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「初代おいちゃん・森川信の通夜に向かう渥美清の貴重なプライベート写真も掲載」 【書評】渥美清 没後20年 寅さんの向こうに/小泉信一監修

渥美清没後20年の2016年に刊行されたムック本。A4より若干大きいサイズで、全146ページフルカラー。ムック本というより写真集と言った方が良さそうな、重厚感のある仕上がりになっている。

本書の8割を占めるのは、映画「男はつらいよ」シリーズの出演者・製作者たちへのインタビュー記事だ。インタビューのテーマはもちろん「渥美清」である。山田洋次監督、倍賞千恵子、前田吟、佐藤蛾次郎らのレギュラー出演者に加えて、浅丘ルリ子、吉永小百合、竹下景子ら歴代マドンナ26人たちが渥美清の思い出を語っている。その他にも、渥美清の特別な友人として黒柳徹子へのインタビュー、脚本家・早坂暁や永六輔による書き下ろしも掲載されている。

インタビューのほとんどは、書籍「朝日新聞版 寅さんの伝言」(小泉信一・著/講談社)からの再録だが、本書には書籍にはなかった取材時のインタビュー写真が掲載されている(ご興味のある向きは、以前このブログで紹介した「朝日新聞版 寅さんの伝言」の書評をご覧いただきたい)。個人的には、「男はつらいよ」以外でほとんど姿を見たことがない、佐藤オリエ(夏子さん!)、樫山文枝(礼子さん!)の近影が見られたのが嬉しかった。

関係者たちが述懐する渥美清の人物像は実に多様なものだ。戦後まもなく「上野のヤス」と呼ばれ危険な仕事をしていた頃の渥美清、浅草ストリップ小屋からテレビ局に活躍の場を移したばかりの眼光鋭い渥美清、マスコミに追われる桃井かおりを自分の仕事場にかくまった渥美清など、スクリーンの寅さんからは想像ができない渥美清の姿がインタビューから浮かびあがる。本書のタイトル通り、車寅次郎=寅さんという虚像の向こう側に秘められた、俳優・渥美清、そして、本名・田所康雄(たどころやすお)の人物像が垣間見える一冊である。

さて、本書において注目すべきは、なんといっても渥美清の貴重なプライベート写真の数々だろう。これは、写真家・ムトー清次が、渥美清主演の映画「あゝ声なき友」のロケに密着取材していた際に撮影されたものだ。この密着取材の最中、渥美清の元に「男はつらいよ」初代おいちゃんを務めた俳優・森川信の訃報が届いたという。

「一緒に行くかい?」

 渥美清は、そう声をかけた。

 1972年3月。石川県・能登で、映画「あゝ声なき友」の撮影を終え、東京へ帰る列車の中だった。「男はつらいよ」の初代”おいちゃん”こと森川信の訃報を車中で聞いた渥美は、取材で密着していたカメラマン・ムトー清次に、通夜への同行を持ちかけた。

「いいんですか」

 列車が東京駅に着くと、ムトーはそのまま渥美と2人でタクシーに乗り、森川の自宅まで同道した。ここに掲載した写真は、その旅で撮影されたものだ。

「渥美清 没後20年 寅さんの向こうに」 23P

神妙な顔で車窓を眺める渥美清、途中駅で駅弁・ビール・新聞を買い込む渥美清、そして、森川信の自宅に到着し、沈痛な面持ちの倍賞千恵子・三崎千恵子・吉永小百合らに声をかける渥美清、山田洋次監督と途方に暮れたように中空を見つめる渥美清……。それらの表情は、スクリーンの車寅次郎が絶対に見せないものであり、44歳の男の素顔がむき出しになっている。

写真の中には、訃報を聞く前のリラックスした渥美清を捉えたものもある。特に、旅館の狭い狭い風呂の浴槽にまるまるとした体を沈める渥美清のフルヌード入浴写真は必見だ。渥美清ファンならばぜひ一度は見ておきたい貴重な写真の数々が掲載されている。

なお、本書は2019年に「男はつらいよ」50周年を記念した増補改訂版も出版されている(「わたしの寅さん 男はつらいよ50周年 [増補改訂版 寅さんの向こうに]」)。ただし、増補改訂版には本記事で紹介した渥美清のプライベート写真は掲載されていないのでご注意いただきたい。詳しくは以下書評記事を参考のこと。

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