『知識ゼロからの寅さん入門』/著:岡村直樹・藤井勝彦、監修:川本三郎

目新しいコンセプト=「知識ゼロからの」寅さんガイドブック

第50作『おかえり寅さん』の劇場公開にあわせて、2019年12月10日に刊行された『男はつらいよ』シリーズの作品ガイドブック。同様の作品ガイドはこれまでも何冊か出版されてきたが、『知識ゼロからの~』と銘打っている点が目新しい。

タイトルの通り、本書は「寅さんとは何者か?」「シリーズはどうやって生まれたか?」「作品の見どころは?」「主演俳優は誰か?」など、男はつらいよ基本中の基本から、まるで噛んで含めるようにしてシリーズを説いていく。

やがて、登場人物・マドンナ紹介、寅さんおなじみの行動パターンなど、作品ガイドブックに定番の内容が続いていくが、寅さんシリーズの膨大な諸要素を無機質な「データ」としてただ網羅的に取り上げるのではなく、シリーズの中でも特に印象的なワンシーンを取り上げ、「第1作ではこのようなことがあって……」「かと思えば、第5作ではこんなこともあった……」といった風に、まるで語り部のようにシリーズを紐解いていく点に好感が持てる。

取り上げられるエピソードのチョイス&ボリュームは良いサジ加減で、独りよがりで行き過ぎた独自解釈もない。『男はつらいよ』シリーズの見どころ、名シーンが過不足なく、うまく拾い上げられている印象だ。

寅さんシリーズを今まさに見進めている人や、かつて寅さんを少しかじったことがある人なら、「ああ~寅さんを見たいなぁ」とうまく焚きつけられること間違いないだろう。

寅さんマニアも思わず唸る、マニアックな情報も

『知識ゼロからの~』とはいっても、本書には寅さんマニアも唸ってしまう記述がそこかしこにある。

例えば、見開き2ページで展開されるタコ社長&あけみの紹介部分。寅さんシリーズを何度も見ている私も「あぁそういえば!」「うわ~知らなかった~」と思わずニヤリとさせられてしまった(以下引用の太字部分に注目!)

「とらや」の裏庭に隣接する朝日印刷(第4作までは共栄印刷)の経営者がタコ社長の愛称で呼ばれる桂梅太郎(太宰久雄/第6作では姓は堤)である。妻・小春(水木涼子)と2男2女の6人家族で、長女があけみ(美保純)。2番目の女の子はじゅん子。小春は第1作と第6作のみに登場。(34P)

個人的に嬉しかったのは、『男はつらいよ』シリーズの物語展開を、一枚のフローチャートにまとめた15Pの図だ。

このフローチャートにのっとり、各プロセスの内容に肉付けをしていけば、寅さん二次創作ストーリーを容易に生み出せるかもしれない。

プロ作家の技量と、寅さんシリーズへの深い愛が感じられる好著

本書の監修を務めたのは、映画評論家の川本三郎氏。そして執筆は、第2・第3・第4章を旅行作家の岡村直樹氏、第1・第5章を歴史紀行作家の藤井勝彦氏が担当している。

三氏はもちろん自他共に認める筋金入りの寅さんファンであり、寅さんシリーズへの深い愛情が、プロ作家の確かな技量で全編にわたって展開されている。

『男はつらいよ』シリーズにハマると、1作品を見終わったそばから次の作品が見たくなり、口調はいつしか寅さん風になり、シリーズのことをもっともっと知りたいと思うようになる。本書はそんな「寅さん沼にハマりかけている人」を、さらに沼の奥底へとズブズブ追いやってくれるような好テキストである。

   

 - 男はつらいよ書籍紹介