思わず旅に出たくなる「寅さん的旅行ガイドブック」
「男はつらいよ」のロケ地=聖地を紹介する、寅さんロケ地ガイド本。寅さん50周年&50作公開の2019年に刊行された。
「温泉」「城下町」「島」など、寅さんが出没しがちな立ち寄り先をカテゴリに分類し、作品の舞台となったエリアの観どころ、文化、地理、歴史を紹介していくロケ地ガイドである。
サブタイトルには「一番詳しい聖地探訪大事典」とあるが、ご注意いただきたいのは、本書は作品ごと、シーンごとに、細かく詳しく撮影スポットを紹介していくデータベーススタイルの本ではないということ。「東尋坊」「別所温泉」「鳥取砂丘」といった風に、「点」ではなく広く「面」としてのロケ地に興味がある人向けの本である。
だから、「このシーンは、どのアングルから撮影されたのか?」といったことを完全解明したいマニアックな用途には不向きである。あくまで「寅さんが訪れた、あのエリアに行ってみたいなあ」というニーズに応えてくれる本である。
例えば、第3作『フーテンの寅』にて、寅さんがお志津の弟・信夫(河原崎健三)と決闘する「蒼滝橋」はもちろん紹介されているが、その橋へのアクセス、住所まで細かく掲載されているわけではない。むしろ、その橋がかかる三滝川の歴史や、そこに住まう人々の回顧録など、スクリーンには映らなかった情報が丹念に収録されている。
その筆の趣は、上品な旅行雑誌の紀行文のようである。それもそのはず、本書の出版社は自然や旅に関する雑誌・書籍を専門に手掛けている山と渓谷社であり、著者は数多くの紀行文を著してきた旅行作家・岡村直樹氏である。
語りの切り口として「寅さん」は頻出するが、本書の主役はあくまで観光地とそこで得られる体験にある。だから、うかつに本書に手を出すと「ああ~仕事ほっぽり出してどっか行きてえな~」と現実逃避したくなってしまうから注意が必要だ。人を旅に仕向ける力を持った本である。
日本の地理や歴史に明るくない私にとって、この本によって諸作品への理解が増した部分も少なからずあった。寅さん映画の鑑賞において、地理や歴史といった新たな見どころのレイヤーを加えてくれる一冊である。
追記:寅さん映画の撮影スポットをピンポイントで知りたい方は
以前、当ブログでは、講談社出版の『「男はつらいよ」寅さんロケ地ガイド』を紹介した。

こちらは本書と違い、各作品、各シーンの撮影スポットをピンポイントで、虫眼鏡レベルで紹介している好著である。
本書『寅さんの「日本」を歩く』が「ロケ地旅行ガイドブック」とすれば、講談社『「男はつらいよ」寅さんロケ地ガイド』は「ロケ地情報データベース」である。
「あの作品の、あのシーンの、あのアングルを確認したい」という方は、ぜひこちらもチェックしていただきたい。