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「倍賞千恵子が語る“渥美清・寅さん・男はつらいよ”の思い出」【書評】倍賞千恵子の現場/倍賞千恵子

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本書は『男はつらいよ』シリーズで寅さんの妹・さくらを演じた倍賞千恵子の書き下ろしエッセイ。出版社による内容紹介は以下の通り。

『男はつらいよ』シリーズ、『下町の太陽』『幸福の黄色いハンカチ』『遥かなる山の呼び声』『駅STATION』など数々の名作に出演してきた著者が、「現場」で出会った素敵な人びととのエピソードから、著者自身の生き方、演じ方、歌い方までを語り尽くします。

「倍賞千恵子の現場」表紙カバーより

倍賞千恵子は1997年に『お兄ちゃん』(廣済堂出版)という本を出版している。『お兄ちゃん』は独特の文体が本人の執筆であることを感じさせたが、本書『倍賞千恵子の現場』はそつのない文章でクセがない。巻末クレジットに編集協力者の名前があるので、おそらくライターによる聞き書きなのだろう。しかし、プロが編集協力しているだけあって大変読みやすくスラスラと一気に読むことができた。

倍賞千恵子
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本書は大きく分けて以下4つの話題で構成されている。

1:渥美清(男はつらいよ)
2:高倉健
3:山田洋次
4:自身の演技論

渥美清(男はつらいよ)に関しては、本書で初めて知るエピソードも多く「ええっ!?そんなことが!」と驚きの連続だった。『男はつらいよ』シリーズの全作品に出演し、渥美清をはじめ出演者、製作者と長年苦楽を共にした倍賞千恵子だからこそ話せる逸話が満載だ。エピソードのほとんどは映画の撮影現場のもので『倍賞千恵子の現場』というタイトルにふさわしい内容になっている。

本書から、渥美清に関する印象深いエピソードをいくつか紹介しよう。

 あれはなんだろう──。

 いつもうまく説明できないんですが、渥美清さんと一緒にお芝居をしたときにだけ体験した特別な瞬間です。

 こちらがセリフをポンと投げると、渥美さんもポンと投げ返す。ポンポンポーンとテンポ よくセリフのキャッチボールがうまくいって、どんどんテンションが上がっていく。

 うわっ、何なんだろう、これ。とっても素敵だなぁ。歯車がぴったり噛みあうような、即興演奏のかけあいのような、水車小屋の水車がどんどん回っていくような。何かものすごく愉快で、怖いくらいに幸せになって、

「わー、すごい、こんなに行っちゃってどうしよう!」

 あまりにもうまくいくことが理屈抜きに可笑しくなって、渥美さんもそうなんでしょう、 ある瞬間、二人で同時にバーッと吹き出してしまう。アハハハハと声に出して大笑いしてしまうんです。

 とても不思議な経験でした。相性がよかったのか、間合いが合うのか、渥美さんとのお芝居では、そんな幸せな体験を何度も味わいました。

「倍賞千恵子の現場」18-19p 渥美清さんとの特別な瞬間

渥美清と倍賞千恵子は、リハーサルでも本番でもよく吹き出してしまうため、カメラマン高羽哲夫にたびたび叱られていたという。第32作『男はつらいよ口笛を吹く寅次郎』ではお坊さんになった寅さんと深刻な表情のさくらが言い争うシーンがあるが、この時も何度も吹き出しNGを出していたという。映画を見る限りとてもそんな風には見えないから驚きだ。

つづいて、倍賞千恵子の好きなシーンについて。

 『男はつらいよ』の撮影で私がいちばん好きだったのは、とらやの茶の間で、お兄ちゃんを中心に、おいちゃん(森川信さん、松村達雄さん、下條正巳さん)、おばちゃん(三崎千恵子さん)、 博さん(前田吟さん)、さくらさん、裏の印刷工場のタコ社長さん(太宰久雄さん)が世間話をしたり言い合ったりする場面です。

 とくにお兄ちゃんが旅先から柴又に帰ってきて、みんなにみやげ話をするシーン。台本を読んで自分なりに想像してはいるけれども、これを渥美さんはどんなふうに表現するのかな、といつも楽しみでした。

