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「平成生まれの女性シンガーがピュアな視点で寅さんの魅力を語る」【書評】町あかりの『男はつらいよ』全作品ガイド/町あかり

本書は、「男はつらいよ」シリーズ全50作品の見どころを解説する作品ガイドブックである。

著者の町あかり氏は、昭和歌謡をこよなく愛する平成3年(1991年)生まれのシンガーソングライター。作詞・作曲・アレンジ・舞台衣装を自ら手掛け、イラストやマンガ、ラジオパーソナリティーまでこなす、マルチなタレントを持った女性である。

同様の作品ガイドはこれまで数多く出版されてきたが、著者のほとんどは年配の男性だった。一方、本書の著者は女性であり、しかも、平成生まれ、という点がこれまでの類書と大きく異なる。本人もその点は自覚しており、そこが執筆の出発点になっているとあとがきで述べている。

 『男はつらいよ』にまつわる書籍を探してみると、その多くは昭和時代をよく知る大人の男性によって書かれたもの。だけど『男はつらいよ』はおじさまだちだけのものじゃない! 平成生まれの女性である私だからこそ語れる「寅さん」があるかも、と感じたことが本書を作るきっかけです。

町あかりの『男はつらいよ』全作品ガイド/町あかり(178P)

この言葉の通り、本書は隅々に至るまで町あかり氏の感性で彩られている。たとえば表紙は、著者が書き下ろしたパステル調のイラストで、さくら・リリー・泉ちゃんに囲まれた寅さんが、ピンクのメリーゴーランドに乗って手を振っているものだ。私は書店で面陳列されている本書を初めて見かけた時、ファンシーなイラストと「男はつらいよ」の強烈なギャップに思わず「おおおっ!?」と声が出てしまった。

続くまえがきは、自己紹介を兼ねた著者本人による直筆マンガ。“「男はつらいよ」といっても、男性の苦労のみを描いた作品ではない” “女性であるマドンナが悩む姿が毎回描かれ、私はそこに共感”。寅さんシリーズ未経験者に向けて優しく語り掛けるようなメッセージは、寅さんマニアの中年男性からは100%出てこないものである。

本書を一読して強く感じるのは、寅さんシリーズを彩った「マドンナ」たちに対する町あかり氏の天真爛漫な反応だ。マドンナたちの喜怒哀楽に、心を揺り動かされた様子が文章から瑞々しく伝わってくる。特に、マドンナのファッションへの食いつきは、女性著者ならではのものと言えるかもしれない。

 タコ社長も「なんともいえない色気がある」と評したマドンナのすみれ。中学3年生の私にとっても、めちゃくちゃ魅力的なお姉さんに見えました。寅さんと出会ったときに着ていた赤いスタジャンも印象的ですが、特に私が惹かれたのは、当時流行していたハマトラ風ファッション。すみれが入学試験の日にも着ているのですが、シャツにベストやカーディガンを合わせた、お嬢様風の清楚なスタイルがとても可愛い! 普段パーカーやTシャツなど、カジュアルなものをダラッと着ていた2000年代の中学生からすると新鮮で、とても憧れました。それを見てから、母が昔着ていたカーディガンやベスト、ネルシャツを譲ってもらい、合わせて着ると一気にすみれっぽくなるので、気に入ってよく着ていました。

町あかりの『男はつらいよ』全作品ガイド/町あかり(96P)

寅さんシリーズに出演する男優に向けられる視点も、女性ならではのものと言えるかもしれない。著者によると、寅さんはマドンナの美しさを流暢に語るが、そこにはまったくいやらしさ、スケベ心が感じられないという。一方で、第23作『翔んでる寅次郎』に出演した布施明については、「妙にジットリとしたキャラクター」と手厳しい。「ひとみちゃんを熱く見つめる目も何とも言えず気持ち悪くて(笑)」のくだりには爆笑してしまった。

私はこれまで多くの「男はつらいよ」関連書籍を読んできたが、本書のように、著者のピュアな驚きや喜びがストレートに綴られる書籍はあまりなかった。寅さんマニアにとってはシリーズに対する新鮮な視点をもたらし、寅さんビギナーや未経験者にとっては「男はつらいよ」の世界へと優しく誘う一冊になるだろう。

「性別の違い」で片づけてしまうのは乱暴かもしれないが、男性と女性では「男はつらいよ」シリーズの見え方、感じ方が大きく異なるのかもしれない……。私にとってはそんな気づきをもたらしてくれた一冊だった。

現在進行中で寅さんシリーズを見ている人ならば、仲の良い友達と、作品の感想を振り返っているような気持ちになれるだろう。肩肘はらず、気軽にサクサクと読める一冊である。

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