渥美清のアドリブ芸~寅さんの発狂にさくら堪え切れず大爆笑

渥美清のアドリブに、倍賞千恵子が堪え切れず大爆笑をしてしまうものの、それがそのままOKテイクになっている珍しいシーンがある。

作品は、第10作『男はつらいよ寅次郎夢枕』。八千草薫演じるマドンナお千代さんに、大学教授・岡倉先生が恋をする物語である。お千代さんに一目惚れしてしまった岡倉先生のことを、寅さんがとらやのお茶の間で噂をするシーン。ここで渥美清のアドリブが炸裂する。

以下、渥美清のアドリブ炸裂までの流れを作品より引用する。岡倉先生はお千代さんのことで頭がいっぱい、という話題から問題のシーンは始まる。

飯を食う時も、ウンコをする時も、もうその人のことで頭がいっぱいよ。なんだかこう、胸の中が柔らかぁ~くなるような気持ちでさ。ちょっとした音でも、例えば千里先で針が、ポトンと落ちても、わーっ!となるような。

そんな優しい気持ちになって、いい、この人のためなら何でもしてやろう、命なんか惜しくない。『ねえ寅ちゃん、私のために死んでくれる?』と言われたら『ありがとう』と言ってすぐ死ねる。それが恋というもんじゃないだろうか。どうかね社長?」

社長「さあ、俺は見合い結婚だからね、申し訳ない」

帰れタコ。博、おまえはどうかね?」

「いやあ…なかなかそこまでは」

「おいちゃんはどうなんだい?」

おいちゃん「とてもとても…」

「ほ~う。誰もそういう気持ちを知らねえってのか。不幸せだねえ君たちは」

寅さんは、自身の恋愛観について同意を求めるが、 誰ひとりとして寅さんに共感をしない。それどころか、売り言葉に買い言葉で、軽い口喧嘩がにわかに巻き起こる。

おいちゃん「寅ほど幸せじゃねえよみんな」

おばちゃん「そうだよ~」

「なんだよ、そらどういう意味なんだよ。え?幸せなのはおいちゃんだろ?」

おい「俺は不幸せよ!」

「何いってやがんだい幸せの塊みたいな顔しやがって。不幸せぶるなっていってんだよ!」

おい「不幸せだから不幸せだっていってんだよ!」

「冗談じゃないっての!」

「兄さんは幸せですよ!」

おば「そうよ、いつだって寅ちゃんは幸せだってみんなでいってんだよ?」

「ほら、それがおかしいっていってんだよ。なぜ、なぜみんなでいうの?なぜみんなでいうの?みんなで口裏あわせてるじゃねえかよ。結局俺のこと馬鹿だっていってんだよ」

おば・さくら「そんなことないわよ!」

ここで寅さんは突如として半狂乱状態へ!目をひんむき、口を歪ませ、とらや一同を指差しながら絶叫をするのであります。

そうだよー!」

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寅「そうだよー!!」

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寅「そぉだよぉぉおおー!!!

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この時点で、倍賞千恵子は肩が小刻みに震えて爆笑モードに入りかけている。渥美清は半狂乱から平静に戻る瞬間、その異変に気がついて、「あれ?ちょっとやり過ぎたかな?」という絶妙な表情を見せている。

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そして倍賞千恵子はいよいよ堪え切れずに大爆笑。笑いを全然抑えられていないが、シーンを進めるためにそのままセリフを続けるのである。

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ここ注目なのが、とらや一同の華麗なるチームワークである。「あっ!千恵子ちゃんがNG出しちゃう!」と感じたおばちゃん役・三崎千恵子は、さりげなくさくらの腕をポンっと叩いて、笑いを堪えるような合図を出している。

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間髪いれず、今度は博役の前田吟が、その場の流れの演技としてとても自然な動作で、倍賞千恵子に「ダメ!今は堪えて!」と目で合図を送っている。

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こうした、とらやの絶妙なチームワークの甲斐あって、シーンはNGなく無事に乗り切ることができたのであった。

さくらの大爆笑はあるものの、和気藹々としたとらやの様子がうまく撮れていたため、山田洋次監督もOKテイクとしてそのまま作品に取り込んだのではないだろうか。

しかしながら、渥美清の爆発力は凄まじい。急にテンションがMAXになり、いきなり発狂状態に至る一連の流れはお見事である。

本シーンは作品の61分あたり。DVDをお持ちの方はぜひご自身の目でご確認いただきたい。

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      2016/06/01

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