『男はつらいよ』の宣伝担当を務めた、元・松竹の宣伝マン「寅さん課長」こと池田荘太郎氏による思い出話をまとめたエッセイ。
本書の目玉はなんといっても「第三章 ”寅さん課長”誕生」だろう。池田氏は、第1作から男はつらいよの宣伝担当として、あの手この手で寅さんの売り出しに尽力。その楽しい奮闘努力がイキイキと描かれるのがこの章だ。
たとえば、柴又のお店と協力して「寅さんせんべい」を開発したり、はたまた、当時の国鉄とタイアップして寅さんポスターを全国三千の駅に掲示するなど、たくさんの販促プランを実行してきた。
少し変わった販促としては、第5作『望郷篇』の際に、な、な、なんと!銭湯の女風呂で渥美清に映画予告編の紙芝居をさせたこともあったという。たくさんの裸婦に取りかこまれ、紙芝居をする渥美清の貴重な写真も収録されている(必見)。
やがて寅さん人気の高まりにあわせて、池田氏は松竹内に「寅さん課」を設立。専用ダイヤルまで用意して、一時間に三十本の電話を受けていたこともあったそうだ(「寅さんは童貞ですか?」という、しょうもない質問もあったという)。
池田氏は撮影現場にも出入りをしていたため、本書には出演者たちのちょっといい話も多数収録されている。御前様こと、笠智衆のエピソードをひとつ引用しよう。
「男はつらいよ」が大船で撮影に入ると、外国の記者団がセットを訪れることが多くなりました。ニューヨーク・タイムズ、プラウダ、ル・モンドなど、世界の超一流の記者たちです。
(中略)
ほとんどが観光気分でした。だが、笠さんがふらりとセットに現れたとたん、彼らは驚いて叫びました。
「チシュウ・リュウが出ている!」
アメリカでも、フランスでも、笠智衆は日本を代表する俳優として深い尊敬を集めており、「チシュウ・リュウが出ている映画なら、すごい作品だろう」となったのです。
「男はつらいよ」うちあけ話/池田荘太郎(145p)
本書には、映画宣伝が牧歌的だった時代のほっこりするエピソードを中心に、Web上ではなかなかお見にかかれない、出演者のウラ話が多数収録されている。