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『寅さんと日本人』/濱口惠俊・金児暁嗣

社会心理学の観点から国民的映画『男はつらいよ』を考察し、日本人の国民性を明らかにしようとするアカデミックなアプローチの寅さん本。

大学教授を中心に4名の研究者がテーマごとに執筆を担当。研究のため、総時間にして81時間21分、寅さん全作品をメモ片手に見たそうで「ある意味で苦痛に近かった」とあとがきで告白している。

本書では、学術的なアプローチから『男はつらいよ』の解析を試みている。たとえば、寅さんは社会心理学的にいうと「間人」型の日本人なのだという。以下引用。

 「個人」間の相互作用は、基本的にギブ・アンド・テイクの形を取る。そこでは取引的なかけひきがなされ(中略)自己の利益を極大化することが重要となる。これに対し「間人」どうしの間柄では、相手に対する信頼や相互依存が重んじられ、互いの関係それ自体が本質的に値打ちのあるものとされ、手段視されることはない。

『寅さんと日本人』/濱口惠俊・金児暁嗣 (17p)

寅さん映画は、”義理人情の世界”とよく言われるが、その理由をここまで明確に、かつ、過剰な思い入れもなく言い切れるのは、アカデミックなアプローチの寅さん本ならではだろう。

寅さんが「それをいっちゃあおしまいだよ!」とシャウトするのは、おいちゃんの「出て行け!」のひとことによって、相手への信頼によって成り立つ「間人」的な間柄が否定されてしまうという危機感からなのだ。

『男はつらいよ』の良さを言語化できずもどかしい思いをしている人にとって、社会心理学的なアプローチにもとづく本書の解説は面白い発見となるかもしれない。

内容とは関係ないが、蓬莱健司氏によるカバーイラストが秀逸な本書。私は思わずジャケ買いをしてしまった。

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