本サイト『寅さんとわたし』は、映画『男はつらいよ』シリーズのファンサイトとして、2012年12月に開設をいたしました。
寅さんをまだ見たことがない多くの人々に、その面白さを少しでも知っていただきたい。すでに寅さんをお楽しみの皆様とは、その素晴らしさをしみじみと分かち合いたい。そんな気持ちでこのサイトを運営しております。
私が「寅さん」を好きになったきっかけ
私が小学生だった1980年代には、テレビ朝日系『日曜洋画劇場』で寅さんがよく放送されていました。当時、その週の放送作品が寅さんだとわかると「なんだよ~また寅さんかよ~ジャッキーチェン(もしくは特攻野郎Aチーム)が見たいのに~」と、子供だった私はその良さを1%も理解することができませんでした。
それから時を経ること二十余年。劇団ひとり、みうらじゅん、森下くるみ、スチャダラアニなど、私の敬愛する人々がことごとく寅さんファンであることを知り、「寅さんシリーズには何かがある!」と確信するに至ります。今まで、ジジイの見る映画として避け続けてきた寅さんが、TSUTAYAの一画からいよいよ不思議な磁力で私を惹き寄せることになるのです。
こうして、寅さんとはじめてまともに相対したのが第1作目『男はつらいよ』でした。テンポの良い脚本と、今ではすっかり年を重ねた俳優たちの若々しい姿(倍賞千恵子の美しさよ!)に驚くとともに、渥美清のクサすぎる芝居が新鮮で、シリーズ1作を見ただけで終わりにしてしまうには実に惜しい後味を私に残しました。
それからというもの、週末がくるたびに寅さんを借りてはほっこりとした笑いを楽しみました。予定のない連休には1本観終わったそばから、次作を借りて鑑賞するなど、寅さん中毒とも言える症状を呈していたことを懐かしく思い出します。
そして現在、困ったことに寅さん熱は未だ衰える気配がありません。私があまりに繰り返し寅さんを見るものだから、寅さん的なものとはおよそ無縁な趣味を持つ妻でさえ「四谷赤坂麹町チャラチャラ流れるお茶の水~」と寅さんの口上を諳んじることができるほどですし、あげく第一子には迷うことなく「さくら」と名付けてしまいました。
私にとって寅さんは、観れば観るほど、知れば知るほどに、深みと面白みが増していくという驚異の映画シリーズであり、もはや映画というより、思想あるいは哲学あるいは生き方といってもいいものになりつつあります。
「国民的映画」の評価は間違ってないけど……なんか違う
寅さんを未見のみなさまにぜひお伝えしたいのは、寅さんを「ジジイの見る映画」としてスルーしては非常にもったいないということです。「国民的映画」「古き良き日本」といった、お行儀のよい映画評にもダマされてはいけません。その評価も真実ではありますが、寅さんの一面しか捉えていません。
今では粋の代名詞みたいに扱われる寅さんにも、通算二度の無銭飲食を働いたり、ウンコだのキチガイだのお行儀の悪い言葉を平気で使うようなロックな時代だってあったのです。とりわけ1970年代の初期作品の数々(1作目~18作目あたり)では「国民的映画」なんて退屈そうな先入観を吹っ飛ばすほどに荒ぶる寅さんがクッソ面白い。
その容姿服装性格言動にはつっこみどころが満載で、みうらじゅん曰く「90%以上間違ってる人」なのになぜか憎めない。架空の人物とは決して思えないヘンなリアリティがあって、彼がスクリーンに登場するだけで顔はニヤけ、彼のことを居酒屋で語りあうだけで幸せな気持ちになり、疲れた夜にはなぜだか無性に寅さんが観たくなるのです。
『男はつらいよ』は漢方薬のようにジワジワ効く
この文章をお読みいただき、寅さんに少しでもご興味をお持ちいただけたのならば大変嬉しく思います。最後に「そんなに言うんだったらいっちょ寅さん見てやっか」という方がおられましたら、ひとつだけご注意いただきたいことがあります。
それは、寅さんの面白さ、素晴らしさを理解するためには、最低でも3作品は見ていただきたいということです。これはもともと劇団ひとり氏の提言に基づくものですが、寅さんを一度観ただけで強烈にハマったという方は少数で、何回か観るうちにいつの間にかハマっていたという方のほうが圧倒的に多いのではないかと実感しています。
とある映画ファンの方は、山田洋次作品をして「山田洋次の映画はどちらかといえばおだやかな漢方薬」と評しています。これは実に言い得て妙でして、「若者には触れる機会が少ない」「ジワジワと時間をかけて効く」「飲み続けると欠かせなくなる」という漢方薬のイメージは、そのまま寅さん映画の性質、特徴に重なる部分があります。
漢方薬には「体質があわない人にはぜんぜん効かない」という一面もありますが、これもまた寅さんにもあてはまります。言われた通り寅さんを3作品見たものの「全っ然面白くもなんともなかったわコラ!」という方は、きっと寅さんが体質に合わなかったものと思われます。こればっかりは理屈ではどうにもならないので、そのような方は現世ではひとまずハリウッド映画など漢方とは対極の世界をお楽しみいただき、来世ではきっと寅さんの素晴らしさをご理解いただければと思います。
それでは前口上はこのくらいにして。日本映画史・芸能史が産んだ奇跡の作品、『男はつらいよ』の深淵なる世界へようこそ!
