょっとダチ公んとこ行ってね、洋ラン借りてくるよ。
第3作「男はつらいよフーテンの寅」より
ラ行の寅さん語(1)
ロハ
タダで、無料で、の意味。漢字の「只(ただ)」を分解すると、カタカナの「ロ」「ハ」になることから。
いいかい?あんな薄汚え物置きみてえな部屋、俺だから我慢してロハで住んでやってんだよ。
第4作「新・男はつらいよ」より