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『寅さんと麗しのマドンナたち』/吉村英夫

『男はつらいよ』を彩ったマドンナを切り口としながら、シリーズ各作品を考察していく珍しいコンセプトの寅さん本。

私は『寅さんと麗しのマドンナたち』というタイトルから、マドンナの性格や好みをプロファイリングするような下世話な内容を想像していたが、これはまったくの見当はずれ。本書はマドンナの人物設定や言動から、その背景にある山田洋次の思想や、作品のテーマにフォーカスをあてていく。マドンナ論というより実直な『男はつらいよ』作品論という印象だ。

寅さんのさくらに対する恋愛感情について言及するなど、筆者の思い入れが行き過ぎる持論が時折気になるものの、映画史や芸能史、ジェンダー史なども交えながら作品の背景を紐解いていく筆致は読み応え十分。

巻末には、筆者による山田洋次監督へのインタビューも収録されており、マドンナ論もさることながらこちらも充実の内容である。

インタビューでは、山田洋次のチャップリン評にはじまり、主役論、演技論と幅広く展開されるが、もっとも印象深いのはさくらを演じる倍賞千恵子への絶賛。渥美清と倍賞千恵子を、ピッチャーとキャッチャーの関係になぞらえ、二人なくしてはシリーズが成立しなかったことを語っている。

本書の最後には、第44作『寅次郎の告白』ロケの密着ルポも収録。渥美清の声は夕方になるとかすれるため、渥美の残業撮影はしないことになっていたなど、体調に配慮しながら製作を進めていた記述にはなかなかの臨場感がある。

吉村英夫
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