「寅さんとわたし」管理人について
ふくのじ
1978年生まれ。本名の苗字に「福」の字がありまして、そこから「ふくのじ」と名乗っております。もし私が寅さんの舎弟になったら、「おい!やい!そこの福の字!」なんて呼んでもらいたい。
寅さん歴
2008年に第1作『男はつらいよ』に出会い、以降、寅さん好きをこじらせにこじらせて今に至ります。シリーズ全48作を何回もぐるぐると見続けております。下記のフェイバリット10作品は特によく見ています。
マイ・フェイバリット・男はつらいよ10作品
- 第1作『男はつらいよ』
- 第3作『男はつらいよ フーテンの寅』
- 第5作『男はつらいよ 望郷篇』
- 第7作『男はつらいよ 奮闘編』
- 第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』
- 第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』
- 第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』
- 第16作『男はつらいよ 葛飾立志編』
- 第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』
- 第27作『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』
というか全然10作品に絞れない!やはり渥美清が元気いっぱいの初期から中期の作品が好きですね。
マイ・フェイバリット・マドンナ
朋子さん(竹下景子 第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』)
物語の最終盤、柴又駅ホームにおける寅さんへの告白、そして抑えきれずにあふれる涙はもう超絶の美であります。竹下景子は通算3作品に出演していますが、この第32作の朋子さんがやはりもっとも良いと思います。
ベストマドンナも選ぶのが難しいところですが、次点としては、冬子お嬢さん(光本幸子 第1作)、夏子お嬢さん(佐藤オリエ 第2作)、お千代坊(八千草薫 第10作)、初回のリリー(浅丘ルリ子 第11作)、ふみ(松坂慶子 第27作)、といったところでしょうか。
好きなシーン
寅さんとリリー、はじめての出会い(第11作『寅次郎忘れな草』)
第11作『寅次郎忘れな草』 より。うら寂しい波止場で、似たような境遇の二人がお互いの孤独をさわやかに慰め合う。人と人が出会う瞬間のキラメキを完璧に表現しているこのシーンは、どれだけ時を経ても色褪せることがないだろうと思います。
寅さん、豆腐屋で残酷にフラれる(第5作『望郷篇』)
第5作『望郷篇』 より。渥美清が本当に好きで好きでたまらないのですが、とりわけ初期作品における、力みなぎる渥美清の演技が大好きであります。初期寅さんの残酷なフラれっぷりの究極ともいえる第5作のこのシーンは、日本映画史上に残る三枚目といってもいい。渥美清、不朽の名演です。
受話器の向こうの寂しい寅さん(第42作『ぼくの伯父さん』)
第42作『ぼくの伯父さん』 より。「どうしてここにお兄ちゃんがいないの?」「体に気をつけろ!」「早く帰っておいで」「いないのは寅さんだけだぞ」。電話でくるまやの面々と束の間の会話を楽しんだあと、寒風吹きすさぶローカル駅で風に吹かれる寅さんの寂しさよ!
笑いのあとに訪れる強烈な孤独、それでも笑いながら旅を続ける寅さん。この侘びしさは他の映画ではなかなか味わえませんね。