第6作『男はつらいよ純情篇』ラストシーンで寅さんはなんと言っていたのか?

第6作『男はつらいよ純情篇』における寅さんとさくらの柴又駅での別れのシーンは、シリーズ全48作中もっとも美しく、もっとも悲しく胸に迫る名シーンといってもいいだろう。

電車が発車する間際まで別れを惜しむ寅さんとさくら。「故郷ってやつは……故郷ってやつはよ……」。寅さんは何かを言いかけるが、ちょうどその時ドアがしまり、寅さんは結局なんと言いたかったのかわからないままに別れが訪れる。

さて、このシーン、実際に寅さんはさくらになんと言っていたのであろうか?

私は本作品を初めて見た時から、こんな風に言っていたのではないか?と思いあたるセリフがある。対象場面の少し前のセリフから引用しよう。

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さくら「お兄ちゃん、またどっかに行っちゃうのね…。」

寅「さくら、覚えてるかい。この駅でよ、俺が16の歳に親父と喧嘩して家出したろ?」

さくら「ああ…かすかにね。なんだかお兄ちゃんと別れるのが悲しくって、どこまでも追っかけてったんじゃない私?」

寅「そおよ。追っ払っても追っ払ってもよ、え?おまえ泣きべそかいてよちよちよちよちくっついてくるんだろう、俺困っちゃったよ。でもそこの改札のところまで来たらあきらめてよ、『これ餞別よ』って俺に渡して、おまえ帰ってったろ。電車乗ってそれ開けてみたらよお、こんな真っ赤なおはじきが入ってやがんの俺笑っちゃったよ、ははは……」

さくら「そう……。(さくら涙ぐむ)ねえお兄ちゃん、もう正月も近いんだしさ、せめてお正月までいたっていいじゃない?」

寅「そうもいかねえよ。俺たちの稼業はよ、世間の人がコタツにあたってテレビ観てるようなときに、冷てえ風に吹かれて、鼻水たらして声を枯らしてものを売らなきゃならねえ稼業なんだよ。そこが渡世人のつれえところよ。みんなによろしくな。博と仲良くやるんだぞ」

(電車がホームに到着する。電車にのる寅次郎)

寅「じゃあなさくら」

さくら「あのね、お兄ちゃん。辛いことがあったら、いつでも帰っておいでね。」

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寅「そのことだけどよ、そんな考えだから俺はいつまでも一人前に……。故郷ってやつはよ、故郷ってやつはよ」

(ドアが締まり電車が動きだす。寅次郎は必死に何かを言っているがさくらには聞こえない)

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さくら「なに?えっ?なんて言ったの?」

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寅「○△□☓※#」

(故郷ってのはよ…遠きにありて思うものなんだよ!)

寅さんのセリフをこのように考えたのは、本作冒頭の寅さんのモノローグに理由がある。「ふるさとは遠きにありて思うもの、とか申します」。これは有名な室生犀星の詩『ふるさと』の一節であり、本作のテーマを決定づけている引用だと思うのだ。

ふるさとは 遠きにありて思うもの そして悲しくうたうもの

本作の寅さんは、旅先で強烈な望郷の念にかられ柴又へと帰ってくるが、とらや一同を散々騒動に巻き込んだあげく、いつもの通り無残な失恋を重ね、いたたまれなくなってまた旅に出る。

故郷恋しさのあまり、矢も盾もたまらずに帰郷した今回だからこそ余計に、ひとところに留まることができない己の性分を嫌というほど感じたのではないか。

自分にとって故郷とは、決して帰ってはならない場所であり、遠い旅の空の下から悲しくうたうものでなければならない。今回の帰郷で、寅さんはそんな風に覚悟を決めたのではないか。別れ際の寅さんは、そんな寂しいあきらめの気持ちを、電車の中から切実に訴えていたように思うのである。

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      2016/06/01

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