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『信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク』/ナンシー関

テレビ批評がメインだった故・ナンシー関の、ちょっと珍しい「潜入取材ルポ」を集めたのが本書。1991年から1994年にかけて、雑誌『STUDIO VOICE』『野性時代』に連載されたルポルタージュ24篇が収録されている。

ナンシーが向かう取材先は一風変わっており、たとえば、気合の入った永ちゃん信者であふれる矢沢永吉ライブや、おっかけオバサンでにぎわうウイーン少年合唱団コンサート、会場全体がサロンパス臭いという全日本キックボクシングの後楽園ホール興行、などが選定されている。

要は、一般人が寄り付かない、マニアだけが集う特殊な場所に行って、その様子を冷やかし半分、面白おかしくレポートしようというのが本書の趣旨であり、その取材対象になんと「男はつらいよ」を上映する映画館がチョイスされているのだから、寅さんファンとしてはちょっぴり動揺してしまう。ナンシー関の寅さん批評がどんなものであったのかを知りたく、本書を取り寄せた次第である。

ナンシー関が訪れたのは、第44作『寅次郎の告白』の公開初日(1991年12月23日)を迎えた浅草松竹劇場。「寅さんを観なければ正月が来ない」という寅さんマニアの存在を確かめるためである。

映画館には開場前から長蛇の列、寅さんがスクリーンに登場すると劇場にどよめきが起きた、など、寅さん映画をリアルタイムで知らない人には興味深いルポが続く。

しんみりするのは、併映の『釣りバカ日誌』では会場大爆笑だったのに、寅さんになるとややウケ程度になってしまったというくだり。当のナンシー本人に至っては、「最後まで観るのが苦痛なほどつまらなかった」と寅さんをバッサリ切り捨てている。

確かに、シリーズ後期の第44作は、寅さんファンにとっても正直なところ良く出来た作品とは言えないものである。シリーズ晩年にはこのような低いテンションの作品が続いたにもかかわらず、それでも「お正月にはやっぱり寅さん!」というファンが映画館に押し寄せていたというのだから、寅さんはもはや映画としての出来不出来を度外視した、年中行事として楽しまれる面があったのだろうと偲ばれる。

作品全体を通して、ナンシー関の観察眼、批評眼は鋭く、その向かう先が「熱狂的な永ちゃんファン」や「ウィーン少年合唱団のおっかけオバサン」にあるうちは下世話な好奇心を満たすルポとして楽しく読むことができる。しかし、それがいざこちら側(寅さん)に向けられると、ファンとしては複雑な気持ちを抱かずにはいられないだろう。

寅さん好きである自分のことを「物好き」だと認識している御仁にはお薦めできる一冊である。

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