 そして目の前で渥美さんが、あの艶のある声とキレのいい語り口で話す旅の話を聞いているうちに、お兄ちゃんがどんなところに行って、どんな人に会って、どんなことがあったのか、自然に情景が浮かんできて、心地よくその世界に入っていけるんです。

 山田監督がおっしゃっていました。

「この茶の間のシーンは、周りでコーラスを歌っていると、寅さんが帰ってきて、合唱の中で一人、アリアを歌う場面。君たちはそれにハーモニーをつけるんです」

 ああ、なるほどなぁ。確かに渥美さんの歌うソロはきれいです。その言葉は心地よく響くだけでなく、きっちりと心に入ってきて、極上のアリアを聴いている気分になります。

「倍賞千恵子の現場」25-26p 寅さんのアリアにハーモニーをつける

寅さんの独り語りは「寅のアリア」と呼ばれていて、『男はつらいよ』シリーズのお約束の一つになっている。中でも、第15作『男はつらいよ寅次郎相合い傘』におけるリリーの晴れ姿を想う寅のアリアはシリーズ屈指の名場面。本書では、第15作のアリアが台本と本番でどのように変わったかを比較して紹介している。渥美清が台本に命を吹きこむ過程を垣間見ることができ大変興味深い。

つづいて、渥美清のカッコよさについて。

 旅から帰って来たお兄ちゃんが、お店に入るのをためらって、入り口前の参道を行ったり来たり。ふと立ち止まってこちらに視線を向ける、その姿を目にしたとき、私は思っていました。

「ああ、なんて美しいんだろう」

 スタジオの隅に立って、ポケットに手を突っ込んで自分の出を待っている姿。きれいで、それでいてどこか哀しげでした。

 渥美さんって、立っているだけで形がきれいというか、美しいというか、その立ち方、在り方に目を奪われます。渥美さんはかっこよかったですよ。

(中略)

 渥美さんがすっと立っている姿は、高倉健さんが立っている姿とどこか似ていました。もちろん、健さんとは違ったかっこよさですが、役に対する姿勢なのか、生き方なのか、そこにいるだけで成り立つ存在感なのか。

 山田さんは「いい役者は贅肉がない」とおっしゃいます。肉体的なことを言っているわけではなくて、演技に自信がない役者さんほど、やたらと頭をかいたり、タバコを吸ったり、ポケットに手を入れたり、小芝居をしたがるそうです。

 そうした小芝居を、山田さんは「贅肉」と呼んだのでしょう。そういう思いで見ていると、ああ確かになるほどなぁ。自分でも肝に銘じたい言葉です。

 その意味で、まったく「贅肉のない芝居」をされていたのが、渥美さんであり、高倉健さんであり、笠智衆さんだと思います。深い川は静かに流れるそうです。三人とも若いころから役者として苦労され、ストイックに努力を怠らずに歩んできた方々でした。

「倍賞千恵子の現場」48-49p なぜ立ち姿がかっこいいのか

本書では、渥美清以外の『男はつらいよ』関係者のエピソードも豊富に語られている。倍賞千恵子は歯に海苔を貼ってお歯黒をつくり、撮影スタッフを驚かせる遊びをしていたらしいが、第48作『男はつらいよ寅次郎紅の花』ではリリー役の浅丘ルリ子もこのいたずらを一緒にやったという。その他、笠智衆、松岡秀隆、山田洋次監督、カメラマン・高羽哲夫、編集・石井厳、小道具・露木幸次、衣装・本間邦仁などの逸話も収録されている。

『お兄ちゃん』の時にも同じことを思ったが、本書からは倍賞千恵子の実直で、素直で、可愛らしい人柄がひしひしと伝わってくる。本書にはさまざまな人物が登場するが、彼らを評価したり、値踏みしたりするような視点が一切ない。出会った人々から得た学びや感動が瑞々しくストレートに表現されており、晴れわたる青空のように気持ちのよい読後感をもたらすだろう。

『幸福の黄色いハンカチ』『駅STATION』『遥かなる山の呼び声』『家族』『故郷』『霧の旗』『ホノカアボーイ』など、寅さん以外の倍賞千恵子出演作品を鑑賞するにあたっての良いガイドにもなる一冊。本書をきっかけに、ぜひ名優・倍賞千恵子の作品に触れていただきたいと思う。

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